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あなた やまがた たからびと⑩

(山形県生涯学習センターだより 生涯学習やまがた  2021.3 Vol21 寄稿)

菊地 純 さん  イラストレーター・Be Here Now企画代表(南陽市)

県内で自ら学び続け、いきいきと活躍している方を「たからびと」として、インタビュー形式でご紹介します。今回は、イラストレーターとして活躍しながら、置賜地方を中心に地域を巻き込んだアート活動「ARTS SEED OKITAMA」を行っている菊地純さんにお話を伺います。

① 始めたきっかけと現在の活動は?
東日本大震災の際にチャリティー目的で作家のグループ展を主催したのがきっかけです。展示は絵画、工芸、イラストやクラフトと様々。その後グループ展を置賜を中心に5年で10回行い、2016年からは「ARTS SEED OKITAMA―文化の種をまく。育てる。ひきつぐ―」(以下ASO)と題し、置賜地方全域に会場を広げた企画に発展。これまで4回行っています。
この活動は、各作家の個展やグループ展を1つの地図にまとめ、点(個々の展示活動)を線(往来)に、そして面(地域)へと展開させる試みです。会期は毎年7月の一カ月間で、ギャラリーや飲食店、公共施設、地域の多目的スペースなど20から30会場で開催しています。
そして、個人の広報ではなく、参加者全員でチラシ代わりにもなる一枚の地図を作って広報することで、その分、自分の作品制作に時間やお金を使える仕組みです。県外から参加の作家やお客様も増えてきました。置賜の7月はアートでいっぱいだと思ってもらうのが目標です。

② 活動で気が付いた事は?
私は元々イラストやデザイン、企画コーディネートと、比較的幅広く仕事をしていましたが、加えてASOなどで様々なジャンル、素材をあつかう作家さんと仕事をすることで、より多くのことを学んできたように思います。例えばジャンルや素材が違えば作品の扱い方、マーケット、仕事の仕方も様々。
企画する度にこれまでの経験を頼りにするのではなく、毎回ゼロベースで考え、時にはこれまでのやり方を疑ってみる。自分の常識が他の人の常識とは限らない。そこには学ぶ面白さがあります。
それから、良い作品を作れる作家は地方にも沢山いるということ。しかしながら良いマーケットを持っているかは別だということです。地方に住んでいると皆知り合いで、面白いことは、例えば首都圏など地域の外にあると思いがちですが、実際はその思い込みから身の回りが見えていないことも多いのではないかと思います。
そして、活動を始めて、作家同士はもちろん、展示でお世話になる会場の方やお客さんと、自然と交流が増えることで企画を超えた新しい展開が生まれています。
置賜地方はアートや展示をする環境として良いとは言い難いのが現状です。しかしそこに暮らす作家としては、ただ生活する場というだけではなく、少しでも地域に良い影響、何かしらの還元をしたいと思うものではないでしょうか。すぐに何かが変わるということはありませんが、長いスパンで見渡した時、何かしら良い影響を残せたらと思っています。

③ これからの目標は?
2020年は新型コロナウイルスの影響で5回目のASOが中止になりました。これからどのように文化活動を継続させるかが今後の大きなテーマです。コロナ禍以前の活動をただ再現するのではなく、むしろコロナ禍であることを前提とした、新しい局面に対応できるしなやかさを持って活動していきたいと思っています。
コロナ禍では、アートの現場にも大きな影響が出ています。今も昔もアートのマーケットは主に都市圏にあり、地方で作家活動をすることはデメリットでした。しかしコロナ禍で、インターネット上のデジタルな、人との交流が主流となれば、場所と時間はあまり関係がなくなり、地方で創作することも都市圏で創作することも大きな違いはなくなるのかもしれません。
むしろ、地方の広々としたアトリエや美味しい新鮮な食べ物の方がメリットとなるかもしれません。もちろんデジタルが全てを解決してくれるとは思っていません。作品は直接見たい、手で触れたい、作家にも会いたい、しかし今それが一番難しくなっている。それでも、だからこそアートを続けたい。文化をつなぎたいと思っています。

(山形県生涯学習センターだより 生涯学習やまがた  2021.3 Vol21 寄稿)

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