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「Poor Economics」から vol.2

こんにちは(*'▽')

大震災の復興支援費は、ほんとうに被災者や被災地に回っているのかな? コロナ感染拡大防止の予算は、ほんとうに医療従事者や医療現場・必要資材の購入に回っているのかな? 粉骨砕身で尽力してる人たちとは全く関係ない人の懐にスルッと入っていってしまってないかな…??


最高の意図と配慮をもって構築された政策も、きちんと実施されなければ効果は持たないでしょう。残念ながら、意図と実施とのギャップはかなり大きなものだったりします。政府の数多い欠陥は、よい政策が実際にはうまく機能しない理由として挙げられます。外国援助などで部外者が社会政策を左右しようと試みても、貧困国の状況を改善するどころかひどくしかねない理由として、開発援助の懐疑派たちは昔から政府の無能ぶりを挙げてきました。

ウガンダ政府は学校に対し、生徒1人当たりいくらという形で補助金を出し、建物の維持管理、教科書購入、生徒が必要な他の追加プログラム予算にあてるよう手配しています(教師の給料は予算から直接支払われます)。1996年にリトヴァ・レイニッカとヤコブ・スヴェンソンは、単純な疑問に答えようと調査に乗り出しました。中央政府が学校に割り当てたこの資金のうち、実際に学校の手に渡るのはいくらなのでしょうか? 別に手のこんだ調査ではありません。それぞれの学校に調査チームを派遣して、いくら受け取ったか尋ねたのです。そして数字を送金額のコンピュータ記録と照らし合わせてみました。結果はまさに驚愕でした。資金のうち学校に届いたのはたった13パーセント。半数以上の学校は一銭も受け取っていません。調べてみると、多くのお金はどうも地区の役人の懐に納まったようでした。

こんな結果(これは他の数カ国の調査でも追認されています)を見たら、どうしても落胆してしまいます。わたしたちはよく、なぜそんなことをやっているのかと尋ねられます。「どうでもいい話では?」というわけです。そういうのはぜんぶ「些末な」問題ではないのか、と。例えばウィリアム・イースタリ―はブログで以下のようにランダム化対照試行(RCT)を批判しています。「RCTは開発における大きな問題では実施不可能だ。例えばよい制度が経済全体に与える影響やよいマクロ経済政策の効果などだ」。そしてこう結論づけます。「RCTを採用したことで、開発研究者たちの志が下がってしまった」

この発言は、今日の開発経済学ではかなり有力な制度学派の見方をよくあらわしています。この見方によれば、真の問題はよい政策が何かを突き止めることではないのです。それは政治的なプロセスをきちんとすることです。もし政治がちゃんとしていれば、正しい政策がいずれ生じます。逆によい政治がなければ、まともに計測できる形でよい政策を設計したり実施したりするのは不可能です。学校に1ドルかける最高の方法を突き止めても、どのみちそのうち87セントが学校に届かないなら意味がありません。そこからの結論(と思われているもの)として、「大きな問題」には「大きな答え」が必要だ――社会革命、例えば有効な民主主義への移行が必要なのだ、ということになります。

反対の極論として、ジェフリー・サックスは(まあ当然かもしれませんが)汚職を貧困の罠だと考えます。貧困が汚職を生み出し、汚職が貧困を生み出すというのです。彼の提案は、発展途上国の人々をいまほど貧乏でなくすることにより、貧困の罠を破ることです。援助は具体的な目標(例えばマラリア根絶、食糧生産、安全な飲料水、下水処理など)で簡単にモニタリングできるものに提供されるべきです。生活水準が上がれば、市民社会や政府が強化されて、法治が維持されやすくなる、とサックスは論じます。

これには、そうしたプログラムを貧困な汚職国で大規模にうまく実施できるということが前提になります。トランスペアレンシー・インターナショナルの2010年の調査によれば、ウガンダは汚職度で178カ国中127位でした(ナイジェリアよりましで、シリアやニカラグアと同列、エリトリアよりはダメ)。ウガンダは、汚職というもっと大きな問題を解決しないと、教育でまったく進歩ができないのでしょうか?

