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FUJI ROCK FESTIVAL'21 (前編)

開催2年目の1998年から毎年全日参加してきたフジロック(2000年代中頃からは前夜祭も含む)。去年は中止となったので2年ぶりに参加した。

行く前の心境。そして当日。

ウイルスの感染状況が非常に深刻になり、それに伴い医療体制が危機を迎えているため、多くのひとがそうだったように自分も行くべきかやめるべきかを考えた。前日の木曜日に、FBに心境を書いた。別に書かなくてもいいことだったかもしれないが、なんでもないように黙って行くのもなんかなぁと思ったのと、このような心境になりながらも行く決断をしたことをあとになって自分自身がどう捉えるか、記録として残しておこうというのもあって書いた。

フジロックに参加します。 予定では今日前のりするつもりだったんだが、事情があって明日の早朝出発にした。 感染拡大が非常に深刻な状況であるだけに、正直不安はある。ちょっとじゃなく、けっこうある。後ろめたさみたいなものもある。SNSでは主催...

Posted by 内本 順一 on Thursday, August 19, 2021

いま読み返すと、そこに述べた考え方も甘いというか言い訳がましいというか、突っ込みどころ満載だなと思う。結局のところ「後ろめたさがありながら、それでもどうしても行きたかった」のだ。行かないで家で配信なんか見ようものなら、どうして自分はこの場所にいないんだと考えて気持ちが病むことがわかっていたから行くことにしたのだ。それは完全に自分のエゴだ。そうと気づいていたから尚のこと、前日夕方に大きなリュックに荷物を詰めながらも気分は重かった。本来は楽しむために行くはずなのに。

因みに苗場では毎年、自分と妻を含め7人で同じ宿の大部屋に泊まっている。1年の間にそのときしか会わない友達もいて、部屋や会場であれこれ語り合うのもフジの楽しみのひとつだ。が、今年は感染拡大に拍車がかかり出した頃に妻と2人の友人が行くのを断念。続いて日帰り参加予定だった友人も不参加を決め、さらに前日には参加すると言っていたひとりが熱中症にかかって不参加に。結局今回は自分とあとひとりのふたりだけということになった。

そんなことも手伝って前日は気持ちが沈み気味だったが、当日早くに起き、大きなリュックを背負って家を出て歩きだしたときから「とにかく行くのだ!」というモードに切り替わってきた。東京駅からサンドイッチとコーヒーを買って越後湯沢行きの新幹線に乗ると、それだけで心が沈んでた場所からだいぶ浮き上がってくるのを感じた。新幹線に乗ること自体、いつ以来だろう。たかだか1時間40分程度なので旅というほどのものでもなかろうに、窓の外の景色をぼんやり眺めていたら久々に旅の気分になりだしたのだ。なんて単純な。

因みに新幹線乗車の際もホームで注意喚起アナウンスが何度もなされ、車両の席も2席の並びにはひとり、3席の並びにふたりが座る際には必ず真ん中をあける形がとられていた。3人以上のグループであってもそのように座り、大声で喋っているひとはいなかった。そりゃあその前段階で感染していたらば話は別だが、少なくとも新幹線内での感染はないと思えた。

いつもは妻の運転する車に乗って宿に行くので、越後湯沢駅はずいぶん久しぶり。数年前に新幹線で来たときはシャトルバスに乗る際にもそれなりに並んだ記憶があるが、ほとんど並んで待つことなくあっさり乗車できた。乗車前には、前もってスマホにインストールして登録しておいたフジロック公式アプリの写真入り画面(18日水曜日以降の体温が記された画面)をスタッフに提示し、検温と消毒を行なったら「検温済み」証明リストバンド(紙製)をもらって自分で手首に巻き、乗車の際にもう一度消毒。バスに乗ると清志郎のフジロック・テーマ曲「田舎へ行こう」がかかっていて、当然自分の気分は「ああ、苗場に来たんだー」と上がるわけだが、誰ひとりはしゃいだ声など出さず、みんなとてもおとなしくバスに揺られていたのだった。

バスを降りて宿まで歩く。空がとても青くて、橋を渡って宿に近づくにつれ緑が増える。2年ぶりのその変わらない景色を見て心が嬉しがっていた。空気がおいしい。「帰ってきた」という感覚をおぼえる。

宿のいつもの大部屋で荷物をほどいてフェス用の服に着替え、休むことなくいざ出動。ひとりなので、動きは早い。グリーンの一番手、OKAMOTO'Sに間に合わせるよう動いたつもりだったのだが、入場に少し手間取って時間をくってしまった。

