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オトンと孫と自転車

ポカポカのお陽さま。
秋の柔らかい風。
少し色付いた葉が揺れる街路樹が心地よいある日のこと。

オトンと息子と私が一列になって自転車で走っていた。

オトンは、孫(私の息子)LOVEだ。
息子は、じさまLOVEだ。(「じさま」とは息子がオトンのことを呼ぶ時の愛称)

昔、私が病気で動けない頃、オトンが仕事帰りに自転車で颯爽と我が家に来てはご飯を作ってくれて、小学生だった息子と仲良く楽しそうに話していた。

親子3代で自転車。
何年振りだろうか?息子が小学生以来だから10年は過ぎている。
二人の背中を眺めながら私の頬に涙がポロポロ溢れる。

「こんな日が来るなんて…オトンも元気になって。嬉しすぎる。うぅぅ。」

……いやいやいや、それにしてもふたりとも速い!速すぎるよ!!
オトンは電動自転車、息子は細いタイヤのロードバイク、私はママチャリだ!!

「おーい!待ってくれー!!走る順番かえてー!」

・・・

息子は
中学校入学のお祝いに自転車大好きオトンがプレゼントしてくれた、タイヤの細いめちゃくちゃカッコいい鮮やかな濃いブルーの自転車に乗っていた。
とてもお気に入りでメンテナンスしながら10年以上乗っていた。

就職して、めっきり乗る時間がなくなり、パンクしてチューブも交換しなくてはいけない状態だった。昔はオトンが修理してくれていたが、今は力が入らないからと自転車屋さんで修理していたがしばらくパンクしたまま。息子は、そのうち自転車屋さんに行かなきゃ。と言いつつ、休日は私のママチャリで出掛けていた。

ある日のこと。仕事中の息子からラインが来た。何かあったのか?それとも「ごはんいらない」の連絡か?慌ててラインを見る。

前日、息子は仕事がお休みで、私も出掛けており、私の自転車を友達の家に置いたままらしい。
あー、今日は忙しくて休憩時間遅いんだな。自転車がないと私が買い出し大変だろうと気にしてラインしてくれたのか。
別に大丈夫なのに。鍵のある場所が分かれば、息子の友達の家に私が取りに行けば良いし。晩ごはんを作りながら返事を待つ。
ラインのことはすっかり忘れて「お腹すいたから先食ーべようっと!」と餃子を食べ始めたら返信が来た。

「鍵はなくしちゃった(;  ;)」珍しく顔文字付き。泣いておるではないか。
残業で疲れているだろうに、わざわざ申し訳ない気持ちでラインしてきたんだな。いいよいいよ大丈夫だからと、マスターキーを探す。
息子帰宅。
「マスターキーあったから大丈夫だよ!落ち込んでるかなー?って思って。」にっこり笑って息子に手渡すと「あるって知ってた。」ニヤリ。「…え?知ってたですと?」「オレの策略成功。ふふ。」ニヤニヤと自分の部屋へと行く息子。「なんだってー?!コンニャロメ!」

「朝、マスターキーあるか確認した。
とりあえずじゅんみはさんに『鍵なくした』って伝えておいて、『鍵どこ?』って聞かれたら『なくした』って言えばいいやって。策略。」笑ってる。
「なんだそれー?心配してたのに最低!」「え?俺、最低?」「面白さとしては最高だけど、ほんっとムカつくよね。」何だか笑ってしまった。「マスターキーは絶対なくさないでよね。」(後日、なくした鍵が、玄関前の小石と小石の間に埋もれていた…。)「そろそろ自転車直そうよ、新しいの買う?」「俺は、じさまから貰ったあの自転車が気に入ってるんだ。だから修理したい。」という話になり、忙しい息子の代わりに私が自転車屋さんに持って行った。

修理専門の技士さんが一通り確認する。
この自転車は10年以上乗っていて、相当ガタが来ています。パッと見ただけでも修理部分が幾つもあります。かなりの費用になりますし、費用をかけても修理センターで安全に走れるレベルにはならないからと、そのまま戻って来る可能性が高いです。
パーツも現在は同じものがありません。新しい自転車の購入をお勧めします。と、説明してくださった。

息子に連絡して伝えると「俺は、じさまから貰った自転車が気に入ってるんだよ。何とか直して貰えないのかな…。」一応、もう一度事情を説明し技士さんに聞くがやっぱり無理らしい。
私の目がウルウルしてきた。一緒に話を聞いていた若い店員さんもウルウルしている。
「わかりました。展示されている自転車を撮影してもよろしいでしょうか?あと、ロードバイクのパンフレットもあればいただきたいのですが。」「もちろん大丈夫ですよ。パンフレットお持ちしますね。」
帰宅後、撮影した自転車とパンフレットを息子と静かに眺める。「なんか悲しいね。」「そうだね。仕方ないけど、たい(息子)の相棒だもんね。」

