見出し画像

鉄のカーテンの内側から 4

4,経済制裁後のモスクワの日本企業とロシアの関係

時々、書きたい時に書きたい事を「鉄のカーテン」の内側から発信して行くシリーズ、本日は4本目。100本目指して頑張ります。その前に「鉄のカーテン」という言葉を知らない方もいたので、それはこういう事ですよというのをWikiのアドレスを貼っておきます。https://ja.wikipedia.org/wiki/鉄のカーテン  

現在、ロシアはウクライナに侵攻中であり、これは刻一刻と状況が変わるので、本日の記事は4月15日金曜日,日本時間で朝4時現在の記事、です。

今回は「経済制裁後のモスクワの日本企業とロシアの関係」について少し紹介したいと思います。

日本には外務省の発表する海外諸国における「危険情報」というのがあります。これは国の指定する正式な情報で、この危険度レベルを参考に日本の本社からの帰国指令が海外で働く現地の駐在員さんに出ます。ロシアは現在、この中の「危険レベル3」になっていて、戦地になっているウクライナやロシアの中のウクライナと国境を接する地域は、「危険レベル4」。「危険レベル4」は戦地とかの本当に危険な地域で、その手前の「危険レベル3」になると、大概の企業は現地の駐在員さんを引き上げる、という方向に動きます。特に今回はロシアが戦争当事国という事もあり、日本の企業の動きはとても速かったです。2月の後半にロシアが侵攻した後、日本人の駐在員さんが急いで帰国し始め、あれよあれよという間に現在は、通常の1割程度の残留日本人人口となってしまいました。西側諸国のブランドや会社もロシアから撤退していく中で、日本のユニクロも撤退していきました。ロシアには、マクドナルドもスターバックスもアデイダスもナイキも、西側諸国のブランドの会社は既に無くなりました。

日本の会社も、トップの日本人や日本人社員が退避した後、ロシア人とのリモート状態で会社を回しているという状況です。銀行さんとかはドバイに出張所を置いて、そことのやりとりだったり、会計事務所はイスタンブールからだったり、またヨーロッパの拠点からだったりと、各社様々に工夫しながら会社の雇用を確保しつつ、会社運営しているという状況です。この状況でうまくいく場合もあれば、うまくいかない場合もあり、日本の本社の利益判断で撤退準備に入る会社も徐々に出始めました。

日本人の駐在員さんは会社の指示で退避したのですが、その後のロシアと日本との関係性が悪化してることもあり、ロシアに中々帰って来れない状況となっています。もし、良い状況になればすぐに帰って来れるように、部屋も解約せず荷物も残したままの方がほとんどで、日本や他の地域にいても不安であると思います。もちろん退避時の費用や現在の家賃などは会社がある程度補償してくれているとは思いますが、自分の荷物が外国に残ったままというのはかなりストレスなことだと思います。私は2010年にモスクワに住み始めた時から、ロシアという国の歴史を見るにあたり、有事がいきなり起こる場合もありうると考え、超ミニマムな装備で生きてきました。

そもそも大家さんも気まぐれなロシア。「家が急に売れたから来週の火曜日に出て行ってくれ」とか土曜日に普通に言ってくる国です。基本的に自分の都合が全てにおいて優先する国民性です。これからロシアと関係を築き何かをしようと思っている人はこの部分を忘れないようにしておいて下さい。自分にとって都合が良いか悪いかで判断してるんだな、という事を常に念頭に置いて交渉ごとを行って下さい。逆に言えば、自分の都合が悪くなった時、強硬に何かを主張しても周囲から責められない、とも言えます。日本人としては、「どうもそういうのは気が引ける、相手の立場も考えて」と普通に考えてしまいますが、そこはスイッチを変えないとこの国ではやっていけません。だからと言って、ロシア人たちも相手の立場を考えてないわけでなく、彼らは彼らなりに相手のことも考えています。この辺りは説明し始めると長くなるので、またいつか「鉄のカーテンの内側から」で解説してみたいと思います。

話が逸れてしまいましたが元に戻すと、非友好国の外資系企業、に関してはロシア側から見て完璧なリストがあり、銀行口座など全てチェックされています。経済制裁に対抗するために、これらの外資系企業の資産を凍結して外国人を追い出し、国有化する、というニュースなども流れましたが、それに関してはロシア経済界から猛反対がありました。まあ、国有化、というのは極端なパターンで、ロシア経済界と政府との関係性を見る限り、すぐにそのような事はないでしょう。ただ、ロシア側として守りたい部分の一つに、外資系企業のロシア人の雇用、があります。雇用がなくなることで不景気になり治安の問題や様々な問題が出てきます。マクドナルドが撤退する時に、雇用は残す、とはっきりと表明したのもロシア政府への対策の一つとしてなのです。