入場口にはやはりそれなりの列ができていた。並んでしばらく進んだところで、リストバンド交換所は列から少し離れた別のところにあることがわかり、そっちに行って交換してからまた列に加わった。入場口ではシャトルバス乗車時と同じように、まずフジロック・アプリの写真入り画面をスタッフに見せてから、消毒&検温(消毒と検温が同時にできる機械なんですね。レストランとかもあれがあるとよさそう)。で、シャトルバス乗車時に「検温済みリストバンド」をもらった人以外の人はそこでそれを受け取る。それから荷物検査。アルコールの入った瓶など持っていませんかとも問われ、それに答えて入場と、そういう段取りだ。

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↑自分が初日にここをくぐったのは、11時くらい。恐らくもっともひとが集中した時間帯じゃないだろうか。この写真を見て「密じゃないか」と突っ込まれたら「そんなことない」とは言い切れないが、スタッフはディスタンスをとることを拡声器で伝え、みんな慌てず前の人との距離を意識しながらゆっくり進んでいた。

例年ならパレス・オブ・ワンダーのあれこれのオブジェが飾られてあるところには何もなく、草が生えたままだった。が、ゲートをくぐる少し前の左側には「イエロークリフ」という名称で新設された飲食スペースがあり、けっこうゆったりしていていい感じだ。ここは来年以降もあるといいんじゃないかな。

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「来ましたー」とたくさんの人たちがインスタに写真をアップするゲートをくぐって会場内へ。この川、この山、この雲、この空気。開放される。前日の気分の重さはもうなくなっていた。でも油断は禁物。それでこうツイートした。

どのように感染対策がなされていたか。

観たライブの感想を書く前に、先に場内の雰囲気や感染対策がどうなされていたかなどをざっと書いておこう。もう既にいろんなひとが個人のブログやnoteに書いておられて、重なるところも多いけど、自分はどう感じたかをやはり自分の言葉で残しておいたほうがよいだろうから。

まず、感染対策とは関係のない話だけど、入場前の道にダフ屋がいて、ああ、こんな年でもいるんだなぁと思った。ただし、見かけたのはひとりだけ。例年は道にたくさんいて「あまってない?」「ないなら売るよ」の声が続いたものだったが、今年見かけたただひとりのおじさんは、たいしてやる気がなさそうというか、初めから今年はダメだとふんでいるようだった。

会場内の移動はスムーズでラクにできた。いつもみたいに詰まって自分の歩く速度で進めなくなるストレスは3日間ともなかった。入場者数が少ないからだ。公式サイトの「終了のご報告」によると、3日間の延べ来場者数が3万5449人。内訳は20日が1万2636人、21日が1万3513人、22日が9300人とのこと。当初から主催は「今年は入場者数を半分以下にする」としていたが、2019年の入場者数を見返すと金曜と土曜が4万人で日曜が3万5千人、前夜祭含めて4日間で延べ13万人となっているから、半分以下どころか3分の1から4分の1くらいまで減ったことになる。最終日が1万人以下だったのは知ってびっくりだけど、確かにすいてて歩くのがラクだなという体感があった。勝手な言い分かもしれないけど、友人と「このくらいの人数だと、歩きやすいし、いいよね」なんて言ってたくらいだ。

わかっていたことだが、客層としては例年より20代くらいの若いひとの数が多かった。初日のRADWIMPSやmillennium parade、2日目のKing Gnuを観たくて来ることにしたというひとが多かったのだろう。お客さんのTシャツを見ていても、millennium paradeとKing Gnuのを着たひとがずいぶんいた。millennium paradeの同じ色&デザインのTシャツを揃って着て、手を繫いで歩いているカップルなんかも数組見かけた(最近またペアルックの若者って増えてるんですかね?)。あとは狼T(MAN WITH A MISSIN)も多く目にしたかな。3日目は電気グルーヴT着用のひともそれなりに。一方、毎年けっこうな数見る清志郎T着用のひとはほとんどいなかった(自分は着てました)。ストーンズのベロTとかグレイトフル・デッドのベアTとかジョー・ストラマーTを着てるひともまったく見なかったな。これでなんとなく今年の客層、年齢層がイメージできますよね。

