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『Renaissance:AFilm by Beyonce』(感想)

2023年12月23日(土)

TOHOシネマズ日比谷で、『Renaissance:AFilm by Beyonce』。

ビヨンセが2023年に行なったワールドツアー「ルネッサンス」のステージと公演までの軌跡を追った音楽ドキュメンタリー。

ライブをそのまま丸ごと見せる作りではない。かなりの割合がライブシーンではあるけれど、プライベートとメイキングのドキュメンタリーパートを挿入しながら映画として再構築された見応えありまくりの2時間48分だ。そうした作りによって、今のビヨンセの考え方……人生について、自分の役割・使命について、文化について、家族について、愛について、差別について、音楽について、などの考え方が非常によくわかる。彼女が成し遂げたことがどういうものだったかや、何とどう戦ってきたかや、どうありたいと考えているのかがよくわかる。ひとつのツアーを追ったライブムービーでありながら、結果として優れた“人間ドキュメンタリー“となっているのだ。

監督も総合総指揮もビヨンセ自身であり、これを映画にすることで彼女が何を伝えたかったのかが非常に明確。つくづく主体性と客観性の両方をバランスよく持ち合わせた人であるなと思った。

ドルビーアトモスの効果もあって(しかも前から3列目のど真ん中の席で観たこともあって)音と映像の迫力がとてつもない。ライブシーンを観ているだけでも相当の高揚感が得られる。が、そこで歌われる曲に込めた思いや背景、あるいは演出の意図などを説明するビヨンセの言葉が挿まれることで、高揚感と共に意味の重要性を受け取れる仕組みになっている。だから、これを観たことで初めて『ルネッサンス』というアルバムにビヨンセが何を込めたかが初めてはっきりわかった。こういう映画を作れる人は何人もいないが、ミュージシャンなら誰でもこういうものを作りたいと思うのではないか。

それにしても、ビヨンセの言葉ひとつひとつの説得力がすごい。自身の身をもっての言葉、体験を通しての言葉であるゆえだ。説得力を、ねじ伏せる力と換言することもできる。言葉のみならず、演出も衣装もしかり。あんな演出とか、あんな衣装とか、あんなポーシングとか、ほかの人がやったら(着てたら)笑ってしまいそうなものもあるが、ビヨンセがそれをやったり着たりするとそれが正解になる。誰が何と言おうと私にとってはこれが美しい、これがかっこいい、といった自身の価値基準に1ミリのブレもないからだ。

ネタバレになってしまうので、これからご覧になられる方はとばして読んでほしいのだが、感動して涙したシーンもいくつかあった。その最たるものが、ダンサーとして起用した娘の成長エピソード。それから誕生日の公演のサプライズゲストとしてあの人が登場したときのビヨンセの駆け寄り方。あとデスチャのふたりとの再会場面も。

いや、それにしてもビヨンセは凄い。体力、精神力、創造力、生命力、その全てにおいて、僕が100人いても叶わない。そう、誤解を招きかねない書き方になるが、この感動は、音楽の力、音楽の素晴らしさという以上にビヨンセという人間の凄さなのだ、と僕はそう思った。悪い意味じゃなく、1曲1曲はそこまで印象に残らない。ビヨンセという人間が凄い、ってことだけがひたすら残った。

31日まで1日1回限定上映。ぜひとも劇場で「体感」すべき。





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