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「漂流郵便局」とは

こんにちは(^^)

背表紙をみて「…え?」と漫画のひとコマように首をかしげながら出逢った一冊です。巻末に「いつかのどこかのだれか」宛のハガキの書き方も載っていました。ふと、このnote.comに連載形式で書いているこの記事も、漂流郵便局に届く郵便と似ているなぁと思いました。


漂流郵便局(旧粟島郵便局)は、

瀬戸内海に浮かぶ小さなスクリュー形の島、

粟島(あわしま)のおへその部分にあります。

東西の海流がぶつかり、

日本最古の海員学校が存在したこの島には、かつて

たくさんの物、事、人が流れ着きました。

こちらは、届け先のわからない手紙を受け付ける郵便局です。

「漂流郵便局留め」で寄せられた手紙たちを

「漂流私書箱」に収めることで

いつか所在不明の存在に届くまで、手紙を漂わせてお預かりします。

過去/現在/未来

もの/こと/ひと

何宛でも受け付けます。

いつかのどこかのだれか宛の手紙が

いつかここにやってくるあなたに流れ着きますように。

漂流郵便局員

2013年の夏、粟島での滞在制作がはじまり、「漂う」とは何だろうと考えはじめました。手がかりをつかむために、毎日夕方の1時間を海で漂うことにしました。生まれてはじめてシュノーケルをつけ、浮かんで漂います。魚が通り過ぎたり、船からの波で砂が舞い上がり底が見えなくなったり、ずっと何も変わらなかったり、いろいろなことがありました。スカートをはいたまま浮かんでいると、波の繊細な動きがよくわかります。きっと人間の毛はこういう細かい気配に気付くためにあるのだと思いました。

海に漂っている状態は進む方向が定まっておらず、とくに移動もなければ、かといって固定もされていないので、初めは不安でさみしい気持ちになりました。まるで自分がどこに行っても行方不明、どこにあっても所在不明であるように思いました。そして同時に、郵便局にはじめて立ち入ったあの日に「自分も大きな流れの一部である」と感じた感覚ととても近いものがありました。漂流物が漂うように、郵便物や私自身、この島や星ですらも、どれも絶えず移動していて、固定されているものなどないのかもしれません。

ある日の海からの帰り道、この「さみしい」と「行方不明」という言葉はどちらも英語の“missing”に当てはまると気がつきました。そこで漂流郵便局の英語のタイトルを“MISSING POST OFFICE”にしようと決めました。

久保田沙耶

『漂流郵便局 届け先のわからない手紙、預かります』(小学館、2015年)より


どうやらこの方、瀬戸内国際芸術祭に向けて制作する作品のリサーチのため訪れた香川県三豊市の粟島で、波打ち際の漂流物や郵便設備が埃をかぶったままになった建物を目にしてインスピレーションを受けたもよう。芸術祭が終わっても、元アート作品として現存しているようです(2021年5月現在)。わたしが「いいな!」と思ったお葉書は以下に紹介。


100年後にわたしと同じ本を借りる人へ

2114年でも、この街に図書館はありますか? 貸出カードに書いてあるわたしの名前を見てどんなひとか想像したりしますか? 私が一番好きな本はミヒャエル・エンデの「モモ」です。私は図書館で貸出カードの知らない人の名前を読んで想像するのが好きです。この汚い字の男の子にはきっともう子供がいるとかこの女の子は勉強ができて美人に違いないとか。

だから100年後に、この本をわたしと同じように借りてわたしの名前を見て、色んな想像をするあなたに手紙を書いてみたいと思いました。未来はどんどん便利になっていくでしょう? でも図書館の中にはずっと本が並んでいて欲しいです。貸出カードで、わたしの名前を見つけて、いろんな想像をして欲しい。

100年後のあなたに。

同じ本が好きだから、きっと私たち友達になれるかもしれないね。


…なんと!! わたし、この方と友達になれそう♪ いや、これわたしか?(そんなことはないはずなんだけど…)と思いました。「モモ」好きだし、想像するのも好き。電子書籍が発達・普及しても、図書館の中に本がある状態がなくならないで欲しい、と願うとこも似ています。

久保田さんは500万年前の人類の祖先に宛てて手紙を書いていらっしゃいます。


宛先不明の、人間をはじめたものたちへ

あなたたちが星空を見上げて線を引きはじめたそのとき、

洞窟の暗闇で動植物の姿を岩壁に描きはじめたそのとき、

あなたたちは私たちになりました。

あなたたちが発明した、その「モチーフ」という究極の愛情表現は

今でも強く、私たちを私たちたらしめ続けています。

あれから500万年、まだやっていることは変わっていません。

相変わらず星々も、鉱石も、動物も、草花も、

正確なコミュニケーションを交わすには至らず、こちらに関心を持ってはくれません。

未だ応答のないなか、結果として私たちは

私たちの間で交わすコミュニケーション手段を異常成長させることになりました。

そして「コラージュ」という、自己内で夢を増幅させる方法を覚えました。

「モチーフ」から生まれた膨大な事象をただひたすらに切り貼りしながら

日々生きながらえる力を得て、消費しています。

そして今、ようやく私たちができること、私たちの使命は

この永遠のコラージュの詰め合わせを保存し、人間を超えるものへと託して

送り届けることなのだということがわかりはじめました。

私たちがあなたたちと彼らを繋ぐ中間の存在でしかないことを自覚した今、

あなたたちのまなざしに込められた限りない愛を改めて感じています。

だから私たちはあなたたちの描いた物語を何度でもなぞり、

まなざしを重ねながら、星々とともにあなたたちへも語りかけることを、

ただ一時もやめません。

私たちの中に溶けているあなたたちに

今こそ会えるのだと信じています。

はじめまして、そしてさようなら

漂流郵便局員


この隣に、2通目として「宛先不明の、人間を超えるものたちへ」という、「私たち人類がいなくなったその後に生まれてくるであろう次の存在に宛てた手紙」が載っています。1通目もよくわからないところがありますが、2通目もわかるようなわからないような不思議な内容です。ちょっと「新世紀ヱヴァンゲリヲン」の世界観に通じるところがあるよう。ご興味ありましたら、ぜひこの本を手に取ってみてください。

Let's write a letter like message in a bottle ☆

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