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不正投票が蔓延、彼の国で

こんにちは('▽'*)

ロシアのことを知ろうとしたら、投票所で行われている(いた)ことの証言を読むことができました。公的組織ぐるみで、はぁ、そのようなことが、むむぅ…(>_<)


 2008年1月3日、モスクワ市に滞在中のわたしははじめて証言者と面会することになった。
「投票現場でこんなに不正が蔓延しているなんてびっくりしたーー」
 と彼女は率直に振り返った。彼女の名はガリーナ・ヴラジーミロヴナ。
 モスクワ市内のある区役所に勤務する自治体職員で、年齢は50歳。濃い目の化粧が強烈な印象をあたえるが、笑顔は若いころの無邪気さを彷彿させる。

 いまでも強烈な印象として残っているのは、投票用紙を差し出す選挙管理委員会職員の男性の手が大きく震えていたことです。
 投票所に入ったところの受付の椅子に、その男性が座っていました。わたしたち四人の「部隊」はひとりずつ並んで、ある区議会議員の名刺をはさんだ国内パスポート(身分証明書)を手渡しました。
 男性は一瞬、当惑した表情でその名刺に目をとめました。かれは、すぐに横目で周囲の人たちの動きを追いました。その名刺に誰も気づいていないことを確認すると、手元の選挙人名簿に目を落としました。その男性は名簿に記載されている適当な有権者を選び、その人の欄にパスポート番号を記入し、そして震える手で投票用紙をくれました。

 2007年12月2日に実施された下院選挙の投票所で、選挙管理委員会職員と結託して他人になりすまし、不正に投票用紙を受けとったというのである。話のなかに出てくるパスポートとは、17歳になったロシア人に付与される国内向けの身分証明書のこと。投票所では選挙管理委員会職員が有権者本人を確認するために必要なのである。
 選挙後にプーチンは〈統一ロシア〉の勝利を派手に宣言することになるが、かれの自信とは対照的に「男性の手が大きく震えていた」という話はとても衝撃的だった。

 アレクセーイは両手を大きく広げ、不満の表情を浮かべる。問題は金額の少なさだけではなく、かれらの犠牲にたいする議員をはじめとする当局の人たちからの感謝の気持ちが伝えられないことにもあるようだ。先にガリーナ・ヴラジーミロヴナが心情を率直に吐露したように、不正行為に手を染めてしまったという精神的なダメージはそう簡単に拭うことはできない。
 彼女たちは金銭の授受を無事に終わらせ、帰宅の途についた。外はとても寒く、四人はガリーナ・ヴラジーミロヴナの住むアパートに向かった。すでに23時をまわっていた。かれらは早朝6時に起床しており、17時間に及ぶ緊張を強いられたことになる。
 かれらは、食卓を囲んで「きょう一日の仕事が無事に終了したことを祝ってウォッカで乾杯した」という。その席で四人が交わした会話はアレクセーイの記憶によれば、以下の内容だった。

 
わたしたちは、ロシアの選挙の実態を知って驚きました。まさかこんなに不正が蔓延しているなんて、想像もしていませんでした。ルシコフ・モスクワ市長はロシア全土の〈統一ロシア〉の得票率は60%を超えるだろうと喜んでいましたが、その数字は有権者のほんとうの意を反映しているように思えません。
〈統一ロシア〉がどんなに活発な選挙運動を展開しても、そのような得票率にはなりません。わたしたちのような不正投票が数字を押し上げているのです。もちろんどれだけの不正票が投じられたかについて、わたしたちにはわかりませんが。

 ガリーナ・ヴラジーミロヴナの実感としても同様に、不正投票が〈統一ロシア〉の高い得票率をもたらしているという。もちろん彼女自身は不正の全体像を把握しているわけではないが、それでもじっさいにそうした選挙にかかわった人の発言だけに、説得力があるのはたしかだ。
 彼女は八年前にプーチン政権の誕生を喜び、政局の安定を歓迎してきた。だが今回の下院選挙では、そのような表向きの安定の裏を見たわけである。結果的にプーチン政権に不信感をいだくようになった。

 それにしてもなぜ、ガリーナ・ヴラジーミロヴナは不正選挙に関与することになったのであろうか。
 先に、議員からの要請を断りきれなかった理由として区長からの脅しに言及した。じつは区長の脅迫を試金石にして、区役所職員、区議会議員、教師などの忠誠心が争われたようである。不正行為という犠牲をいとわない従順さを区長のまえで発揮することで、かれらは自分の地位を確保できる。その貢献度が他人よりも大きければ大きいほど、自分の地位を高めることもできる。
 かれらは横に団結することなく、一人ひとりが忠誠心を競い合い、区長は求心力を高める。逆にいえば、区長は脅迫をとおして忠誠心の弱い公務員をあぶり出し、従順な公務員だけを選別する。まさに区長を中心に、政治的な同質性が強く、かれの指令を素直に聞き入れる人たちだけが行政を担うことになる。(つづく)

中村逸郎
『ロシアはどこに行くのか タンデム型デモクラシーの限界』(講談社現代新書、2008年)より


おかしいと感じていても、自分の置かれている立場で断るのは簡単ではないところ。不正に手を染めて精神的に大きな負荷を感じるのが、末端で現場にいる人たちであること。日本のニュースでも耳にしたことあるような気がします。
読んでいて、全体主義の密告がまかり通っている世界を描いた『一九八四』の息苦しさを思い出しました。

5年前から地元の選挙管理委員会で選挙があるたびにアルバイトしてますが、とりあえず不正を見聞きせず健康に働けているわたしは、実は幸せ者でした…!

I hope Russians can work and be healthy without injustice ☆


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