1/31
助手席の彼女はずっと誰かとLINEをしていて、多分、いま僕たちが名所の海峡を渡っていることにすら、気づいていない。
せめて、せめて。
幸せではないけど不幸せでもない、この状態でかまわないから、なるべく長く続きますように。
脳内地図のドライブルートを延ばしながら、迂回迂回でやってきた僕たちの長い春を肯定する材料を、必死で探す。
お互い、何かを間違えたわけでもないし、歩み寄らなかったわけでもない。
――目的地に着いてしまったら。そしてそのときの彼女の反応が、大したことなかったら。僕の心はどうなるのだろう?
彼女がふと目線を上げた。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?