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「枕辺さん。これのどこが『冒険活劇! 極秘遊覧船リアル脱出ゲーム』なんですか?」
「んー。幌がボロいとことか、浮き輪が心許ないとことか、それっぽくね?」
「はあ? ガチの非常時が冒険だったら困ります!」
 桟橋の上でダンダンと足を踏み鳴らす僕を、他の参加者たちが、無表情で追い抜いていく。
 作戦は順調。参加前に憶病風を吹かす奴がひとりいたと、覚えていてもらえれば――大変不本意な作戦だが。
「うるせえ、いいから黙ってついてこい」
 今朝は最悪の目覚めだった。
 死んだおばあちゃんの家で、こぼした味噌汁を拭きながら、僕はいつもどんくさくてバイトもろくにできないと告白して、励まされる夢。
 起きたら、リアルに泣いていた。

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