見出し画像

これからの「モノがモノとして存在する意味」について感じていること

先月、久しぶりに新しいインスタレーション作品を展示する機会があったのだけど、これを制作する傍らで僕なりにいろいろ考えたり方針転換した事を書き記しておこうと思う。

DoReMi Dominoについて

まず作品自体は、五線譜の上にドミノを立てると、そのドミノがパタパタとひとりでに倒れながら、そのメロディを奏でていくというもの。2オクターブの音域内ならメロディも自由で、五線譜に置いたとおりの音階 / 間隔で演奏してくれる。

種明かしという程ではないけど、ドミノにはそれぞれ磁石が埋め込まれていて、五線譜のステージ下を、音階の数だけあるリードスイッチ(磁気に反応してON/OFFする)とこれまた磁石の列が、内部を左から右へスキャナーヘッドみたいに移動することで、音階の読み取りとドミノが倒れるアクションを実現している。

検討過程でわかった事だが、磁石をかすめるようにリードスイッチを通過させると、ちょうど台風の目に入ったみたいに、磁石に最接近したところで一瞬リードスイッチがOFFになる。そのタイミングを拾うと、結構正確にドミノの位置を読み取ることができるのだ。

ドミノ自体に機能を持たせることへの囚われ

さて、ドミノがメロディを奏でる、、、という発想自体はかなり前から持っていた。でも最初は、ドミノに小さな鐘を仕込んで、それぞれが倒れる衝撃で音を鳴らそうとしていた。

ただ具体的に考えていくうちに、音階が聴き取りやすい高さで鳴る鐘をドミノサイズに小型化し(、、、っていうのは、物理的に結構難しそうで)なおかつそれでメロディを作ろうとしたら、たくさんの種類 x 数のドミノが要るから、あまり現実的なアイデアとは言えない事がわかった。

それからも僕はずっと、ドミノ自体に機能を持たせようとあれこれ考えた。センサーやスピーカーを仕込んで云々、、、みたいな事も考えたけど、ドミノそれぞれに電池を内蔵する必要がある時点でどうも許しがたかった。

そんなわけでかなりしばらくの間、メロディを奏でるドミノ案は放置されていた。

環境にセンシング機能が溶けていく

今年の始めにCESというテクノロジーの見本市みたいなところを見に行く機会があって、そこで知ったCherry Homeという介護見守りサービスがこれ。

https://cherryhome.ai/families

壁付のカメラで高齢者の転倒や注意が必要と思われる状態を画像認識で検知。プライバシー配慮のため、カメラ画像は通常棒人間に置き換えられ、家族や介護者のスマホに生活サマリーレポートを送ってくれる。行動の意味を機械が判断するので、例えば人が床で倒れている時はアラートしても、カウチに寝転んでいる時までアラートをたてる事はないという。

従来のアプローチなら、何かしらのセンサーを体に巻きつけていたはず。モノはいずれ環境か身体に溶けていくと随分前から言われていたけど、この例ではもう、センシング機能が環境に溶けようとしている。

これって、僕たちプロダクトデザイナーにとっては大変化で、なぜなら今までは、センシングするとか操作インターフェイスになる「モノ」がプロダクトとして存在して来たけど、これからは環境に置かれたカメラやマイクが、目となり耳となって、従来「モノ」が担っていた役割を代替するようになるから。

とはいえ、現状でどれだけ認識や意味推定ができるのかについては一杯課題があるだろうけど、カメラという結構汎用性の高そうなハードを通じて、その応用コストが落ちれば、爆発的に展開していくのは、時間の問題のように思える。やがてWiFiのように、各環境についているカメラと認識結果を自由に活用できるようなインフラが普及するかも知れないなって思うほど。

そうなれば、わざわざドミノが倒れた事を検出するために、専用の読取装置を仕込むなんてことすら、きっとナンセンスになるんだろなと。でもまぁ、とりあえず、今回の作品はドミノ自身でセンシングするんじゃなくて、環境側で認識させる方向に振り切ってみたのでした。

モノがモノとして存在すべき意味の変化

コーヒーメーカーみたいにその場で作る必要があるもの、何か物理的に働きかけが必要なものは、依然プロダクトとして残るだろうけど、そもそも「モノがモノとして存在すべき意味って何か?」と考えると、結構、触覚的な感性価値、、、触って心地いいとか、重さがしっくりくるとか、そういう事がもっとフォーカスさせるようになるんじゃないかと僕は思ってます。

そんなわけでDoReMi Dominoのピースは、ウォルナットを削り出してオイルで仕上げして、自分でいうのもなんだけど、とっても触り心地がいいのです^^  

追記:昨年の冬に書いたこの記事を、すっかり公開し忘れていたことに今ごろ気づいた。

画像1


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?