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『SKIN/スキン』

2020年7月5日(日)

吉祥寺アップリンクで、『SKIN/スキン』。

つい最近、ネットで無料公開されて話題になっていたアカデミー賞短編実写賞受賞作『SKIN 短編』を観て衝撃を受け、これは(長編の)『SKIN/スキン』も観に行かねばと決意。で、そう時間をあけずに観に行った。

白人至上主義のネオナチ・グループ「ヴィンランダーズ・ソーシャル・クラブ」(VSC)の主要メンバーとして育てられ、差別と暴力に生きてきた男が、生まれて初めて愛を知り、組織からの脱退を決意。これまでの悪行を悔いて新たな人生を築こうとするが……。

『SKIN 短編』はレイシストの男を通して人種差別問題に鋭く分け入った作品だったが、長編のほうはレイシズムの渦中からどのようにそこから逃れていくかを描いた作品。つまり、投げかけてくる問題意識と背景に通底するものはあれども、まったく異なる物語だ(車を使ってのサーフィンのシーンなど、短編でのシーンが長編にも活かされたりといったところはあるが)。

また、短編は実際の事件を基にしたものではないが、長編は実話。

そういう違いはあるにせよ、全編通しての緊迫感、不穏な空気感、それを表現する暗めの映像のトーンと、重苦しい音楽は二作に通じるもので、凄まじくも容赦のないエネルギーに打ちのめされることになる。監督のガイ・ナティーヴの「今これを伝えなくては」という圧倒的な情熱が伝わってきた。

新鋭監督であり、脚本と制作も担当したガイ・ナティーヴは、1973年、イスラエルはテルアビブの生まれ。『SKIN/スキン』はアメリカでの初長編作となる(現在、ロス在住)。もともと本作の主人公のモデルとなった元レイシストのブライオン・ワイドナー(過去の自分と決別すべく16ヶ月に及ぶタトゥー除去手術に挑んだ男)を追ったTVドキュメンタリーに感銘を受けて映画化を思い立ったそうだが、賛同する会社が現れず、制作資金を募ることを目的に制作した『SKIN 短編』が反響を呼んで、この長編の制作に至ったそうだ。

その容赦なきバイオレンス描写と、根底に滲む愛(優しさ)。自分はそこに、2010年代の日本映画の大傑作『ケンとカズ』を撮った小路紘史監督とどこか通じるものを感じたりもした。『SKIN 短編』と『SKIN/スキン』の2作で僕はガイ・ナティーヴ監督を全面的に信頼し、これからの作品も全て追いかけていこうと決めたのだった。

顔面タトゥーだらけで見るからに怖いスキンヘッドの主人公を演じるのは、かつて『リトル・ダンサー』で名子役として名をなし、最近はエルトン・ジョンの『ロケットマン』でバーニー・トーピンを演じたジェイミー・ベル。なんといっても彼の痛ましいほどリアルな演技が素晴らしい。撮影中、彼は「タトゥーに閉じ込められる感覚を肌で感じたかった」ということでずっとタトゥーを入れたまま生活し、周囲の反応を観察していたそうだ。

どんな人間であろうとも生きていく上でなんらかの痛みを伴うものだ。が、そういうものだとわかっていようとも、この主人公の痛みはあまりに苛烈で想像を絶する。精神と肉体のその激痛が観ているこちらにも伝わってきて、ずっと痛みを感じ続けなくてはならないほどであるのがこの映画の凄いところだ。

こっち側の正義はあっち側の悪になり……といった入り組んだ構図はラジ・リ監督作『レ・ミゼラブル』同様。差別と不寛容のこの時代・この世界を生きてく上で、これはいま観ておいたほうがいい作品。

果たして希望は、愛は、未来は、あるのか、ないのか。あったとしたらその先は明るいのか、棘の道なのか……。終映後、いつまでも彼の“ここから“を考え続けた。

個人的には2020年の年間ベスト3入り決定。胸えぐられまくり。









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