マスク着用は当然のことながらみんなしっかり守っていて、移動の際やライブ中にしてないひとはまったく見かけなかった。ライブ中に顎にずらしているひとはいたっぽいけど、そうするとスタッフにすぐ注意される。スタッフの数がいつもより多く、ライブ中にも客の間をグルグル見回っている。これまでステージの写真を撮ってるひとを見つけては、両手で✕を作って注意するスタッフが必ずいたけど、その感じでマスクずらしのひとを見つけては注意していた。

フェスだからけっこう奇抜なデザインが施されたマスクをしているひともいるかなと思っていたけど、いなかった。大半のひとが不織布マスクをつけていて、それほど効果がないと言われているウレタンマスクをつけているひとはあまり見かけなかった。自分の友人(女性)は、宿ではウレタンマスク、会場では不織布マスクと使い分けていた。自分はというと、基本的に不織布マスクを1枚つけて動き、トイレの個室に入る際とレッドマーキーに行く際は2枚重ねにするようにした(行く前日に友人がメールで、そうするといいっすよとアドバイスをくれたのだ)。因みに男性である自分は、トイレは基本的に扉のない、立ってするほうを使うようにした。扉などに触れなくて済むし、換気がいいからだ。女性はそうはいかない。が、一度だけ使った個室はいつもより清潔さが保たれているように感じたし、トイレの近くにはいつもより遥かに多くの手洗い場が設置されていた。そこのハンドスープは匂いもよく、積極的に何度も手を洗いたくなるもの。チャチャッと手洗いを済ませるのではなく、そこそこ時間をかけて手首や爪の先まで念入りに洗っているひとが多かった。そうしたくなるハンドソープのスッキリ感なのだ。

水道のみならず手指消毒のアルコールスプレースタンドはもっとたくさん設置されていて、そこにはフジロッカーたちによるいろんなフジ愛の言葉が書かれてあった。それを読むのも楽しく、こういうところがフジならではのセンスだよなと思った。

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↑これ、好き(笑)

もう少し続けよう。飲食は、今年は販売しているエリアから別のエリアに持って動くことが禁止されていて、例えばオレンジのエリアで買ったものをヘブンに持っていこうするとスタッフにとめられ、戻って食べてくださいと注意されることになる。食べながらライブを観ることはできない。だからヘブンの後ろにズラっと並んでいた飲食店はなく、それはオレンジのエリアで営業していた。好きなルヴァンの天然酵母パンとかながおか屋のラムチョップなんかはオレンジのエリアで食べられるのだ。

自分はいつものことだが3日間とも主にホワイトより奥で過ごすことが多く、だから食事は以前アヴァロンがあったあたり(ホワイトから坂を上ったところ)とオレンジのエリアのどっちかでしていた。どちらもスペースに余裕があって密にはならず、友人とペチャクチャ喋りながら食べているひともいなかった(静かに話しているひとはいますよ。自分も友人と会って話していたし)。3日目の夜、電気グルーヴが始まる前に1度だけオアシスに行ってケバブなど食べたのだが、その場所(その時間帯?)はちょっと違って、グループで声も出しつつ食べているひともいたのはちょっと気になったところだ。

とはいえ、アルコール禁止なので大騒ぎはしていない。3日間通して、大きな声を出してはしゃいでるひと、騒いでるひとに、自分は一度も遭遇しなかった。水筒にこっそり酒類を入れて入場したひとが果たしてゼロだったか、それとも実は何人かいたのか、それはわからないけど、とにかく酔っ払ってる様子のひとを自分は一度も見なかったので、みんなしっかり守っているんだなと思った。

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酒類を禁止にするとこんなにいろいろ変わるんだなぁというのは、今回最も強く感じたことだ。大声でギャハハと笑い合ったり肩組むなどしてふざけあったりするひとがいない。ゴミをその場に放置するひとがいない。前々からフジロックはクリーンなフェスと世界に認識されてきたが、それでも近年はけっこうゴミの散らかりがあった(個室トイレに紙コップやらを放置したりとか)。それがまったくなく、本当にクリーンな状態が保たれていたのだ。

