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【怪談】母の声

Aさん女性の話し。
20年ほど前、Aさんがまだ小学3〜4年生の頃の出来事。

Aさんの両親は共働きだったため放課後は夕方まで1人で留守番をしている事が多々あったそうな。

その日も留守番をしながら2階の自室でだらだら過ごしていた。
時計を見たらもう17時頃で、そろそろ母がパートから戻ってくる時間だと思いながら漫画の続きを読んでいたそうだ。
すると、家の外から母が自分を呼ぶ声がする。

「Aちゃーん」

と一回だけ。
ご飯を知らせる時のような、怒ってるでも無いが大きい声で呼んでいるような。
それは微かに、というよりはハッキリ聞こえるが何かをしていたら聞こえないかもしれないくらいの大きさで聞こえた。
形容し難いとAさんは話していたが、あれ?外で呼んでる?と思い窓を開けて下の玄関を見た。

しかし玄関や向かいの通りには母の姿は無かった。知らない人や近所の人らがまばらに歩いているだけであった。

Aさんは気のせいかと思い、座布団に座り直し漫画の続きを読み始めた。

誰に言うわけでも無く、何となく無意味な行動をしてしまった自分へなのか聞こえてきた母の声になのかはわからないが、Aさんは漫画を読みながらポツリと「ママったら…」と呟いたそうだ。

何言ってんだワタシと思いフッと一笑してまた漫画に意識を戻したその瞬間、後ろにあるクローゼットの中から母の声で


「なぁ~にぃ~?」


と返事が聞こえた。

Aさんは驚きと恐怖のあまり固まってしまったそうだ。


その声は間違いなく母のものであったが、抑揚のない、まるでテレビを見ながらおやつをつまんでる母に「ねぇ」と話しかけたときの、他に気が向いてる時のような返事だったそうだ。


Aさんは驚いた時にピンと張った背筋で正面にある窓を見つめたまま漫画を持って座った態勢で固まったままだった。

が、直感的にヤバイ事が起こっているのは理解していた。

「ぃあぁぁいあぁい」と言葉にならない震え声を発してAさんは部屋を駆けだした。

部屋から飛び出し階段を駆け下り家を出ようと裸足のまま玄関に向かった。

今まさに玄関の扉を開けようとした瞬間、玄関が勝手に開いた。

開けたのは帰ってきた母だった。


Aさんはドアノブに手を掛けようした態勢のまま母を見上げ口を開いたままポカンと固まっていた。


しかし何故か、自分よりも母の方が息が上がっていた。

母は、息を切らしながら肩を大きく上下させ不安そうな表情でAさんを見ていた。母は

「なんかあった!?」

ととても心配そうに叫んだそうだ。


Aさんは理解が追い付かなく二,三秒そのまま固まっていたそうだが、恐怖やら何やら大泣きしてしまったそうだ。


母に事情を説明し二人でクローゼットを確認したが何もいなかったという。

それからその家で特に変わった事は無かったそうだが、母曰く、

あの時はものすごく嫌な予感がしたから走って帰ったのだそうだ。


Aさんが私にこの話をしてくれた時、あれはなんだったのか未だにわからないが、遠くから呼んですぐ近くにいるとかメリーさんみたいですねと笑っていた。


皆さんはご経験ないだろうか。小さい頃、夕方になると母の呼ぶ声が聞こえた事が。

または不安な時に、ふと大事な人が自分を呼んでるように思った事は。

私は、最初に呼んだ「Aちゃーん」というのは、心配した本物の母の思いが聞こえたものだと思っている。


しかしそうなると、クローゼットにいた怪異はいつからそこにいたのだろう?

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