数日後、オトンの娘訪問介護に行った。
オトンが「孫くんの自転車修理できたの?」と聞いてきた。
「うーん、修理できない状態で新しいの買うことにしたよ。」「そうかー。長く乗ったもんな。」「そうだね。お気に入りだったからとても悲しそうだったよ。」
「じいちゃんが買ってやる!」「え?いいよー。たいは働いてるし自分で買うって。」
「じいちゃんは孫くんに買いたいんだ!」
オトンは立ち上がり、背筋をピーンと伸ばしてウルトラマンのようにガッツポーズしている。
「お父さんの気持ちはとても嬉しいよ。たいに聞いておくね。ありがとう。」「じゅんみはちゃん、自転車の写真見せてよ。」オトンとスマホの画像を見る。
「これがカッコいい!孫くんにぴったりだ!」満面の笑みのオトン。「孫くんの休みに一緒に行こう。」とフンフン♪鼻歌を歌っている。
息子は大喜びだった。
「じさま優しいね。本当にありがたいよ。でも今の自転車も処分したくないな。」「うん、良かったね。わかったよ自転車は残して家の中に飾っておこう。」

そして数日後、オトンの家へ。
私とオトンは作ってきたお弁当を食べて、楽しくお喋りをしていたところに歩いてきた息子到着。
感染症予防や息子の仕事の都合で、オトンと息子が会うのは1年以上振り。ふたりでずっとお喋りしている。
メダカを眺め、オトンもいつもよりいきいきして饒舌だ。息子も普段私には見せない笑顔で話している。

メダカを眺めるふたりの後ろ姿がそっくりだった。

3人で自転車屋さんへ向った。
オトンは普段、電動自転車で車通りの少ない道を通り、5分かからないスーパーに行く程度。自転車屋さんまでは15分。しかも大通りを通る。バスで行こうと言ったがどうしても自転車で行くと張り切るオトン。
オトンは耳があまり聞こえないので私は心配でしかたない。(補聴器を着けていても車の音が聞こえないから。)

私がゆっくり先導する。オトンはウッキウキで自転車を漕ぐ。息子はオトンの自転車のスピードに合わせてダッシュで走ってついてくる。私は心配で何度も振り返るが、息子がオトンの横を走り、ふたりで楽しそうに景色を見ながら何か話をして走っている。

自転車屋さんに着いた。オトンお気に入りの自転車を3人で眺める。
「カッコいいね!」と息子もすぐに気に入り「孫くんにピッタリだ!」オトンはとても嬉しそう。
ふたりが技士さんから説明を聞いている間に私は外の空気入れで自分の自転車の空気を入れていた。「やりましょうか?」と、この前一緒にウルウルしていた若い店員さんがお声掛けしてくれた。
「あ!あの時のお客様!」「その節は丁寧に対応してくださり、ありがとうございました。今日は父と息子と一緒に新しい自転車を購入しに来たんです。」「そうなんですね。気になっていたんですよ。良かったです。」と、にっこり笑顔で言いながらまたウルウルしていた。私もウルウル。

外の駐車場で試乗してみる。タイヤも前より少しだけ太く、車体にクッションも付いておりパンクしづらいらしい。
仕事に疲れてよれよれだった息子が輝いて見える(大袈裟)。オトンもピカピカの笑顔だ(かわいい)。

親子3代でオトンの家まで自転車を走らせる。帰り道はオトンが先導すると言い、間に息子、最後が私。ちょっと心配だが、何かあったら速攻でオトンの横につき守ろう。

「こんな日が来るなんて…。オトンも元気になって。嬉し過ぎる。うぅぅ。」
そしてふたりの自転車のスピードについていけない私。やっぱり立ちこぎだ。

オトンの家に着いた。「じさま、ありがとう!」「楽しかったね、孫くん気を付けて乗るんだよ!じゅんみはちゃんも気をつけて帰ってね。お父さん疲れちゃったから寝るね。」「またねー。」「ありがとう!」
階段の下から、息子とふたりでキッチンの「ラッキー小窓」(←ねじりさんが命名してくださいました♪)をしばらく見上げる。オトンの調子が良い時はラッキー小窓から手を振って見送ってくれる。
小窓は開かなかった。(開くとラッキーなのだ。)
息子と顔を見合わせ「張り切っていたから、よっぽど疲れたのだろうね。でも楽しそうで良かった。」と笑顔になった。