でも、レイニッカとスヴェンソンのお話には、おもしろいオチがあるのです。彼らの調査結果がウガンダで発表されると、怒りの声がわき起こり、結果として財務省は主要な全国紙(とその地元言語版)に、毎月それぞれの地区に向けて学校用にいくら送金したかを発表するようになったのです。2001年にレイニッカとスヴェンソンが学校調査を繰り返してみると、学校は自由に使える資金のうち平均で80パーセントを受け取るようになっていました。本来もらえるはずの金額以下しか受け取らなかった学校の校長のうち半数は正式な苦情を提出し、やがてそのほとんどは予定通りの金額を受け取りました。彼らが何か報復を受けたという報告はありませんし、そのニュースを流した新聞も特に嫌がらせは受けませんでした。どうも地区の役人は、だれも見ていなければ喜んで横領しましたが、それが難しくなったからやめたようです。政府資金の包括的な横領が可能だったのはどうもだれもそれを気にしていなかったからというのが主な原因だったようです。

ウガンダの校長たちは、わくわくするような可能性を示唆しています。もし地方の校長先生が汚職と戦えるなら、よい政策を実施するのに、政府の転覆だの社会の根本的な変革だのを待つ必要はないのかもしれません。慎重に考えて厳密に評価すれば、汚職と非効率を抑えるようなシステム設計の役に立ちます。わたしたちの「志が下がった」わけではありません。小刻みの進歩とこうした小さな変化を積み重ねれば、時には静かな革命だって起こるのだ、とわたしたちは信じているのです。

アビジット・V・バナジー & エスター・デュフロ

『貧乏人の経済学 もういちど貧困問題を根っこから考える』(原題:Poor Economics―A Radical Rethinking of the Way to Fight Global Poverty、みすず書房、2012年)より


国際NGO、トランスペアレンシー・インターナショナルの汚職認識指数というの、初めて知りました。ためしに日本を調べてみると、19位/180カ国(2020年)でした。この結果の是非はよくわかりませんが、もうすこし順位は下なのかと思っていました、感覚的に。

「(第二に、)貧乏な人は自分の人生のあまりに多くの側面について責任を背負いこんでいます。金持ちになればなるほど、だれかが “正しい” 判断を代わりに下してくれます。貧乏人には水道がなく、地方政府が水道に入れてくれる塩素消毒の恩恵を受けられません。きれいな飲料水がほしければ、自分で浄水しなくてはならないのです。栄養満点の出来合い朝食シリアルは買えないので、自分や子供が十分な栄養素を得ていることを、自分で確認しなくてはなりません。退職年金天引き制度や社会保障料天引きなど、自動的に貯蓄する方法もないので、自分が確実に貯金するような方法を考案しなければなりません。こうした意思決定はだれにとっても難しいのです。いま考えたり、その他今日ちょっとした費用が必要で、その便益を回収できるのははるか将来のことだからです。だから、すぐに先送り傾向が邪魔になってきます。貧乏人たちにとっては、人生がすでにわたしたちよりずっと面倒なので、さらに事態は悪化します。多くはきわめて競争の激しい産業で、小事業を営んでいます。それ以外の人々は日雇い労働者で、次の仕事がどこで見つかるか、絶えず心配を強いられます。これはつまり、すでに正しいとわかっていることをできるだけ実行しやすくすれば、彼らの人生は大幅に改善できるということです。そのためには、デフォルトの選択肢とちょっとしたあと押しですみます。鉄分とヨウ素を強化した塩はずいぶん安く作れるので、みんながそれを買うようにできます。預金は簡単だけれど引き出すのはちょっとコストがかかるような貯蓄口座は、必要なら銀行側の費用を補助すれば、みんなに提供できます。水道が高価すぎても、あらゆる水源の隣に塩素を配置することはできます。こうした例はたくさんあるのです。」p.349-350

わたし(達)が安全な飲料水・社会制度・栄養保証されている食べ物などを当たり前に享受しているがために、日々意識しないですんでいて、その分集中して学業や家事・仕事、だれかのお世話などに邁進できる状況をつくり出せていた、というのは覚えておいていいことなのかな、と感じます…(*´Д`) それを無自覚に、上から目線で「怠けている」と決めつけるとしたら、それはいかがなものか?と。

「3I問題」というのがあるようです。政策の失敗は、担当者の「こうであってほしい(例えば、看護師とは非常に献身的なソーシャルワーカーだ!)」というイデオロギー(ideology)に基づき、現場の状況を知らない(ignorance)まま、紙(データ・机上)の上だけでも生き延び続けてしまう惰性(inertia)によるもので、システムを考える人は善意で決めたことでも、それが現場に何を要求するものかについてはあまり考察されないから、というもの。

本書の一貫して主張している哲学というのが、「細部を見過ごさず、人びとの意思決定方法を理解して、実験を恐れず」というものらしいのですが、その地域の市井の人のつぶやきみたいなものに、じつは真実というか、解決の本質が隠されているのかもしれません。

でも、魔法の逆転解決方法なんてなくて、地道に試行錯誤しながらよくしてこう!!というスタンスが基本なんですね…(^^)

Let's look at also the process of the projects, not only the effect ☆

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