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【怪談】ポータブルCDプレーヤー

Kさん女性30代から聞いたお話。


Kさんが10代の頃、ポータブルCDプレイヤーが流行った。

当時はiPodやスマホが無かったため、CDとそのプレーヤーを持ち歩くというのが主流で、そのプレーヤーもまたなかなか高額だったので中高生が購入するにはなかなか難しかった。

が、ある日Kさんは中古ショップから格安でポータブルCDプレーヤーを購入する事が出来た。


それから、Kさんは登校する時も寝る時も肌身離さずプレーヤーを持ち歩くようになり、一日中イヤホンを耳に当ててCDを聞いていた。

なによりも、大学受験を控えていたKさんにとっては掛替えの無い相棒を手に入れたような気分で手放す事が出来なかったそうだ。


その頃から、Kさんに異常があらわれた。

妙に左手指先が痺れる。


勉強のし過ぎかな?など特に気には留めなかったが、日に日に症状は悪くなり、酷いときは左手全部が痺れてしまう事もあった。

周りからは、自律神経じゃないか首のヘルニアじゃないか等と言われて何カ所か病院に通ったものの特に異常は無かった。


それと同時期に、CDプレーヤーの調子も悪くなってきた。

度々、音楽の合間合間に音飛びするようになり「ボッ!」と低い雑音がするのだ。

酷いときには1曲に5度6度とあった。


嫌な事が続くなぁと思っていたある日、Kさんは2泊3日で家族旅行に行くこととなった。


遠方の祖父母の所に行くだけの旅行というより帰省だったが、気分転換には良いと思った。

祖父母の家に着いた時、Kさんは焦った。

確かにバッグに入れたと思っていたCDプレーヤーが無い。


どこかで落としたか。いや車中で一度も出してない。

という事は家に忘れたか。まさかどっかのドライブインで財布を出した時落としたのに気づかなかったか。


さすがにそこまでアホではない、前者だろうと思ったが、この祖父母の住む片田舎でNoMusicで過ごすのは退屈だろうと少し落ち込んだものの、それなりに田舎の探索や親戚の集まりは新鮮で楽しく数日を過ごせた。


何よりも、左手の痺れが一度も無かったのは嬉しかった。


そして田舎での数日も終わり、家族で家路についた。

車で高速を通っての帰り道、Kさんは「やはり気分転換とういのは大事だな」と感じたそうだ。


が、家の近くで高速を降りたあたりからまた左手が痺れ始めた。

家に近づくにつれ酷くなっていく。


親御さんは「受験のストレスだろう。現実に戻ってきたという実感がまた痺れを起こしているのだろう。何気に疲れも出ているのだろうから、帰ったらすぐ休め。」と言った。Kさんもそんなところだろうと思った。


家に着く頃には左手の痺れは、モノを掴む事さえ出来ないくらい酷い状況だった。


家人に玄関を開けてもらい、すぐさま自分の部屋へ行き、ベッドに飛び込もうとした。


あ、そういえばCDプレーヤーあるかな。


そう思いKさんは自室を見渡すと、机の上に置かれたままになっていた。

あ~良かった~!と胸を撫でおろした瞬間、Kさんは違和感に襲われた。


なんだ?


よくよくCDプレーヤーを見てみると、電源の緑のランプが光っている。

ディスプレイにはCD再生中の表示。

しっかりとは覚えていないが73曲目という異様な数字。

私もKさんも、当時そこまで楽曲が入っているCDというのはさほど無い。


あれ?何のCD入ってたっけ?


