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夢想力、妄想力、イメトレについて

こんにちは(^^)

いつか駅から近い個人ギャラリーで演奏を聴いたときのこと。プログラムの前半が終わり、休憩時間をとります!となったとき、オーナーさんが「お手洗いが一つしかないので、駅ビルのトイレを借りてきてくださいね」とあまりにも自然に案内されていたので、「まるで駅ビルがギャラリーの別館みたいだなぁ(>▽<)」と一人妄想して面白がっていたことがあります。


「この考え方は、さすが落語だな!」

 そう唸ってしまう「不動坊ふどうぼう」という噺があります。

 品行方正で知られる吉兵衛のところに、ある日大家が縁談を持ち込んできます。

 最近急死した講釈師・不動坊火焔かえんの残した女房・お滝が、「亡き夫の借金を肩代わりしてくれる人と縁づきたい」と、再婚相手を探しているというのです。

 吉兵衛が二つ返事で承諾したところ、その夜が祝言となり、あわてて湯屋に飛び込みます。嬉しさに舞い上がった吉兵衛がは、湯船の中で一人二役の芝居を始めることに。

「お滝さんは、あたしが本当に好きで来たのですか? この長屋には独り者が大勢いますよ。鍛冶屋の鉄つぁんはどうですか?」

「イヤですよ。日に焼けすぎて、顔の裏表がはっきりしない人なんて」

「じゃあ、き返し屋の徳さんは?」

「あの人、ちり紙に目鼻みたいな顔でしょう?」

「吉兵衛とお滝が、長屋の独身男らをこっぴどくディスっていく」という架空のやりとりを湯船の中で演じたものだから、さあ大変。悪口を耳にした独身男らはタッグを組み、吉兵衛への報復を試みます。

 相談の結果、「亡くなった不動坊の幽霊を吉兵衛の家に出して、お滝と別れるよう工作しよう」ということに。

 天井から幽霊を吊り下ろす……という筋書きです。

 え?「どんなオチなのか?」ですって? それは実際にきいてみてくださいね。

 さて、この噺で注目していただきたいのは、再婚話を持ちかけられる前の時期の、吉兵衛の「意中の人に対する考え方」です。

 噺の粗筋だけ紹介するような書籍やネット上の記事では、なかなか触れられていない箇所なので、落語好きな方や、本業の落語家でないとご存じないと思いますが……。

 噺の冒頭で、吉兵衛が大家に縁談を持ち込まれたとき、「いや、あれはもともと、あっしのカミさんでして」と返すのです。

 困惑した大家が真意を尋ねると、吉兵衛はこう説明します。

「生前の不動坊と、お滝を初めて見たとき、『ああ、いい女だなぁ、あいつのカミさんなのか』と思うと、頭がおかしくなりそうだった。だから考え方を変えて『お滝っていうのは、本当は俺の女房なんだけれども、今忙しいんで不動坊の馬鹿に貸してやっているんだ』と思うようにしたのです」

 つまり吉兵衛は、恋心に苦しまなくてもいいように、“自分に都合よく” 発想を180度変えて、現実を捉えていたわけです。

 他人の配偶者を「自分のもの」と夢想するなんて “危ない人” とも言えますが……。

 口に出さない限りは、誰も傷つけないわけですし、吉兵衛の心も安らかになるのなら、ひとつの処世術としては、それもアリなのかもしれません(少なくともストーカーになってしまうよりかは、マシでしょう)。

 このように、好きな人を自分の配偶者として認識してしまう「吉兵衛流ポジティブ思考法」は、究極のプラス思考です。それは、広く言えば「自分で自分をほめること」とも解釈できるのではないでしょうか。

 現代の私たちも、この吉兵衛の考え方を利用すると、より幸せになれるはずです。

 何も難しいことはありません。常に「大丈夫、大丈夫」「お前はよくやっている」と、自分を認めたりほめたりする言葉を、脳内で繰り返せばいいのです。

 たとえ(上司などに)理不尽なことを言われても、すかさず「俺! よく耐えた!」と我が身をほめて労れば “テンションの無益なダダ下がり” も防げます。

 もちろん、落語の吉兵衛のように、「嫉妬対策」としても有効です。

 豪邸に暮らす大金持ちをテレビ番組でたまたま見かけて、羨んでしまいそうになったら……。

「あの豪邸は、本当は俺の資産だけど、今忙しいのであの男に貸してやっているんだ」

 二枚目の人気俳優を見て我が身との差に悲しくなったときは……。

「俺が色男だと、あいつの立場はなくなるもんな。俺は生まれてくるときに、『二枚目で行く』という路線をあいつに譲ってやったんだ」

「自分でも走れそうな短距離走」のレースで、世界記録を出した選手を見て、羨望の気持ちが湧いてきたときは……。

「俺の足が速かったら、あの選手の立場がなくなるもんな。俺は生まれてくるときに、自分の走る才能を、あいつに譲ってやったんだ」

 いかがでしょう。もはや酔狂すぎて、嫉妬の念などどこかに吹っ飛んでしまうでしょう? この域までくると笑うしかありません。

 大いなる遺産・落語から学ぶ、「吉兵衛流ポジティブ思考法」、ぜひお試しを(笑)。

立川談慶

『仕事も人間関係も生きいき苦しい人のための 落語に学ぶ粗忽者そこつものの思考』(WAVE出版、2021年)より


自分のこと、妄想世界に精通している!と自負してました。歌ってる途中でカラダ揺れてるの直そうと思ったとき、「紅白歌合戦の小林幸子さんみたく凄いセットを組んでもらって歌うときに、ゆらゆら歌ってたら、いくらスタッフの方が安全性に配慮してくれたとしても危ないもんね…♪」とのイメージを使いました。…けど、吉兵衛には負けた、完敗です…(>_<)

さて、つぎはどんな妄想をしましょかね…(*^^*)

Fantasy can save you ☆

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