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「ザ・たこさんのアイアンクローシリーズ~結成30周年SP」@晴れたら空に豆まいて

2023年10月7日(土)

代官山「晴れたら空に豆まいて」で、ザ・たこさんのアイアンクローシリーズ~結成30周年SP。出演は順にPAHUMA、EMILAND、ザ・たこさんwith烏賊様ホーンズ(梅津和時、多田葉子)。

巌流島無観客ライブに始まり、今年は結成30周年ということでスペシャルなライブをいろいろ展開中のザ・たこさん。晴れ豆はそういえば初登場だが、雰囲気はよく合っていた。

DJはあうんさん・すうじぃ。最高のソウルナンバーを次々にノリノリで繰り出す。「ああ、これ大好きだったな」という曲がいくつもあって、開演前から気持ちが上がる。そして、呼び出し役のキチュウ。「もっとこいよ~」と煽っておいて「OK、ゆっくりいこうぜ」と言ういつもながらのキチュウ節。夏のザ・たこさんの荻窪公演に僕は行けなかったので、キチュウのこの感じ、ちょっと久しぶりだったな。セットチェンジのときにはキチュウ・ラップも聴けたし。スベリをわかりながらタフにやりきるあの感じ、僕は好きよ。

ライブの1番手は、PAHUMA(パフマ)に改名して活動中の金佑龍。PAHUMA改名後にウリョンくんのライブを観るのはそういえば初めてだったが、これが素晴らしかった。ギター弾き語り。やはり声がいいし、歌唱表現力(抑揚のつけ方など)は以前よりグンとアップしている印象を受けた。何度かライブで聴いた曲もあったが、初めて聴いたいくつかの曲……大阪・西成のことを歌った曲とか、認知症の人のことを歌った曲なんかの歌詞がグサグサ胸を突き刺してきて、歌の力というものをめちゃめちゃ感じた。甘い歌だけじゃなく、厳しい現実を見据えた曲がいくつかあって、それでもそれらは決して悲観的ではなく、その塩梅にフォークシンガーとしての進化または成熟を感じた。PAHUMAとしての音源はまだサブスクにもないようだが、あれだけいい曲がたくさんあるのだから、アルバムのリリースも叶うことを願っている。

2番手はEMILAND。ズクナシのライブは何度か観てクアトロでの解散ライブも観に行ったし、ザ・たこさんも出演した吉祥寺での「SOULBOOK」が楽しかったのもよく覚えているが、EMILANDになってから観るのは初めて。衣美さんの歌いっぷりは今も変わらずパワフル&ソウルフルで、音楽性はファンク味ありのソウルが基調になっていて、観る者を巻き込んでいく力を有している。三宅伸治&the spoonfulのメンバーも兼ねる茜さんのドラムも抜群によく、また元Mountain Mocha KilimanjaroのBobsanのギターはかなりクセがあって個性的だ。バンドとしてはズクナシでの成果と音楽的財産を引き継ぎながらファンク味の部分をよりパワーアップさせたというあり方で、やはりこういうホットなバンドはシーンに必要だよなと思わされた。ただひとつだけ言うと、歌詞があの歌唱及び演奏表現に追いついていってないという印象。締め切り前の気持ちを歌った「せねば」など着眼点は面白いのだが、あともうひとひねりorもうひと堀りあればもっと心に響くのに、とは思った。

トリはもちろん我らがザ・たこさん。この日はなんといっても梅津和時と多田葉子からなる烏賊様ホーンズ(イカさまホーンズ)が一緒というのがスペシャルなところだ。梅津さんと多田さんが普段から烏賊様ホーンズと名乗っているのかというと、そうではない。ザ・たこさんとやるときに限ってこの名を使う。withブルーデイ・ホーンズみたいなあり方だ。たこさんに対していかさま(「たこ」に対する「いか」、「さん」に対する「さま」と二重にかかっている!)ということで、命名は梅津さん。さすがのセンス。大阪では確かコロナ禍真っ只中の3年くらい前に初共演があり、その後2年前にも「梅津さんと遊ぼう再び!」と題されての共演ライブがあった。それを配信で見ながら、ああ東京でもこれをナマで観たい!と僕は願っていたのだが、遂にその思いが叶ったというわけだ。いやもう、最高です。ホーン入りのザ・たこさん。繋ぎ曲の「タングヤウン」ですらホーンが入ると厚みが出るっていう。

