betcover!! @渋谷WWW

2019年8月23日(金)

渋谷WWWで、betcover!!    新アルバム発売記念イベント『中二魂』。

3月のO-nestがbetcover!!にとっての初の単独公演だったが、そこから5ヵ月ぶりとなる2度目の単独公演。その5ヵ月の間には大きな変化があった。7月にフルアルバム『中学生』を出したのだ。しかもメジャー(avex内のcutting edge)で!

メジャーで出るとなると、当然プロモーションもしっかりなされるわけで、インタビューがいくつかのwebに出たり、CINRA.NETでは町田康との目から鱗がボロ落ちする対談が載ったりもして(この組み合わせを考えた編集者さん、グッジョブすぎ!)、つまり注目度がグッと高まったところでのグッタイミンなワンマンだったということですね。

当然その新作からの曲がライブの中心になるわけで、実際、新作収録曲は全て(だったよね?)演奏されたわけだけど、そのことを別にしても5ヵ月前のワンマンとはいろいろやり方を変えてきてた。まずバンドの編成が変わって、今回はトリオ。ベースが吉田隼人で、ドラムが岩方ロクロー。ギタリストはおらず、ヤナセくんが全曲自分で弾いて歌うあり方。3月のワンマンは3部構成で、1部がバンド、2部が弾き語り、3部が再びバンドという形だったけど、今回は弾き語りは中盤の2曲だけで、3月のライブの3部で展開されてた轟音表現をのっけからお見舞いするなどそれを軸にした構成になっていた。つまり、実際はけっこう曲の表現方法に幅があってどんどんチャンネル切り替えながら進んでいくものではあるのだが、印象としてはシューゲイザーみたいな轟音表現が強く残るというもの。よって以前のライブから感じられたフィッシュマンズ的な色合いはやや薄まってた印象だった(とはいえダブ的音響処理はブリブリになされてるわけだけど)。

しかし、そういう轟音表現をしていても、それが「歌」として響いてくる……つまり言葉が音に埋もれたりしない(埋もれさせない)のが彼の恐らく拘りであり強みでもあり、“だって自分はあくまでも歌うたいなのだから”という意識あってのことなのだろうと僕は勝手に想像する。歌うたいという立脚点だけはこれからもずっと揺らぐことはないんじゃないかと。つまり芯が「歌」なんですね。表現の出力がオルタナになろうと、ダブになろうと、なんだろうと、言葉あっての歌。そういう意味で僕は(フォークでもロックでも表現の芯がブレなかった)清志郎とヤナセくんを重ねたりもしてしまうんだけど。

だから、凄まじくオルタナティブだなと感じるところもありながら、ポップさも共存してて(それ、美しいメロディによるところが大きい)、結果、とっても音楽的。それ、当然演奏力あってのことであり、昨日はヤナセくんひとりがギター弾いてたこともあって、ギター弾きとしての持ち味みたいなところにも目と耳がいったし、吉田隼人というベーシストはきっとヤナセくんにとって頼れる(安心できる)存在なんだろうと思えたし、すっかり見た目(髪形!)の変わった岩方ロクローというドラマーのすごさもまざまざと見せつけられた。ああいうオルタナティブ表現をヤナセジロウが思い切りできるのは、岩方ロクロー(ニトロデイ)というドラマーがいてこそなんでしょうね。言葉にして伝えたいことをうまく言葉にすることができずに「えーと」とか言ってるヤナセくんにすかさず助け船だして今後のライブのスケジュールをきちんと説明してたのもロクローくんだったし。ヤナセくんにとってのいい女房的な存在なのかもしれん。

それにしても3人であの音圧って相当すごいと思いましたよ。たとえPA卓での増量操作があったにしてもね。

全般的にアレンジが録音ブツと大きく違っているのは前回同様だが、新作の曲もやはりそうで、そうして一度作り上げた曲を躊躇なく解体したり再構築したりして育てていくのがbetcover!!流儀なんだなと思ったりも。

で、述べたようにどんどんチャンネル切り替えながら進めていくあり方なので緩む場面なんてのは少しもなく、もう全部が名場面とか言いたくなる感じでもあるんだが、なかでも震えたのが、粗雑に重要な言葉(普段あまり外に出さない正直な気持ち含む)を投げ放ったポエトリー的なそれと、そこに続けた「異星人」。そこで僕は猛烈に感動してしまった。

あと、いままでライブ観たなかで昨夜のヤナセくんは一番堂々として見えた。いや、MCのときにはいかにも喋るの苦手そうで、照れがあって、照れのあまりに奇声発したりしちゃうのは変わらないんだけど、演奏時の態度には何かこう(誤解されそうな言い方だけど)ある意味においてのメジャー感たるものがあった。覚悟みたいなものかな。それって大きいよなと僕は観ていて思ったのだった。音楽があって本当によかったね。

最近は本当に音楽的偏差値の高いマルチな才能持った若いミュージシャンがどんどん出てきて、しかもみんな古い音楽も新しい音楽もたくさん聴いて消化していてすごいなー、新時代だわーとかよく思うんだけど、そんななかでもとりわけ僕がbetcover!!に惹かれるのは、いかにも利口そうな(理論的な)若いミュージシャンが多いなか、彼は音楽と言葉の才能が極端に秀でているけどほかはいかにも不器用そうで人付き合いとかも苦手そうで、しかもちゃんとふてぶてしくて、根っこには優しさがあるっぽいところ。何度も言ってるけど、僕は昔からいかにも頭よさそうな、音楽という方法じゃなくても社会で立派にやっていけそうなミュージシャンにはまるで共感しないタチなので……。まあそんなわけだから、『中学生』ってアルバム出して、「中二魂」を掲げてライブやるような彼の表現には年齢差関係なく共感しまくってしまうし、いま一番ぶっ刺さるところが多く、まぶしさすら感じるアーティストであるのだった。

あと、アンコールはなく、3人がステージ去ってすぐにRCの「ヒッピーに捧ぐ」が流れたのにも意味性感じて鳥肌立った(因みに開幕前はずっと大貫妙子)。そういえば3月公演の最後に流れたのは高田恭子「みんな夢の中」だったっけ。ストリーミング時代になってジャンル関係なしにたくさんの音楽を聴いてる若い子が増えたけど、彼はそのなかでも聴くべきものというか、自分にとって重要な音楽がどういうものかを直感的にわかって選別できてるんだろうな。

↓こちら、3月の初ワンマンを観ての感想。

『中学生』リリース時のインタビュー記事をいくつか読んだけど、それもいちいち面白い。小熊俊哉さんによるこれとか最高↓。必読。

渡辺裕也さんによる下のも。「人柄で音楽を判断してる」とか、すごいわかる。ぶっちゃけ僕もそういうとこあるしな(それって音楽ライターとしてはダメなんだけどね)。








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