西側諸国の企業撤退開始から1ヶ月経ち、欧米企業と日本企業の大きな差も見られるようになりました。実を言うと、ロシアに強硬に制裁して強気で撤退したかに見えていた欧米企業は、一旦退出した人々がロシアに戻ってきて新しい形で何かを始めようとしているのです。ダブルスタンダードそのものな現象ですが、政治レベルでのやりとりと経済レベルでのやり取りをうまく調整しながら行おうとしています。「鉄のカーテンの内側から 1」にも書きましたように、経済制裁で企業はさっても、そのためのシステムと棚はいまだに残っています。そこを再利用するのは新たな国だと思っていましたが、意外や意外に欧米諸国がそこに戻ってこようとしている現実。もちろん中国やインドなど非友好国でない国もそこに加わり始めました。ソ連崩壊後の90年代のマフィア経済には戻らないでしょう、と私は「鉄のカーテンの内側から 1」でも書きましたが、

システムと棚

を満たし動かしていく流れを、どの国もロシア政府とのネゴシエーションを水面下で行い始めたのです。その際に重要なことがいくつかあります。ロシアの場合、言説を信じません。美辞麗句を並べたら笑顔で聞いてはくれますし、日本以上に美辞麗句を述べることが重要な国ではあります。しかし、言葉の内容に関してはそんなに信じてくれてない、のです。都合が悪くなったら普通に言った事を覆します。

美辞麗句を並べなければならないが、そこに責任が無い国、

とも言えます。言葉を信じて乗っかってしまうと良い時には良いが、何かあるとそれは簡単にひっくり返ります。日本人は言った言葉を守る、ということが美徳な国民ですが、状況によっては言った言葉に責任を問われないのがロシアなのです。この辺りの微妙なニュアンスは、中々言葉で伝わらない部分なので、日本人の方に説明する時に私も毎回苦労するのですが、まあ、大体そんな感じ、位で覚えておいて下さい。

そして決定権を持つ代表者が必ずそこにいないとダメ

な国でもあります。先ほど、ロシアは外資系の全てを握っている、と書きましたが、日本の企業を調査する時に、

代表者がロシアを去っている、

と判断されれば、そのうちに丸ごと撤退して雇用も無くなってしまうな、と判断されてそういうリストに入ってしまいます。日本からしてみれば、代表者がどこにいようともリモートで遠隔指示できるし、いない事と撤退する事に相関関係はないだろ、と考えます。しかし、ロシアはそうではありません。例えば、映画の打ち合わせをする時でも、ロシア側は代表者が必ず出てきます。その際に、日本側の製作会社の代表がいないとなれば、「ああ、日本側はこの企画に関してはやる気がないのだ」と判断されます。これも日本から考えれば、「現場を一番把握しているプロデユーサーがいるのだから、代表者は関係ないでしょ」と判断するかもしれませんが、そうではありません。それは商慣習の違いなので、どちらが良いとか悪いとかではなく、ロシアはそういうものだと知っておくことが重要です。

そう考えた時に、日本企業の駐在員さんの早期退避、はまだ良いとしても、そのまま現地法人の代表者が日本に残っている状況は、ロシア側からするとマイナスイメージです。日本企業は責任感が強いですから、現在のところロシア人の雇用に関してはしっかりと守っています。そこに関しては欧米諸国の企業よりもかなり上をいっています。もしも今後ロシアでの商売を続けていくのなら、せめて代表者くらいは帰ってきて、今後のネゴシエーションをロシア経済界などとしていくのが重要ではないかと感じています。そういう部分も含め、頑張ってやったとしても利益が出ないとなれば撤退する、と考えているならばそれはそれで賢明な考えだと思います。

代表者レベルでどんどんロシアに戻ってきている欧米の企業と、依然、日本やどこかの国に退避したままの日本の企業の方々。この違いは国民性による行動の違いが垣間見れて本当に興味深いです。これが今後どういう結果を生むかは、昨今の刻一刻と変わる状況の中で予断は許しません。

今回も取り留めなく書いてきましたが、何かのヒントになれば嬉しいです。

いいなと思ったら応援しよう!