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 そんな彼と出会ったのは、僕が自分なりの正義に飢えていた頃だった。
 ――お前いま、平和な運河を指さして『大波が来る!』とか騒いでるのと変わんねえぞ
 彼の指摘を聞いた僕は、恥ずかしくて恥ずかしくて、穴があったら入りたいとはこのことかと思ったのを、よく覚えている。
 あるのかも分からない危険を考えて、それに向かって吠えて、ひとり立ち向かってみんなを守ろうとするのが、正しくて強いと思っていたのだ。
「弥山ぁー。たばこ買ってきて」
 腑抜けた声で呼ばれて、思案から引き戻された。
「嫌ですよ。枕辺さんの方が玄関に近いんだから、自分で行ってください」

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