「ふわふわのホットケーキ」に憧れて…
ホットケーキコンプレックス
「ふわふわのホットケーキ」
これに憧れて、23歳になった。
ホットケーキ自体は食べたことはある。
実家で母親が焼いていたものは、正直なところ到底「ふわふわ」とはほど遠いものだった。
水分がなく、口の中が乾くので、あまり好きではなかった。
もちろん子どもながらに自分でも焼いてみたり、1人暮らしを始めても幾度か挑戦した。
結果は惨敗。なかなかパッケージの写真通りには出来上がらず、できたのは、中が生焼けでべちゃっとしていたり、焦げの味がしたり、味はおいしいがぺちゃんこだったり。
私は見事に、「ホットケーキコンプレックス」状態。
余談だが、おしゃれなカフェで食べる「パンケーキ」はすごくふわふわ。
作ってみたい!と思ったが、そもそもお店の「パンケーキ」とやらは作り方が違ったり、ホットケーキミックスを使ってなかったり、メレンゲが必要だったりと、正直家で食べるものとは別物だとわかった。
これにもしょんぼり。
現在のパートナーのぽんさんと付き合いだして去年ぐらい、これまたホットケーキ作りに挑戦。
きれいに作ってぽんさんに褒められたい!と意気込んだ私だったが、結局いつもの通り、出来上がったのはお世辞にもふわふわなんかではなく、べちゃっと平たくて、中は生焼けで、焦げの味がした。
「味は美味しいね」と虚勢を張ったが、ホットケーキは膨らまず、私のコンプレックスはますます膨らむ。
しばらく、ホットケーキから離れた生活を送っていた。
(実を言うと「ホットケーキミックス」とは打ち解けていて、よくお菓子作りにはお世話になっていた。正規品としての作り方をマスターできてないのも、なんだかもやもやした感覚だった)
ある出会い
「ホットケーキコンプレックス」をこじらせた私は、ふと本屋さんでこんな本を見つけた。
「ホットケーキミックスだからおいしいお菓子」
著者 ホットケーキさん。
お菓子コーナーでこの本を見つけ、当初は
「ほーんええやん」
ぐらいにしか感じず、ぱらぱらとめくって興味を示した程度だった。
ただそこで、この著者ホットケーキさん。がYoutubeをしているとのことだったので、帰宅してから見てみることにした。
そこで出会ったのだ。
この動画に。
再生数が多いので、ご存じの人も多いと思う。
見たことない人は、あえて私は説明しないので、一度動画を見て欲しい。
これを見ると、本当に既存の材料とコツをつかむだけで、メレンゲも使わず、ふわふわのホットケーキを作れるのだ。
これには当初衝撃を受けた。
「こんな簡単にできるなんてうそやろ…! 今までのわいの苦労はなんやったんや…!」
むくむくと、ホットケーキ欲が湧いてきた私。
だが、そこで「実際にやってみよう」とまでは至らず。
しかしそんな私に、ある試練が訪れたのだ。
突然の「やってみた」
私きりしまは現在、とある放課後等デイサービスでアルバイトをしている。
(ざっくりだが放課後等デイサービスとは、発達障害や身体障害など、障害を抱える子どもを放課後預かる施設のことである)
そこではベテランの職員さんが、手作りで簡易的なおやつを毎日準備していた。
とある日、その方がお休みだったのだ。
そしてその日のおやつは「ホットケーキ」だった。
放課後等デイサービスは、学校が終わった子どもたちを車で迎えにいくのだが、私はペーパードライバーで運転ができないので、施設で子どもたちを待つことに。
そこで投げかけられた言葉だった。
「それじゃ私たち送迎に行きますので、きりしまさんホットケーキお願いしますね~」
え?
ホットケーキコンプレックスの私が、他人の子どもに急にホットケーキを焼くというとんでもない提案だった。
もちろん他の職員さんは私のホットケーキコンプレックスを知ってる訳がない。もう1人残っている職員さんもいたが、その人はトッピングのバナナを切って準備していた。
私は試練だと思った。
これは試練なのだ。
そして、ゆっくり思い出していた。
先ほどの動画を。
大丈夫。できる。やれる。
携帯のタイマーを脇において、私は動画のコツを実践し、ホットケーキを焼いた。先に卵と牛乳をとき、ホットケーキミックスを加え、もったりさせる、混ぜすぎない。
施設のガスコンロは火が強く焦げやすいため、動画の時間よりも少し短めに焼いたほうがよさそうだ。
火加減がわからず、最初の2枚は若干焦がしてしまった。だがその後は順調にできたし、昔に作ってきたものより、見た目が明らかに違った。
圧倒的に、膨らんでいるのだ。
まず生地を流し入れ、表面がふつふつ穴が空いてきてひっくり返す。
ひっくり返すと、柴犬色の焼き目。
そして、側面がぷくっと膨らんで厚くなっていくのだ。
動画の通りだ、これには私も感嘆の声を漏らすしかなかった。
「膨らんでいる…!! 分厚い…!」
他の職員さんからも、「すごい分厚くできたね!」と褒められた。
子どもたちには、バナナとチョコレートソースをかけて食べてもらった。
ほとんどの子どもが「うまいうまい」と、おかわりをしてくれた。
勤務後、ホットケーキはいくつか余っていたため、職員みんなでたべることになった。
私は自分が作ったものながら、一口目で衝撃を受けた。
見た目通り膨らんでいて分厚くて、時間が経ってもふわふわしていたのだ。
美味しそうに食べる子どもたちを思い出し、1人で胸をなで下ろし、思った。
「ホットケーキ」ってこういうものだよな、と。
「ぐりとぐら」はカステラだけれど、ふわふわのカステラを、森の仲間達を囲んで、幸せそうに食べていた。
そうだ、ホットケーキって、ふわふわで、幸せの象徴なんだと。
このとき、私の「ホットケーキコンプレックス」は、終わったのだ。
これが私の「やってみた」である。
後日、また「やってみた」
このことを帰ってからすぐぽんさんに報告した。
ぽんさんは半信半疑そうだったし、私自身も一回きりだったので、実際にできることを証明するために、お休みの日にホットケーキを作ることになった。
ぽんさんは、私の隣でわくわくしながら待っていた。
そして、喜びの声が聞こえた。
「すごい膨らんでる!」
そして、2回目もできた。
ふわふわのホットケーキが。
2人で「ふわふわ~」とほおばるホットケーキは、文字通り幸せの味がした。
そんなこんなで、私の「ホットケーキコンプレックス」を解消した、私の「やってみた」でした。
ホットケーキさん。ありがとうございました。
毎日のコーヒー代に。