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『すばらしき世界』

2021年3月3日(水)

新宿ピカデリーで、『すばらしき世界』。

西川美和監督を信頼している。今回も唸らされた。が、西川監督ならではだな、さすがだな、と思うところはありつつ、これまでの作風とはずいぶん違うという印象も持った。もちろん、これまでの作品はオリジナル脚本で、今作は小説(『身分帳』)を原案とするという初の試みだった、というのは大きいだろう。が、そういう印象を持った理由はそれだけではない気がしている。

商業映画としてある種の風格を備えた映画だと感じた。確実に効いてくるジャブを何度も打って最後に意外にもストレートをくらわす、というような作りになっていた。だからやっぱり自分も泣いたし、監督のメッセージがビシッと届いたのは確かだが、西川監督のこれまでの作品ってこういう感じではなかったよな、という感覚も同時に抱いた。いい悪いじゃなく、西川監督のファンの間でもしかしたらけっこう賛否が分かれる作品かもしれない。あと、こう書くと上からっぽくてアレだけど、終盤でもうひと踏み込みしてほしかった気はした。

『すばらしき世界』というタイトルだが、これはアイロニーではなく、社会はどこまでも冷酷だけれど、でも人間は「捨てたもんじゃない」……その「捨てたもんじゃない」を「すばらしき」という言葉に置き換えたのだろうと自分は解釈した。哀しい展開だけど、仲野太賀さん演じる津乃田は何かを確かに見つけただろうし、きっと彼は書き上げるだろう。すばらしき世界。そのタイトルが最後に浮かび上がるのがよかった。たぶんそれは、ある種の祈りというか、ギリギリ託したかすかな希望なんだろう。

役所広司さんはもちろんのこと、仲野太賀さん、橋爪功さん、梶芽衣子さん、六角精児さん、北村有起哉さん、白竜さん、山田真歩さんと、どの役者さんも素晴らしかった。個人的にはいつもそれほどピンとくることのない長澤まさみさんもハマり役に思えた。しかしなんといってもキムラ緑子さん。耳元での囁きの魔術的な怖さと、それとは対比的なあのあとの場面。ぞっとするほど凄い女優さんだなと、改めて思った。

帰り、パンフレットは買わなかったけど、西川監督の込めた思いとこだわりをもっと知りたくて、紀伊国屋書店で『スクリーンが待っている』(この映画制作から公開までの日記的エッセイ)を買った。読んだら、前述した自分の抱いた印象の理由もわかるかもしれない。


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