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物の怪は、『ついてこい』とでも言っているかのように、たまに振り返って、僕たちの姿を確認する。
そして吠えるわけでもなく、ゆっくりと進行方向へ体を戻して、また進んでゆく。
現状手がかりはこれしかないので、気味悪さを感じつつ、ついていくしかない。
人間、知らない方が幸せなことはあるし、僕はけっこう、無知ゆえにハッピーに生きてきた感じがする。
この先になにがあるかは分からない。
文字どおり落とし穴があって、物の怪が軽く飛び越えるのに気づかず、奈落の底へ落っこちていく可能性もある。
探偵とは、自身の平穏と引き替えに対価を得る、破滅的な職種なのかもしれない。
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