長い髪
伸びた。
短めのマッシュヘアーだった髪の毛は、全体的に伸びて、前髪は口に付くし、襟足はクルーネックのTシャツの首元に付くし、耳は全て隠れる。
「純くんは短めのマッシュが似合うなぁ、私はそれが一番好き。」
一番好きだった人が言っていた言葉が、鮮明な景色と共に思い出される。
1Kの狭いマンションの一室だった。
「髪伸ばそうかなぁ」「結えるくらいの長さにしたいんだよね」
そう言った俺の願望を、「嫌だ!」と一蹴した人。
その人と別れてから、もう3ヶ月が経った。
あの頃から髪はほぼ切っていない。剃ることはしたけど。ツーブロック部分を伸びては剃り、伸びては剃りを繰り返したけど、被さっている髪は1度たりとも切っていない。
ある種の皮肉を込めて、切っていなかった。
いや、切りたくなかった。
あの頃にはもう、戻りたくないから。
あなたが好きでいてくれた人は、もういない。
もし、この髪を切る時が来ても。
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