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ロッド・スチュワート@有明アリーナ

2024年3月20日(水・祝)

来日公演は13年ぶりとのこと。そうか、最後に武道館で観てからもう13年経つのか。確かにずいぶんと久しぶりの感があるし、これが最後の来日公演とも言われている。自分は特に70年代後半から80年代後半にかけて、まあまあ熱心にロッドの作品を聴いていた人間だ。近頃の単独来日公演は高額のものが多く、ダリル・ホール&トッド・ラングレンもボズ・スキャッグスもエルヴィス・コステロもブルーノ・マーズもジャネット・ジャクソンも観たいと思いつつ高額故に見送ったんだが、ロッドとなれば話は別。見送るという選択はなかった。

席はスタンドだが、ステージの真正面だった。音響もよく、いい環境で観ることができたと思う。完売はしなかったようだが、それなりにしっかり埋まっているように見えた。ロッドの機嫌もいいようだった。

意外にもオープナーが「インファチュエイション(お前にヒートアップ)」で「おおっ、この曲で始まるかー!」と前のめりになっていたら、続く2曲目でなんとフェイセズ「ウー・ラ・ラ」をやるもんだから驚いたし早くも胸が熱くなった。

そこから先は、出るわ出るわ、ヒット曲及び重要曲が次々に。MTVを味方にヒットシングルをばんばん放っていた80年代のロッドは、けっこう賛否分かれる…というか、ロックとして見るとダサいと言う人も少なくないんだが、僕はその時代のそういうロッドもけっこう好きでアルバムも買い続けていた。なので、前出の「インファチュエイション」とか、「フォーエヴァー・ヤング」とか、「パッション」とか、とりわけ大好きな「ベイビー・ジェーン」とかが歌われるとウッヒョ~っと気持ちがあがったし、もちろん一緒にソラで歌えた。

ロッドはカヴァー・ヒットも多い人で、トム・ウェイツ「ダウンタウン・トレイン」とかロバート・パーマー「サム・ガイズ」とか、オリジナルも好きだったけどロッドの明るめのカヴァーも好きだったので歌ってくれて嬉しかった。CCR「雨を見たかい」もキャット・スティーヴンス「ザ・ファースト・カット・イズ・ディーペスト」(この曲は僕はシェリル・クロウのカヴァーが大好きだった)もロッドの歌声でこその味わいがあった。でもなんといってもヴァン・モリソンの「ハヴ・アイ・トールド・ユー・レイトリー」。これが沁みた。90年代に入って僕のなかのロッド熱はだんだんさめてもきてたんだけど、これを取り上げた『ヴァガボンド・ハート』は好きで。この曲が歌われたとき、さすがにちょっと涙出た。

80年代のロッドもいいが、自分がリアルタイムで最初に買ったロッドのLPが77年の『明日へのキック・オフ』で(自分にとって最も思い入れが強く、一番いいアルバムなんじゃないかと思う)、そのきっかけは当時大ヒットしていて「ダイヤトーン・ポップス・ベスト10」でも上位にい続けたのでそこで聴いて好きになった「You're In My Heart (胸につのる想い)」だったので、それを歌ってくれたことも(一緒に歌えたことも)とても嬉しかった。このアルバムからは「ただのジョークさ」もやってくれるんじゃないかと勝手に期待してたし(数年前のロイヤルフィルとの共演バージョンもよかったので)、「ホット・レッグス」はきっとアンコールの最後に(サッカーボール蹴りながら)やるのだろうと思っていたのだが、それはなかった。まあしゃあない。

ギターがミスってやり直してたけど「マギー・メイ」ももちろんやったし、ヒット曲と言われる曲はほとんど歌ってくれた気がする……けど、ヒットパレード故によかったということではなく、その間にエタ・ジェイムスの曲で、ロッドはフェイセズのライブでも取り上げてた「アイド・ラザー・ゴー・ブラインド」を歌ってくれたりしたことに僕はしびれてしまった。そうなんだよな、ロッドはロックヴォーカリストとして一般的には知られてるけど、僕はロッドのソウル表現、ソウル曲を歌うロッドというのも大好きなのだった…ということをこれ聴いて思い出した。今回のショーでこの曲を取り上げてくれたロッドに、ああもう、だから好き!ってなっちゃった。

で、この「アイド・ラザー・ゴー・ブラインド」を今回ロッドはクリスティン・マクヴィー追悼の意を込めて(クリスティンの写真をスクリーンに映し、彼女の在籍したチキン・シャックの曲として)歌ったわけだけど、ほかにもジェフ・ベックがギター弾いてた「インファチュエイション」を初っ端に持ってきたりとか、ティナ・ターナーの写真映してティナとデュエットした「イット・テイクス・トゥー」を歌ったりとか、そういう大きな歴史のなかに今の私がいるんですよといったところを伝えてくるセットリストになっていたのも素晴らしいと思った。

演奏としては、特にショーの前半でフィドル、マンドリン、ハープなどを演奏する3人の女性をフィーチャーするなどしてスコティッシュの色を強く表していたのがよかった。こうした出自表現にロッドはちゃんと意識的だよなと。それと、ストーンズとかEストリートバンドとかレイニーウッドとかがそうだったように、こういうバンドのなかでサックス奏者をしっかり前に出して掛け合う感じも、最近はやる人あんまりいなくなったけど、やっぱりいいなと思ったり。

で。肝心のロッドのヴォーカルはどうだったかというと。79歳ですからね。そりゃあ全盛期に比べたら声量は落ちてるし高いほうの伸びがない(ちょいちょい引っ込んで女性ヴォーカルトリオに任せたりもする)。でもそれに対して僕は残念というふうには思わなくて。むしろそこに人としてのリアルがあって、かえってグッときた。少し弱めになった声で「ハヴ・アイ・トールド・ユー・レイトリー」とか「ザ・ファースト・カット・イズ・ディーペスト」をじっくり歌うからこそ胸に沁みた。そこに刻まれたその年輪。そのリアル。歌ってえのは声が強けりゃいいってもんでもない。そりゃミックやビリーは未だ衰え知らずって感じだけど、言うたらあっちのほうがどうかしてるわけでね。

それに、それでもお茶目に踊ったりして元気は元気だし、「セイリング」で終えずに最後を「スウィート・リトル・ロックン・ローラー」で締めるっていうのも最高じゃん!

というわけで、いろんな関係性踏まえつつ自身の出自やら歴史やらも伝えながら楽しませる構成で、これはもういわゆる神セトリってやつ。いやぁ、観に行って本当によかった。しばらくロッド聴き直し期間に入りそうです。

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