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オトンの日のプレゼント

「今日、歯医者さんの帰りにお父さんの家に行くけど、歯医者さんに一緒に行かない?
」朝の生存確認メール。
「お父さんは歯医者さんには行きません。」
強い意志を感じる。

ぐぬぬ、仕方ない。そんなに歯医者が嫌かね。一人でチャリを飛ばし歯医者さんへと向かう。

歯医者さんの帰り、オトンに父の日のプレゼントを買いに行った。
プレゼントは電子レンジ。
古い電子レンジを使っていたのだが、ボタンを押すと開くタイプで、私は何度もボタンを壊し、数カ月間も新しいのを買うのを勧めたが
「まだ使えるからいいの。じゅんみはちゃんがボタン押すとドア開かないけど、お父さんが押すと開くから。」
その一点張り。

それって、私と電子レンジが仲悪いみたいじゃん。電子レンジくんよ、私にヤキモチ焼いてるのかい?なんて言っている場合ではない。
手作り弁当温められないじゃん。夏になるし…。

「父の日」というもってこいのイベントがある。よしよし、これはチャンスだ!

前回、前々回の娘訪問介護は、父が全然元気がなくて何も喋らず、手作り弁当をペロッと食べると寝ていた。もちろんお風呂も拒否。

前回は、近くのスーパーヘ行く時の普段履き用のスリッポンがボロボロだったので、新しい脱ぎ履きしやすいスニーカーをプレゼントしたが「ありがとう!」とだけ言って寝てしまった。

あのスニーカーは履いてくれているのだろうか?
私が行けない間、猛烈にお仕事が忙しい兄が行ってくれていたようだが。

(オトンと私のスニーカー。足の大きさが同じ。)

・・・

とても良い電子レンジがあった!
開け閉めしやすくて、ダイヤル式で(ボタンが沢山あって機能的なのはオトンに向いてない。)使いやすそうだ。
超おバカな私は、購入した電子レンジを自転車で運ぶことにした。
店員のお兄さんは「軽トラ無料で貸しますよ?」と言ってくださったのに、軽トラの運転に自信がなかった。
配送だとプラス3000円。それなら自転車でと、軽い気持ちだった。
気の良い店員のお兄さんは自転車の籠に入れるのを手伝ってくださり「入って良かったですね!気をつけて帰ってくださいね!」とまん丸の目と白い歯をキラキラさせていた。お礼を言い、自転車を走らせる。
予想以上に重い。(そりゃそうだ。)
バランスを崩し自転車が倒れかけた。倒れなかったけどチェーンが外れた。
自分で直そうと試みるが、指先が油まみれになるばかりで直らない。
トボトボと近くの自転車屋さんへと押して行く。
ここまで10分間くらいなのに、100回は「軽トラ借りておけば良かった。」と思った。

自転車屋の店員さんは優しかった。そっと油まみれの私の指を拭くウェットティッシュを差出し、秒でチェーンを直してくれた。
電子レンジを籠に入れるのまで手伝ってくださった。
「あの、お代はいかほどで?」
「また何かあったら来てください!お気をつけて!」
オトンの家まで泣いた。

あらかじめオトンに「電子レンジ持って行くから玄関の鍵を開けておいて。」とメールした。(父は耳があまり聞こえないのでピンポン押しても気付かない。)

オトンの家は4階。私は乳ガンの手術の後遺症で右腕にあまり力が入らない。
でも「いや、ここはっ!プレゼントだからっ!自分で届ける!」と訳のわからぬ意地を張った。
4階まで階段を上がると満面の笑みのオトンが立っていた。足元には新しいスニーカーを履いている。
腕の痛みは消えて涙が出た。

二人で協力して電子レンジを設置した。(大袈裟。)

試しにダイヤルを回すと、「チーン!」と良い音がした。二人でハイタッチ。
そして、長い間活躍してくれたヤキモチ焼き?の電子レンジくんに二人でお礼を言った。

(自転車で運んだ為、キズがいくつもついてしまった新しい電子レンジくん。)

水筒の麦茶をガブ飲みして、家事を始めると、いつもはベッドに横になってテレビを観ているオトンが、干してあった前回の洗濯物を自ら畳み、テーブルクロスやフキン、バスマットを交換している。
「お兄ちゃんがワクチンの予約してくれだんだよ!」と嬉しそうに話している。
元気になったんだな。お兄ちゃんありがとう。また涙が出る。

お風呂掃除とトイレ掃除をして、流しを磨いているとオトンが珍しく見に来る。
「お父さん、カップ洗ってないね?」と言うと、ニヤニヤしながら「お父さんお風呂入ってくるね!」とニッコリする。
ま、カワイイからいいか!私もニコニコする。

オトンが入浴中に、洋服や布団カバーを夏用に衣替えをした。掃除機もかけて、着替えも用意した。
あまりにも長く入浴しているので途中で倒れてるのか?と心配になりそっと覗くと、ウキウキ髭剃りしていた。
気付かれないようにドアをそーっと閉め、洗濯物を干す。

お風呂から出て来たオトンが、ベランダで休憩していた私に声を掛けてくれた。
「何で泣いてるの?」
「なんでもないよ。」

(ベランダで蕾をつけた今にも咲きそうなオトンの大切なサボテン。)

おやつ箱を開けると、ぽたぽた焼きしか入ってない。「買って来ようか?」と言っても「大丈夫。」とニコニコしている。
私は電子レンジで手一杯でお土産を買って来なかった。
スープ箱にはワンタンスープが多めに入っていた。「お兄ちゃんが買ってきてくれたよ。」「大好きなマグヌードル頼めば良かったのに。」「お兄ちゃんは、マグヌードルを知らないよー。」なんじゃそりゃ。そんな訳ないでしょ。
厳格な兄もマグヌードルは知っているだろう。「次来る時買ってくるよ。」
石鹸の良い香りのオトンがニッコリした。

「また来るね!なかなか来れなくてごめんね。」
「ありがとう!じゅんみはちゃん、ムリしないでね!」

・・・

スーパーへ夕飯の買い出しに行く。八百屋さんの目玉商品の格安新鮮野菜をたんまり購入し、お肉や自分にご褒美のビールもちゃっかり買う。

えっこらせ!と自転車で帰宅して、プシッとビール開けると、三毛猫三姉妹が「ちょっと!お留守番してたんだからオヤツが先でしょ!」という顔をして3匹仲良くオヤツ皿の前に整列している。
「あ、すみません気が利かなくて!」
美味しいオヤツを提供する。
満足気に毛づくろいするにゃんこ達を見ながらビールを一口。
「うまぁーい!」
でも、涙が出た。私は昨日、大好きなお友達に、彼女を物凄く傷付ける言葉を言った。
体調が悪かったとはいえ、言ってはいけないことを言った。
一日中、後悔していた。息子にも朝、「じゅんみはさんは優しさが足りない。」と言われた。反抗期に酷い言葉を私が浴びせていたオトンもベランダで彼女のことを考えて泣いていた私に「何で泣いてるの?」と、優しかった。
「大好きなのにごめんなさい。」ビールがいつもより苦く感じた。

ちゃんとお友達に「傷付けてごめんね、大好きです。」と伝えようと、オトンの愛しい笑顔を思い出しながら思った。
オトンはいつも大切なことを教えてくれる。
オトン、長生きしてね!

・・・

新しい電子レンジくんの前でハイタッチするオトンと私を描きました。

読んでくださりありがとうございます! 嬉しくて飛び上がります♪ 私の心の中の言葉や絵を見て何か感じてくださればいいなと願いつつ。