そう思いKさんがCDプレーヤーに近づいたところ、プレーヤーに繋いだままのイヤホンから曲の音が漏れていた。


Kさんはイヤホンを手に取り、耳へ当てた。

耳に当てるまでのたった数秒でKさんは様々な思考が巡り恐怖を感じたという。

「やっぱりこんな曲数がはいってるCD持ってないよな。」

「数日間再生しっぱなし?いやコンセントに繋がってなかったよな?」

「そんなにバッテリー持つか?」

「イヤホンから音漏れしてた曲…いや曲というより…」


そんな事を思いながらイヤホンに耳を当てると聞こえてきたのは



「ボオオオオオウウウアアアアアッボオオオオオオゥゥゥアアアアア」


というノイズだった。

例の音飛びしたときに聞こえる雑音。それがずっと流れたままの状態だったのだ。

いや、ノイズというよりは、男がマイクに向かって叫んで音割れしているような音。


Kさんは驚愕と恐怖でイヤホンを取っ払ったが、その音を聞いた瞬間、Kさんの左手の痺れは激痛に変わり、あまりの痛さの為に倒れ込んでしまった。


まるで左手全体を何千本と言う針に刺されは抜かれてまた刺されという痛みが襲ったため、Kさんは悲鳴をあげながらノタウチ回るしか出来なかった。


死ぬ!死ぬ!おかしくなってしまう!


Kさんは命の危機を感じた。


その時、異変を感じた父親がKさんの部屋に飛び込んできた。

「どうした!何があった!」


父親はKさんを見ると、すぐさま階下にいるだろう母親に「かあさん!救急車呼べ!Kがやばい!」

と叫んだ。


しかしKさんは激痛で朦朧とする中、この原因はCDプレーヤーだと分かっていた為、必死に父に訴えた。

「とうさあぁぁぁん!それ!それ壊して!CDプレーヤー壊してぇぇぇぇ!!」


父親はパニック状態だったし、何より目の前で苦しんでいる娘が訴えている、それで娘の気が楽になるなら、と思ったかどうかはわからないが、父親は「コレか!?」と言って机からCDプレーヤーを手にすると床に叩きつけると、何度も何度も踏みつけた。


激痛で意識が朦朧とする中、父親が破壊しているプレーヤーを横目に見ていたが、ばらばらになっていくプレーヤー、やはりその中にCDが入っていなかったのを確認できたのはハッキリと記憶に残っていると語っていた。


すると激痛は嘘のように引いていき、少しの痺れだけが残った。

あ、治った。と体を持ち上げると、父親は「えぇ!なんで!?」と驚いた。


階下から上がってきた母親は「どうしたの!?」と状況を見て驚いていた。

今起こった出来事も、夫婦揃って目を真ん丸にしてKさんを見ていたのも、何かのコントみたいで現実味が全く無かったと笑いながら語っていた。


まだ痺れが残っていたものの、Kさんは両親にすべて伝えた。

母親は何か精神的なもの疑っていたようだったが、オカルト系にノリノリな父は「うわぁマジか!呪われてるじゃん!」とウキウキしていたそうだ。


その後の話し合いで、本当はそういうお寺か神社に持ち込むのが良いのだろうが近くに無さそうだから、次の日、粗塩に包んで父がプレーヤーを焼くという事になった。


次の日、Kさんは若干の痺れと共に塾に向かったそうだが、昼頃にピタリと痺れが無くなった。

「ああ、今、父が燃やしたんだな」と感じたそうだ。



Kさんは最後に、「今思えば、あのプレーヤーへの執着っておかしかったもんなぁ。憑りつかれかけてたのかな。あのまま使ってたらどうなってたんだろ。」と語ってくれた。


----------------【蛇足】----------------

Kさんからお話を聞かせて頂いてて、

『塾で勉強中、左手の痺れがピタリと止まり、「ああ、今、父が燃やしたんだな」で終わり』かと思ってたのですが…


Kさんは夕方、塾から家に帰り、「お父さん、燃やしてくれたんだね!」と父に話しかけると父は「いや、これから一緒に燃やしに行くぞ!」といって河原で塩を撒きながらプレーヤーを焼いたそうだ。


いや『ピタリと止まった』のくだりナニーーー??


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