自分はというと、酒呑みではあるが、もともと昼間からは呑まない。ライブを酔った状態で観たくないし、疲れてしまうからだ。フジで呑み始めるのはだいたいグリーンのヘッドライナーが終わってからで、そこから深夜または朝方近くまでクリスタルパレステントあたりで酔いながら楽しむというのがいつもの過ごし方だった。クアトロとかリキッドとかで夜にライブを観るときも基本的に飲酒をしない。なのでドリンクチケットはほぼ無駄にする(または水に変える)。終演後に外の店でゆっくり飲みたい派なのだ。そういう人間なので、酒好きではあるけれど、会場で酒類禁止となってもさほど困らなかった。こうして今回のようにクリーンな状態が保たれ、バカ騒ぎするひとが現れなくなるのなら、来年以降もある時間までは酒類の販売を抑える(またはアルコール度数のそれほど高くないものだけを売る)というのもいいんじゃないかと思ったりもした。

ライブを観るにあたっては、先に述べたマスク着用の徹底に加え、一定のディスタンスも基本的には保たれていた。各ステージの前方エリアは、ひとりひとりの立ち位置を示す黄色いマークが描かれて(あるいは打たれて)あり、そこに立つのがルールだからだ。その距離が十分なのか十分じゃないのかは、自分にはわからない。否定的なひとは、たいした距離じゃないじゃないかと言うかもしれない。が、とにかくそれがあることでグチャっとなることがない。すごく密にはならない。前のほうで踊っていようとも横のひとと肩がぶつかったりするようなことにならない。声援を送るなど、声を出すことも禁止されているので、飛沫も飛ばない。

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報道の写真、または配信で見たひとなどは、「ステージ前、かなり密じゃん!」と思ったかもしれないし、実際そういう声がツイッターにたくさん流れていた。自分もそこにいないで報道写真を見ただけだったら完全に密状態であると思っただろう。が、少なくとも自分の観たアクトに関しては、実際はそんなことなく、一定の距離が保たれていた。激しく飛び跳ねるようなエモコア系はもともと観ないのでそれらのときにどうだったかは知らないけれど、例えば電気グルーヴでかなり前のほうでガンガン踊っていたときでも隣のひととの距離はちゃんと保たれていたので、ほかでも秩序が破られることはなかったんじゃないかと思っている。

声出し禁止もみんな守っていた。例えば写真で、前のほうが密集しているように見えるものを見たとする。またはみんなが腕をあげている写真を見たとする。そうすると、刷り込み的に、ひとがそこで声を出しているように思ってしまうものだ。もれなく頭のなかに「イエーイ」みたいな声が聴こえるものだ。が、実際はそうじゃなく、声を出さずに腕を高くあげたり横にふったり。そうやって僕たちはライブを楽しんでいた。大きな声を送ったひとが各ライブで必ずしもゼロというわけではなく、なかにはいたけれど、その数は本当にわずかだった。

もちろんたったひとりの陽性者の歓声による飛沫から何人もの感染者が出ることもありえるわけで、だから多くのひとが守っていたから絶対に大丈夫とは言えないわけだけど、そんなことは避けねばならないという意識をちゃんとみんな持って動いていたように感じられたのは確かなことだ。

それに関しては、必ずライブがひとつ始まる前にステージ上のMCのひとがマスク着用・酒類禁止・大声禁止・前方で観たいなら黄色いマークの上で…といったことを呼びかけていたのも効果ありだったと思う(誰かが「配信を見ているひとにもそうしていることがわかるよう、注意喚起のMC含めて流せばいいのに」というようなことをツイートしていて、確かにそうしたら現場にいないひとにも主催側の努力と意識がもっと伝わるのにと思った)。

とまあ、そんな感じで、スタッフの数も例年より多く、できる限りの感染対策がなされ、観客たちもみんな自主的にルールを守っていたと、自分にはそう感じられた。仮に十分じゃなかったとして、じゃあほかにどういう対策をすればよかったのか、専門家じゃない自分にはわからない。

ただひとつ。ここはまずいんじゃないか、ここは絶対に改善すべき点じゃないかと思ったことがあって、それは一通りのライブが終わってからの退場時のあり方だ。3日間ともヘブンとホワイトの最後のアクトの終わり時間がほぼ一緒で、グリーンもそのちょい前。ということで、人々はほぼ一斉に出口に向かうことになる(レッドマーキーだけは少し遅い時間までやっているので、そっちに流れるひともいるにはいるが、多くない)。故に、それまではスムーズに歩けていた道が急に詰まり出す。ゲートのあたりは特に詰まりが酷く、せっかくそれまでずっと密にならずに過ごせたのに、ここでこんなふうになったら意味がないじゃないかと自分は思った。この一点だけが残念だったし、少し不安になったところだ。

