韓国ドラマ『椿の花咲く頃』『サイコだけど大丈夫』でオ・ジョンセの振り幅を堪能した夏
Netflixで韓国ドラマを見続けて、『椿の花咲く頃』に続いて『サイコだけど大丈夫』を全話見ました。この両方に出演しているのが大泉洋似のオ・ジョンセ。
オ・ジョンセはすごい。
『椿の花咲く頃』でのノ・ギュテという役どころは、ミスターちっちゃい人物。田舎町オンサンの地主の家に生まれたというだけの自称・次期郡守で、「専門職の夫婦と言われています」
ギュテ「いちばん優秀な医者は眼科医だと言いますよね。目という部位を扱うには膨大な知識が必要なんです」
ヨンシク「では眼科医を?」
ギュテ「眼鏡士です」
「眼鏡士」。
弁護士であるエリート妻への劣等感から、地元の住人たちに「もてはやされたい」「もてなされたい」欲求のかたまり。そこへ、オンサンに何の縁故もない、美しすぎる未婚の母ドンベクが現れます。ギュテ(じつは妻)所有の物件にドンベクが開業したスナック「カメリア」で我が物顔で振る舞い、カメリアで唯一ブランデーを飲む客だとアピールし、ピーナツをサービスしてもらえなくてゴネる、ちっちゃい男。頑なにサービスを拒むドンベクに執着しています。前半はとにかくギュテの小ささと虚栄心がドラマを動かしていくと言ってもいいでしょう。
ギュテの名セリフ「どうして俺にはごはんを出さない!」
このドラマ、現在進行形の物語のベースに過去の連続殺人事件があり、第1話から、いつか起こる新たな殺人(もしかして被害者はドンベク!?)という悲愴な予感とともに進んでいきます。それでも得体の知れない視線はあるものの、なんだかのんびりしているなと油断していると、かつてドンベク少女を施設に捨てた母が認知症の状態で現れ、ここからぐんぐん面白くなっていくのです。そして誰かに自分を認めてもらいたい欲求が爆発寸前だったギュテが、カメリアのバイトギャル、ヒャンミ相手に「下手こいた」ことで、ギュテ夫婦の物語は主役カップルを食う勢いで盛り上がります。これが韓国ドラマの抜かりないところ。(『愛の不時着』でも私はク・スンジュンとダンのカップルに入れ込んでいました)
後半、事件を経て自己肯定できるようになったギュテ。オ・ジョンセはこの役で韓国のゴールデン・グローブ賞といわれている百想芸術大賞で助演男優賞を受賞しています。妻ジャヨンを演じているヨム・ヘランは『トッケビ』ではひたすらイヤな伯母さん役だったけど、ジャヨンは単なる「サレ妻」にはならず、痛快でかっこよかった。ギュテのバカなところが好きで結婚したジャヨンと同様、見ているうちにギュテのバカなところがかわいくなってくるような(このドラマ…登場する男たち大体バカかも?)。
KBS『椿の花咲く頃』公式サイトより
やさしそう、でももしかしたら悪そう。その普通なルックスがオ・ジョンセの武器のひとつ。『サイコだけど大丈夫』は、オ・ジョンセ演じる自閉症の兄サンテ、弟で精神病院の保護士ガンテ(キム・スヒョン)、傍若無人な童話作家ムニョン(ソ・イェジ)、それぞれにトラウマを抱える3人のドラマ。ガンテは兄が悪夢を見て激しい発作を起こす季節がくるたび職も住居も転々と変えてきました。兄のことは大好きだけど、自分は兄のために生まれたのか?自分の感情に蓋をして仮面をつけて生きるガンテと、母の呪縛に苦しむムニョンが惹かれあっていきます。オ・ジョンセが表現する自閉スペクトラムを患っている人の繊細さ。3人がトラウマから解放される「治癒」の物語は、童話的なアニメの演出もあってか、個人的に『愛の不時着』以来の余韻。サイコだけど「大丈夫」というのは自己肯定の意味なんだなと思います。
TVN『サイコだけど大丈夫』公式サイトより
ソ・イェジも、序盤の高慢な美しさからどんどん可憐になっていきます。ムチャクチャなんだけど本質をわかっていて荒療治が得意。美しく鋭利なナイフや万年筆にうっとり。ダークファンタジーな世界観でキメキメの呪われた城で、森で遠吠えするキバノロ(韓国の鹿)に悪態をつく。悪夢を食べてくれるマンテ人形をサンテと取っ組み合いの取り合いで鼻血。かなり振り切ったクレイジーなヒロインで、声が低いのがよかったです。
オ・ジョンセつながりでこの2作品を一気に見たけど、結果キム・スヒョンの甘いハグにもやられまして…映画『シークレット・ミッション』も見て泣いた夏。そしてピーナツは8000ウォンと胸に刻む。
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