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『バティモン5 望まれざる者』感想

2025年5月24日(金)

吉祥寺アップリンクで、『バティモン5 望まれざる者』。

前作『レ・ミゼラブル』(2019)を観て”やられ”、この監督は追っていきたいと思っていたフランスはモンフェルメイル出身のラジ・リが監督・脚本を手掛けた新作。

『レ・ミゼラブル』と繋がったテーマを持ち、同じ製作スタッフが再集結して作られたものだが、『レ・ミゼラブル』以上にドキュメンタリー的なタッチで描かれた「もうひとつのパリ」。今作もラジ・リ監督の実体験がベースになっているそうだ。

パリ郊外(=バンリュー。“排除された者たちの地帯”との語源を持つ)に立ち並び、移民たちが多く暮らしている居住団地群の一画=バティモン5。老朽化が進むそこを一掃しようと動く「行政」と反発する「住人」の衝突を描いた作品で、群像劇の形をとっている。

『レ・ミゼラブル』同様、いやそれ以上に緊迫感が最後まで続く。和みの場面がなく、この緊迫感の持続こそがラ・ジリの個性であるとも言えるし、その意味だけにおいては『辰巳』の小路紘史監督と通じるところもあるなと思ったりもするが、ラ・ジリは現代社会の暗部と、弱者を暴力へと駆り立てるそのプロセスをしっかりと描く。プロセスを描くからある種の共感が生まれ、胸が苦しくなる。

憎悪と怒りが噴出し、充満し、そして爆発もする。どのように噴出し、充満し、爆発に至るのか、そのプロセスが描かれる。住人のそうした感情が湧き起らないようにするのが本来行政のすべきことなのに、新市長は火に油をジャバジャバと注いでいく。そんな出方をするから充満して爆発するんじゃないかと、席に座って映画を観ている我々にはわかるのだが、当人にはわからない。だからイライラするしムカムカする。

たなぼたで臨時市長になったピエールの行動は、住人たちの気持ちになって見ていればそりゃあ腹の立つ無茶苦茶なことばかりなのだが、しかし彼は立派な医者でもあり、クリーンな政治活動をしようと真面目に考えている。そのエリアの復興と治安改善を真剣に考え、それ故の政策ではあるわけだ。が、権力を手にしたことで相手の感情を読めなくなり、自分の守るべきもののために人を傷つける。初めから権力がほしいだけの悪者なら話は簡単だが、ピエールにはピエールの正義感があって、だから話は厄介なのだ。さらに自分も移民出身であって住人の苦しみもわかっていながら権力者側に組み込まれることとなった副市長のロジェもいる。こういう背景を持った人物は実際にもたくさんいるのだろう。

絶望的で、出口がない。そしてこれは遠いどこかのただのお話ではない。例えばホームレス排除の宮下公園。あの問題を思い出さずにはいられない。繋がっている。排除とは、暮らしとは、権力とは、尊厳とは……。結論を出すのではなく、ガツンと重く投げかけるラジ・リは、やはり信頼できる監督だ。

ラジ・リに見出されて主役に抜擢されたアンタ・ディアウ(アビー役)が素晴らしかった。





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