ただ、再度書くが、それを除けば主催の対策は相当徹底されていたと感じた。この状況下で開催したこと自体の是非についてはここでこうとはまだ言えないし、今後陽性者がどれだけ出るか(出ないか)もまだわからないが、会場内で不安になる場面がまったくといっていいくらいなく、注意しつつも心を開いて楽しめたのは、そうして施してくれた対策のおかげだと思っている。では、ここからライブそれ自体のことを書いていこう。

20日(金曜)に観たライブの感想。

初日の20日・金曜日。観たのは以下の通りだ。

OKAMOTO'S(後半30分)→ドレスコーズ→yonige(中盤20分)→スピンオフ四人囃子→5lack(前半45分)→手嶌葵(後半2曲)→高野寛×原田郁子→KID FRESINO→猪苗代湖ズ(中盤30分)→METAFIVE(砂原良徳×LEO今井)→millennium parade(前半40分)→坂本慎太郎(後半40分)。

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初っ端はずいぶん久しぶりにフジで観るOKAMOTO'S。始まりに間に合わず、自分が観ることができたのは後半約30分だったが、グリーンのトップバッターに相応しい、そしてよく晴れた天気にぴったりの健全で爽快なロックンロールとファンクロックを迷いなく鳴らし、歌っていた。不良ロックの雰囲気はなく、ショウくんのMCも変わらず爽やか。前半がどうだったかは知らないが、自分の観た後半は「フジロックのグリーンの真昼間に演奏するならこういう曲っしょ」といった曲を並べてどんどん温度を上げるように構成されていたように思う。本来なら歓声もどんどん大きくなりそうなパフォーマンスだが、みなルールを守って声をあげずに大きな拍手を送っていた。

終わってすぐにグリーンからホワイトへと移動。ドレスコーズ。意外だが、今回がフジ初出場とのこと(毛皮のマリーズでは10年前に出演)。2014年にバンド形態の活動を終えて以降、志磨遼平のソロプロジェクトとなり、ライブはその時々の編成で行なっているようだが、今回は志磨を含む5人編成。とりわけ見映え的にも音的にも際立っていたのがギターで、それはラーナーズのCHIEさんだった。妖しい動きでくねりながら歌う志磨の後ろ(ときには横)でガシガシとロックンロールギターを弾き倒す彼女は実にかっこよかった。華があった。今年発表した『バイエル』がピアノを主にした静かなトーンのものであり、ライブもそれに沿ったものになるのか、それとも……と考えていたのだが、やはりライブはライブ。以前のロックンロール曲もバランスよく繰り出し、そして『バイエル』収録曲はこのライブならではのものとなっていた。「みんな悩んで悩んで、今ここにいると思うんだよね。ひとつだけ言おう。健やかに!」。そんな志磨の言葉がまさに悩みながらここにきた人たち(自分含む)の心をほぐす。マリーズの「愛のテーマ」、それから「ビューティフル」が今このときだからこそ説得力を持って強く心に響き、ちょっと泣きそうになった。ああ、フジロックだ。ホワイトステージだ。いま自分はここにいる。照れもせず、自分よりずっと若い世代のコたちがそうしているように両手を空に向けてつきあげながら、そう実感した。

再びグリーンに戻って、yonigeを20分程度観る。ノセるのではなく、聴かせることに徹したライブ。前方で集中して音の響きを感じていたひとや、配信で見たひとには、その真価が伝わったはずだ。実に堂々とした演奏だった。ただ後ろのほうで座って聴いていた自分は、じっとしているほどに日差しの強さがこたえたというのが正直なところ。スピンオフ四人囃子を初めからしっかり観たかったのでヘブンへと動いた。

