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「もしも、書店で定価680円の本を手に取った瞬間、急にその著者が現れて『その本を読んで、面白かったら100万円ください。面白くなかったらこちらから100万円お支払いします』って言われたらどうする?」
「いや、普通に定価で買うよ。面白さを期待して買うのに、面白かったら大金払わなくちゃいけないなんて、そんな不条理にわざわざ首を突っ込む意味が分かんない」
「面白かったとしても、面白くなかったと言えば100万円もらえるんだぞ?」
「嫌だよ。本の著者に向かって偽レビューするなんて、食べログのサクラの闇バイトより嫌だ」
「そんなものがあるのか」
「知らない。適当に言った」
僕らは押し黙る。ややあって彼は言った。
「俺なら買う。そして面白くなかったと言い、100万もらう」
「すごい面白かったらどうするんだ。メディアで大絶賛されてたら、君の嘘はばれるんだぞ」
「なに、俺には刺さらなかった。それでいいだろ?」
「……」
強い君が羨ましい、なんて言えない。
(了)