雪町

自転車は吹きさらしの畦道を行く

体中のすきまというすきまから侵入するものたちの中には

かろうじていくつかの情報もある


ろう梅の匂い

麺を茹でる匂い

水の匂いを待っているのだが


公園の入口で自転車を止める

黙りこんだ空が低い

裸木の先端で突くが返答はない


軒先に吊るした林檎はもう乾いたか

あの白い花の名は何

あの人への手紙はもう届いたか

疑問符たちが解凍されてそこらに散らばる


中指の指紋を盗られたのは

焚き火にあたりすぎたためだな、と思い当たる

町に戻る決心がつく

きっとあちらでも今、雪待ちの模様


(石渡紀美詩集1999-2009下『あたらしいおんがく』より)


楽しいことをしていきます。ご一緒できたら、ほんとにうれしいです!