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『映画 : フィッシュマンズ』

2021年7月13日(火)

吉祥寺アップリンクで『映画:フィッシュマンズ』。

ズシンときた。相当気持ちを持っていかれた。3時間近くもあると聞いていたのでそれなりの覚悟をして観たのだが、まったく長く感じなかったし、あと1時間くらい観ていたいという気持ちにもなった。

フィッシュマンズは、自分にとって特別なバンド……ではなかった。よく聴いていた大好きな曲はあるけど、出ているアルバム全部を聴いているわけではないし、レビューを書いたことも取材をしたことも1度もない。なにより佐藤伸治が生きている間に一度もライブを観なかったことが大きい。RCやJAGATARAは評判になる前から足繁くライブに通いだしたことで自分にとって特別なバンドになった。フィッシュマンズも早い時期にライブを一度でも体験していたら、そうなっていたんじゃないかと今は思う。なんで観に行かなかったんだろう。そのことが猛烈に悔やまれる。

「フィッシュマンズは自分にとって特別なバンド」と言うひとの気持ちが、この映画を観てわかった気がした。好きだったひと・関わったひと全てにとって、特別だと感じないではいられない要素がたくさんある……というより、特別だと感じずにはいられない要素「しかない」バンドだったのだろう。

そういうバンドだったことがよくわかったのは、この映画がバンド結成当初から佐藤の死後までを、メンバー及び関係者や仲間の証言と昔のライブやテレビ出演時の映像とをうまく合わせて、順を追ってとても丁寧かつ親切に伝えていたからだ。当時からのファンや深く関わったひとからしたら、もしかすると「もうちょっとこういう側面を際立たせてくれよ」といった思いもあるのかもしれない。わからない。が、どっぷりフィッシュマンズに浸かっていたわけじゃない僕のような人間にとっては、ここで見たもの語られたもののほとんど全てが新鮮であり驚きでもあった。そうかぁ、こういうバンドだったのかぁ、こういうミュージシャン(たち)だったのかぁ、と、初めてフィッシュマンズを「わかった」ような気持ちになった(でもその一方で、知れば知るほどフィッシュマンズのことを「完全にわかった」という気持ちから遠のくというひとがたくさんいるというのも、わかる気がした)。

とにかく膨大であっただろう証言や映像を取捨選択して、初心者に歴史がわかるように、かつ退屈させないように、よく整理して仕上げた、優れたドキュメンタリーであることは間違いない。もっとライブ映像を長めに使ってほしかったという意見があるのもわからなくはないが、それをしてたら4時間を超えてしまうだろう。ただひとつ。それでも整理する上での監督の葛藤が痛いほど伝わるところがあって、それは終わりの数分だ。ひとつの映画としては、最後に再び若い頃のバンドが映って、佐藤があの楽屋のドアをパタンと締めたところ(もしくは締めたあとにまた顔をのぞかせるところ)でスパンと終わったほうがかっこいい。作品としての評価もそのほうが高くなるかもしれない。が、終わりかと思ったらまたメンバーの語りが入る。で、ああ、この言葉で終わりかなと思ったら……。終わりそうで終わらない。

スパンとなんて終われなかったんだと思う。どう着地させたらいいのか、恐らく監督は相当悩んだり、いくつかのパターンを考えたり試したりして、その上で、やっぱり終わらないし終わらせられないんだということを伝えるために、ああいうエンディングにしたのだと僕は思う。まだ終わらないし、終わらせられない、という感覚。ずっと続いていく感覚。それはフィッシュマンズというバンドそのものと彼らの音楽にそのまま重なる。だから、あの終わらせられない終わりの数分にこそ、監督の伝えんとする思いが溢れ出ている映画だと思った。故にタイトルも『映画:フィッシュマンズ』。そうとしか言えなかったのだろう。

以下、パラパラと。

無邪気だった頃の佐藤伸治、ちょっと清志郎に似てるとこあったな。ライブで前のレコード会社を軽くディスって「移籍最高」とか言っちゃう感じとかも。/  映画は佐藤伸治だけに焦点を当てるのではなくメンバー全員のあの頃と今の思いを伝えていて、だから『映画:フィッシュマンズ』なのだけど、とりわけ欣ちゃんというある意味この終わらない物語を進めていく(主役とも言える)ミュージシャンがああいう喋り方・歩き方をするひとだったことが、映画的にすごく効いていたと思った。/  マネージャーだった植田さん、それから佐藤伸治のお母さんの伸子さん。ふたりの女性の強さと優しさとステキさにぐっときた。/ ZAKさんの「天才も努力をすることで初めて何かを獲得できる」(この通りの言葉じゃなかったけど、ニュアンスは合ってるはず)という言葉が強く印象に残った。

終わってから勢いで最近出たムック『永遠のフィッシュマンズ』を買った。聴いたことのないアルバムもまだあるし、今頃だけど僕はこれからフィッシュマンズを楽しんでいく。この年で、こんなタイミングで好きになるのもいいじゃん。




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