その日の夜、オトンから「楽しかったね!孫くんも喜んでたね。」と嬉しそうなメールが来た。次の日の朝も「昨日は楽しかったね。孫くんと会えて嬉しかったよ。」とメールが来た。かわいい。私も嬉しい。

数日後、娘訪問介護に行き、ランチタイムのこと。
「お父さん、もう直ぐ誕生日だね!」
「74歳、なよなよ〜!(手を振りながら)、去年は波(73歳)、一昨年は、な何?!(なにっ!?→72歳)」私は思わず紅茶を吹き出す。
「じゃあ来年は?」「なご(75歳)…なごはつまんないなー。」おもしろいオトンだねー。
前々回、おでんを持って行った時は「おでんでんでーん♪」と言っていた。

由比ヶ浜の旅行の話になり「またいつか3人で行こうね。レンタカー借りてさ、私が車を運転するから。」「お父さん、電車が良いなぁ〜。」
どうやら私の運転は不安なようだ。トホホ。
江ノ電の話をしていたら「お父さんね、昔は自転車で鎌倉まで行って、美味しいもの食べてビール一杯飲んで、専用の袋に自転車入れて江ノ電で帰ったんだよ。」とニコニコしていた。

お風呂を洗って沸かしておいたら「お父さん、お風呂入ってくるね〜。フンフンフーン♪」と入っていった。え?今まであんなに嫌がって入らなかったのに?嬉しくて私もフンフンフーン♪と鼻歌。

お風呂も出て、爪も切り、洗濯物も乾いたので「そろそろ帰るね。」と言うと
「じゅんみはちゃん、ももちゃんジュース飲む?」「うん飲む!(ももちゃんジュース?そんなのあったっけ?)」
粉のスティックのピーチティーをグラスに入れ、お水を注ぎマドラーで丁寧に混ぜている。昔はよくカフェオレ作ってくれたなぁ、こんなの久しぶりだ。
ふたりで日向ぼっこしながら飲んだ。オトン美味しいよ、とってもとっても美味しいよ!
ちょっと眠くなってあくびが出た。
「お父さんの家は暖かくて眠くなるでしょ?」「うん、眠いや。」「すぐ『寝こ(ネコ)』になる。」招き猫ポーズ。
オトン招き猫。
この日は私が帰ると言うと、なんだか寂しそうで沢山沢山お喋りした。
おやつの後、流石に疲れて眠くなったようでベッドに横になり「じゅんみはちゃんありがとう!またねー。」「ももちゃんジュース美味しかったよ!夜は冷えるから暖かくして寝てね。」と手を振った。

ついこの前まで、お昼のお弁当を食べたら直ぐベッドで寝ていたオトン。
気力も体力もなく寝てばかりいたオトン…。
息子と3人で自転車で走れたし、ももちゃんジュースまで作ってくれた。
丁寧にマドラーで混ぜる後ろ姿が目に焼き付き帰りの自転車でまた泣いた。

オトンありがとう!楽しかったね。
息子も大切にするって喜んで自転車乗ってるよ。

いつかまた3人で由比ヶ浜の旅行に行こうね!江ノ電で。

オトンのハッピースマイル♪孫も娘も大好きだ!

(オトンのハッピースマイル♪)

今回の娘訪問介護日記は、親子3代でのお出掛けと、オトンおもしろ語録の日記でした。

またまた長〜いお話を最後まで読んでくださりありがとうございます!
オトンも私も息子も嬉しいです♪

ちょっと私が体調を崩していて、しばらくみなさんのnoteを拝見しに行けてなくてすみません。ゆっくり伺いますね。

このnoteも文章が出来上がり、ヘッダーの絵も下書きしてあったのですが、何日か色塗りができず「オトンの誕生日に間に合うかな?」と思いつつ、やっと投稿できました。

オトン「なよなよ〜!」おめでとう♪

親子3代で自転車で走る絵を描きました。

・・・

「海の思い出」のnoteに、毎年夏休みに行っていた親子3代で由比ヶ浜の旅行の話が書いてあります。
よろしければこちらも見ていただけると嬉しいです♪

娘訪問介護日記マガジンです。今までのおとぼけ日記が読めます♪


読んでくださりありがとうございます! 嬉しくて飛び上がります♪ 私の心の中の言葉や絵を見て何か感じてくださればいいなと願いつつ。