ソウル&ロック味のあるバンドと梅津さんの組み合わせで言えば、そりゃあどうしたって思い出すのはRCサクセションに始まる清志郎のいくつかのバンドであって、インストのバンドとかで吹くときともまた違い、清志郎のようなクセのあるヴォーカリストと一緒にやるときの梅津さんにはそういうときならではの弾け方がある。ジャズ演奏のときとは回路が少し違うというか、梅津さんの全身がそういうクセの強いヴォーカリストに反応して喜んでいる感じがあって、だから安藤さんとの相性、ザ・たこさんとの相性は超ピッタリだったし、梅津さんも多田さんもザ・たこさんとの演奏をめちゃめちゃ楽しんでいるのが見てとれた。わかりやすく言うなら、清志郎と一緒にやっているときのあの梅津さんがここにいる、といった感じなのだ。梅津さんにそういうスイッチを入れられるヴォーカリストが何人もいるかといえばそうではなく、やはり安藤八主博という稀有な歌うたいの力なのだろう。

梅津さんがいるからには……ということで、序盤でいきなりRCの「スローバラード」。さらに終盤では晩年の清志郎の名曲「激しい雨」が歌われた。「スローバラード」はこれまで何組かのアーティストがライブでカヴァーし、録音してCDを出したアーティストもいる。なかなかいいじゃんと思えたものも、全然ダメだと思ったものもある。僕が聴いた限りでは、フジでのUA、ライジングでの志帆ちゃん(Superfly)、あと何度かフェスで聴いた奥田民生のそれはまあまあよかった。全然ダメなほうの名前は書かないでおくけど、わかる人にはわかるでしょう。が、まあまあよかったと思えた人たちもかなり自分流に節を変えてこの曲を歌っていた。清志郎の節の通りに歌うのは相当難しいのだ。そんななかで最もオリジナルの、清志郎の節をくずさずに歌ってみせたのが安藤さんだ。「ガッタ」の入れどころのタイミングやニュアンスもかなり忠実。忠実だけど学習的にオリジナルを何度も聴き返して意識的にそうしているというよりは、耳とカラダで清志郎のその押し引きやタイム感を自然に身につけたといった感じで、そのあたりがほかの人の歌うスロバラとは大きく違っていて素晴らしかった。そういう安藤さんの歌に、僕がRC時代から何度も体感した梅津さんのあのサックスがかぶさるのだからたまらない。グッときまくっちゃったな。

「激しい雨」もしかり。梅津さんのサックスが鳴って、安藤さんが「RCサクセションが~ 聴こえる~」と歌うのだ。うん、聴こえたよ。確かに。RCサクセションが。

加えて書くと、スロバラのあとの「かっこいいだろ?!」「スローバラードを歌うオレ、かっこいいだろ?!」の振りからの「カッコイイから大丈夫」、それと新曲「もうええんちゃいまっか」からの「激しい雨」、その繋ぎ方がまたかっこよかった。あともうひとつ、お馴染み曲「ケンタッキーの東」での吉岡さんのドラムの強い叩きっぷりにも心が騒いだな。新生ザ・たこさんの強力なバンド感の要となるのが吉岡さんのドラムだということを強く思った瞬間だった。

で、そんな特別感ありのライブなだけに「我が人生、最良の日」がバシっとハマるというね。

終演後も続くすうじぃのDJっぷりも含め、全部が最良でした。12月のクアトロ・ワンマンも楽しみです(烏賊様ホーンズにも来てほしいなぁ)。






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