『セッションマン ニッキー・ホプキンズ ローリング・ストーンズに愛された男』(感想)
2024年9月26日(木)
吉祥寺アップリンクで、『セッションマン ニッキー・ホプキンズ ローリング・ストーンズに愛された男』。
関係者の証言を繋いだ音楽系ドキュメンタリーはえてして地味でお勉強的なものになりがちだけど、これはかなりグッときた。好きなミュージシャン(ニッキー・ホプキンズ)のことを、好きな……またはある時期関心の高かったミュージシャンたち(ミック・ジャガー、キース・リチャーズ、ビル・ワイマン、チャック・リーヴェル、ジム・ケルトナー、ピーター・フランプトン、ニルス・ロフグレンほか)が話しているのだから、そりゃあそれだけでも引き込まれるわけだが、おとなしいホプキンズの音楽人生自体に知られざるドラマがあって、それに胸打たれた。キースを始め、出てくるミュージシャンほとんどみんながホプキンズのプレイのみならず人柄の素敵さを話している。愛された人だったんだなぁ。
個人的には証言者のひとりに元デキシーズミッドナイトランナーズのヘレン・オハラさんが出てきたことにびっくりしたし、「おおっ!」となった。ホプキンズが疲れて英国に戻ったとき、彼女と作品を作ったのだそうだ。
そんなことを始め、自分は知らなかったことばかりだった。ホプキンズが関与した曲だとは知っていたとしてもそれがどういう経緯やどういう関係性のもとに生まれたかなどは知らなかった、というものもたくさんあって、そのひとつひとつに「へぇ~」と思ったり少しばかり胸が熱くなったりした。これまでにさんざん聴いた、例えばストーンズの曲であっても、この映画で誰かが語っていることを聞いたあととなれば、響き方も変わってくる。「モンキーマン」しかりレノンの「ジェラスガイ」しかりジョー・コッカーの「ユー・アー・ソー・ビューティフル」しかりだ。
ニッキー・ホプキンズの星の数ほどあるワークをここで書き連ねることはできない。が、「レコードが聴ける家」さんのこちらのnoteに非情にわかりやすく整理されてある上にプレイリストもあるので、映画を観た人にもこれから観る人にも最適だ。僕も週末じっくりこのプレイリストを楽しませていただきます。
映画は、このようなホプキンズの数々のセッションをわかりやすく整理して教えてくれている。そしてそこから彼のパーソナリティと音楽人生が浮かび上がってくる。
初めの奥さんはずいぶんな人だったんだな、とか、重要な証言者のひとりでもある2番目の奥さん(モイラ・ホプキンズ)と幸せな日々が送れたことは本当によかったなとか、妻のサポートがミュージシャンにとってどれだけ大切かについてとかも改めて考えさせられる。
そんなニッキー・ホプキンズは長くクローン病を患っていたが、モイラがこの作品のなかで明かした死に至った直接の要因が痛ましい。僕は50歳で潰瘍性大腸炎になって、その後はそれの活動期と寛解期を繰り返すといった生活なのだが、クローン病もその症状においての特徴が共通していて、どちらも炎症性腸疾患に分類される。かなり厄介な難病だ。どちらも今でもはっきりとした治療法がないのだが、あの時代は今に比べてクローン病の世の理解も認知度も全然低かっただろうから、ツアーなんかできっこないし、さぞかし辛かっただろうなと、そんなことも思った。
それにしても、ホプキンズのピアノはいい。そのよさを端的な言葉で表現するのは難しいが、この映画を観て、そして彼のソロ作品を数年振りに聴き返してみて改めてそう思う。この9月の第1週に僕はジロキチでリクオのライブにチャールズ清水さんが出演したのを観たのだが、チャールズさんってホプキンズの影響も受けてるんじゃないかな、通じるところがあるな、なんてことも思ったりした。