あの赤い板について(•ಲ•ʔ⋚⋚)و
かごの中から見える世界は、八畳半の部屋の半分にも満たない。でも、僕にとってはそれで十分だし、さして見たいものもない気がする。
元はと言えば、外の世界から来たはずなのだった。
どこかの国で生まれて空輸されて、ペットショップのガラスケースの中に並べられて、そして赤ちゃん時代の旬を過ぎ、生後六カ月という殺処分ギリギリのところで、珍妙な人間に飼われた。
そういう経緯は知っているものの、記憶にはない。
僕はどこかから来たはずではあったけれど、いまはこの見える世界が僕の全てであり、でもそれで問題なく生きている。
きっと世界は、僕にとってちょうどいいサイズに縮小されたのだ。
ところで、珍妙な人間はいつも、ベッドに寝転がり、赤い板を握りしめて何やら熱心に書き付けている。
あの板は、人間にとって大事なものらしい。
しかし僕をかごから出すと、その板を不躾にこちらに近づけてくるもので、微妙に不快である。
いや、決して、すごく嫌なわけではないのだ。
ただ、あの板を近づけられる日は、やたらに何度も座る位置を調整されたり、家に戻ろうとしても持ち上げられて元の場所へぽんと置かれたり、なんというかこう……静かな攻防とでもいうのだろうか。
猫なで声(ハリ撫で声?)で話しかけてはくるものの、基本的には人間の都合の良い場所で都合良く止まっていてほしいというエゴを端々に感じてしまうので、いやだ。
ああ、結局言ってしまった。嫌だ、本当は。
あの人間は、僕が地味に嫌がっていることも分かっているし、針を立てないことを額面どおりに受け取って『わたしのことが好きなのね』なんて無邪気に思うタイプでもない。
僕の不快感を全て分かった状態で、知らんふりをして、板を近づけてくるのである。
不満はまだある。
熱心に板をくっつけて来たかと思うと、しばらくやって満足したら、僕を適当にひざに乗せて、板の画面にかかりきりになる。あれも嫌だ。
なんだ、あんなにやたらに構っておいて、急に板に夢中になって。何か面白いことでもあるのか。
そういえば、ベッドに転がって何か書き付けているとき、物言わぬ板に向かって「お前……どうやって殺したんだよ……なんで殺したんだよ……」等と話しかけたりもしている。
ひどく滑稽である。
あの板のせいで人間はいつまでもいつまでも寝ないことがあり、そうすると、僕と僕の隣人の夕食の時間がなくなるので、迷惑千万だ。
そんなに大事ならその板と添い遂げる覚悟でもすればいいのに、ぽんと適当なところに置くから、一日に何度も失っている。
「電話がない。電話さん? 電話さん?」
情けない声を漏らしているたびに思うのである。
一分前にそこの棚の上に置いただろう、と。
僕の小さなかごからでも分かるくらいすぐ近くにあるのに、いつまでもいつまでも探して人生を無駄にしていて、
……?(•ಲ•ʔ⋚⋚)و
(どうやらぼくは、なにかにのっとられていたらしい! よくわからないことがかいてある!)
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