浮気

聞こえないように、耳を塞いだ。
「あの子にどんな顔すればいいと思ってるのよ」
階段下で響く怒声と、やけにこもった小さい声が、階段を昇って2階の部屋まで聞こえてくる。

この手の話は初めてじゃなかった。
まだ小さかった頃、アパートに住んでいた時にも襖越しに聞いたことがあった。その時は何が起こってるか理解できなかったのに、今になっては

また『アレ』か。

で片付けてしまうくらいには歳をとった。
起こってるのは母親で怒られているのは父親、つまりそういうこと。
なんで同じ過ちを2回も3回も繰り返すのか、正直理解に苦しむ。馬鹿なのかな。いやきっとそうだろうな。
くだらない自己解決をして、布団に入って眠ろうとした時、親父の怒声が聞こえた。

『うるせえ、もういい』

いや、は???なんで???
思わず頭の中が真っ白になった。理解ができなかった。
状況を整理する間もなく、玄関のドアが開く音がして、親父が外に飛び出して行った。

いやいやいやいや、逆ギレ????ここにきて???

絶対にお前キレるとこじゃないやん、なんなら謝る側やん、それやるの母親の方やねん普通。

思わず降りたくなかった一階に降りると、母親は泣いていた。

「ごめんね、純くんごめんね」

謝るのはあんたじゃない、あいつが悪い。
俺も外に出た。
車に乗りかかった親父を見つけて、ドアを開けて親父を降ろした。

「お前さ、何したか自分でも分かってるんだろ?
全部聞いてたよ、なんでお前が母さんにキレて出てくんだよ、どう考えてもおかしいだろ。中入って謝れよ。」

驚くほど流暢に言葉が流れ出したのにびっくりしながらも、胸ぐらを掴んだその手は離さなかった。

「浮気するくらいなら最初から結婚なんてすんな」

そう言った俺を父親はどう思ったのだろうか

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?