ばらの花

見上げれば空

大半が空

大量の雲たちが

私たちを見下ろしている


私たちの体は1ミリも宙に浮かばない

曲がり角では

右、左、右

を繰り返し

小石ひとつにも注意を払って

それでいて

いちばん近くにいるひとには石のような言葉を投げつけてしまう


上を向くことを忘れた日々にも

雲は生まれ 流れていく


「ゆうくん、お花の絵、描いて」

児童館でもくもくと遊ぶ子どもには母親の声は届かない

「ママは、ばらの花が好きだな」

髪を長くして、きちんと化粧して

若すぎず

といってそれほど年がいっているわけでもなさそうな母親の

たぶん、私だけが聞いていた

ばらの花が好きなのか

と思った


彼女に関するただひとつの情報

ばらの花が好き

そのことを

何年かたって、街中で彼女とすれ違った時に

はっとした彼女の顔をみて

瞬時に思い出す


ばらの花が好きな母親に育てられた子どもは

何事もなければ私の息子と同じ年に達しているはずである

その子どもは

母親が好きな花のことを

今は知っているのだろうか

楽しいことをしていきます。ご一緒できたら、ほんとにうれしいです!