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小説 | 命を思う日


こちらは小牧幸助さんの企画【赤青鉛筆で日記を書く】#シロクマ文芸部参加作品です。

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赤青鉛筆で日記を書く。

令和5年 4月2日(日)

小雨の降る朝、淡く白い空と、空の下に咲く淡いピンクの桜を見ながら思い出した。

25年前の今日、私のお腹の中で10ヶ月間一緒に過ごしていた新しい命が、この世界に誕生するために一生懸命頑張っていた。
私とあなたとふたりで。

大きなお腹でお客様の髪の毛を切っていると、私のお腹の上にその髪の毛がふわふわと積もってゆく。
「こんなにお腹に髪の毛が積もったら、髪の毛がフサフサの赤ちゃんが生まれるね!」「そうかもしれませんね!」笑顔になる。
お客様が毛だらけのお腹を触って「待ってるよ!」とニコニコしていると、お腹の中のあなたが足で蹴って一緒に楽しく話しているようだった。


大雪の成人式。二十歳の門出を迎えるお客様達の髪を結うために、私はあなたとお店へ向かった。

朝、母と電話で大喧嘩した。
「お腹の子と仕事とどちらが大切なの!こんな大雪の日に大きなお腹を抱えて行くなんて信じられない!休みなさい!」
「私は成人式という一生に一度しかない晴れの日のお祝いのお手伝いをしに行くの。この子と一緒に行くのは、きっとお腹の中から成人するみんなの笑顔や希望や明るい未来が見える。見せてあげたい。だから私は行く。」

「もうすぐ会えるよ。笑顔で会えるよ。あなたのことをみんなが待ってる。」
痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い。
でも楽しみ。頑張るんだ。頑張ろうね。

破水してから2日、眠れずご飯も食べれず、痛みと戦いながらお腹を触り、まだ私のお腹の中にいるあなたと会えるのを楽しみにしていた。


平成10年4月3日
大きな産声をあげて、あなたはこの世界に誕生した。


首にへその緒が三重も巻いていた。それでも元気に誕生した。
ふたりで3日間痛みと戦って誕生した。真っ赤な顔をしている。頭には黒々とした髪の毛が生えていた。
頑張ったからちょっと頭がしずく型になっていたけれど、なんとも可愛らしい顔をしていた。

「やっと会えたね!」笑顔で涙が溢れた。

「この世界は美しいよ。」

これからは、この世界で私とあなた、ひとりひとりで生きていくんだ。

へこんだお腹は寂しいけれど、その何十倍も嬉しい。

分娩台で助産婦さんがお祝いに冷えた白いカルピスを飲ませてくれた。体中に沁み渡る。

淡く白い空を見て、カルピスの味を思い出した。
淡いピンクの桜を見て、あなたを抱いて家に帰る時に見上げた空に咲いていた桜を思い出した。


明日はあなたの25歳のお誕生日ですね。

今、あなたは幸せですか?
この世界は美しいですか?


お母さんは、あなたが生まれて来てくれて幸せです。
ありがとう。

そして、明日「お誕生日おめでとう!」と言うからね。

今日の日記は、あなたが産まれた日の青い空色の青鉛筆と、あなたが産まれた時に強い生命力を感じた真っ赤な顔の色の赤鉛筆で書いたよ。

日記を閉じて、一粒の涙のしずくがノートにぽろりと落ちた。
外の小雨も、白い雲も、桜も、赤青鉛筆も笑顔に見えた。


・・・・・

この小説を書き終えた後、小雨はやんで青い空が雲の隙間から見えていました。
優しい春の風と鳥たちの声が聞こえます。

25年前の新しい命の誕生の喜びを思い出しながら、私の後ろにある酸素ルームで、赤い心臓をゆっくり動かしながら命の終わりを迎えようとしている15歳の愛猫の次女ちゃんを優しく見守りながら書きました。

生命の尊さ。

いろいろなことがあるけれど、きっと「この世界は美しい」
そう思いながら。

・・・


数年前、私が絵本を作った時、小牧さんが「じゅんみはさんもいつか小説を書いてみてください。」と言ってくださいましたね。私には絶対無理!と思っていましたが、あのお言葉で背中を押してもらい、三作も小説を書くことができました。
小説と言えるのか?というレベルですが、「書く楽しみ、今の私にでもできること」が増えました。
この場を借りて、心より感謝申し上げます。

この小説を読んでくださったみなさま

ありがとうございます。

・・・

明日、誕生日を迎える息子のお下がりの赤青鉛筆を使ってヘッダーを書きました。




読んでくださりありがとうございます! 嬉しくて飛び上がります♪ 私の心の中の言葉や絵を見て何か感じてくださればいいなと願いつつ。