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フィールドオブヘブンで、スピンオフ四人囃子。それは四人囃子の名曲群を今に引き継いでいくべく、その意思を持ったベテランミュージシャンたちが組んだバンドで、そこにいる四人囃子のオリジナルメンバーはドラムの岡井大二ただひとり。スターダスト☆レビューの根本要がヴォーカルをとり、ギター・西山毅(元ハウンドドッグ)、ベース・山崎洋、キーボード・三国義貴のメンバーでバンドは構成されている。スタレビの根本さんの歌声で四人囃子の曲ってどうなのか、と思ったひとは自分含めて少なくなかったと思うが、これがよかった!   ギターもすごい。なんたって四人囃子への敬愛の念が強く伝わってきた。また百戦錬磨のベテランミュージシャンたちが、難曲に少しばかり緊張しながら、しかしバンドを始めたばかりの10代の小僧のようにとても楽しんで演奏しているのがステキだった。みなさん嬉しそうなのだ。「空飛ぶ円盤に弟が乗ったよ」はどうしてシングルで出したかなんて話も楽しそうにしつつ進み、後半、「難曲なので」と挑むように演奏されたのが「なすのちゃわんやき」。そして最後はもちろん日本のロックの歴史的大名曲「一触即発」。  「きたー!」ってなもんだ。自分は高1のときにそれこそレコードが擦り切れるほど聴いたものだが、2021年にヘブンでナマで聴き、改めてとてつもなく構成の練られた曲、静と動の押し引きも見事なまさにプログレッシブの極まった曲だなと感心した。古さなど1ミリもない。当然そこに集まっていたのは50以上のおじさん(自分含む)ばかりだったが、この状況下にあってもここまで観に来てよかったとみんな思ったはずだ。自分はそう思った。

ホワイトステージに動いて5lack。普段自分はラップミュージック/ヒップホップ系アーティストの単独ライブを観に行くことがまずないのだが、かつてKOHHがそうだったようにアウェイであることからむしろロックフェスで凄まじい爆発力を見せるひともいて、そういう意味で5lackにも期待したのだった。DJは彼の実兄PUNPEE。始まってすぐ、ロウが効きまくった音の振動の凄さをカラダで感じた。ドゥドゥドゥ、ドゥーーンと内臓まで響いてくる感じ。この振動はフジならではであり、ホワイトならではだ。昨年、コロナの第一波がきて半年近くもナマのライブを観ることができず、その間にいくつか配信で無観客ライブを見ていた時期があった。その期間を経て久しぶりに会場に行って有観客のライブを観たときにハッキリ感じたのは、「ライブは振動だ」ということだった。PCで配信ライブを見てどんなに音がクリアであっても映像がキレイであっても、振動は絶対に伝わらない。音がその場の空気と混ざってカラダに響き渡るその感覚。それを「体感」したいから自分は会場へ足を運ぶのだとわかった。5lackがラップする横でPUNPEEが繰り出すビートの重さは、ホワイトステージのサウンドシステムでさらに増し、酔いそうになるくらい内臓にまで響いてきた。それがまず嬉しかったというか、またしても「ここにいる」という実感が湧いた。とはいえ、5lack自身は終始どこか淡々としていた。行き過ぎず、振り切らず、温度をあげすぎず。遊び心も混ぜながら。故に勝手に期待した爆発力のようなものは見られなかったが、それが彼の流儀なのだろう。

40分ちょっと観たあたりでヘブンへと移動し、手嶌葵の歌を終わりの2曲だけ。観客の多さに少し驚いた。そしてその場に行った途端、歌声に引き込まれた。柔らかく包まれる感覚があった。しまった。始めから観ればよかった。ヘブンという会場に彼女の歌が合いすぎるほど合っていることが、最後のその2曲を聴いただけでよくわかった。

ジプシー・アヴァロンへと動いて、高野寛×原田郁子。これまでアヴァロンはホワイトとヘブンの真ん中の坂の上にあったが、今年に限ってかつてのオレンジのフィールドの最奥地に移設。「フィールド全体の電力をバイオディーゼル、太陽光等のソフトエネルギーでまかない、CO2排出量の削減に取り組んでいるNEW POWER GEAR Field / Gypsy Avalonにある新エネルギーでつくるオルタナティブ・ステージ」(公式ウェブの説明より)としてそこにあった。夕方前のその時間帯に、ふたりだけのアコースティック・ライブはよく合った。トンボがたくさん飛んでいて、夏の終りの匂いもした。いい空気、いいヴァイブス。最後に歌われたのは、フィッシュマンズの「GO GO ROUND THIS WORLD!」だった。

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ホワイトステージに戻って、KID FRESINOのバンドセット。最新作が傑作だっただけに、この日一番楽しみにしていたアクトだ。バンドのメンバーは西田修大(gt)、三浦淳悟(ba)、佐藤優介(key)、斎藤拓郎(gt)、石若駿(dr)。若き実力者たち揃いである。さらに、スティールパンの小林うてなも参加するはずだったが、彼女は悩んだ末に出演を辞退し、そのことをフレシノはしっかりと告げ、メンバー紹介の際にも彼女の名前を呼ぶのだった。↓こちらが、うてなさんのメッセージ。

精鋭たちによるバンドは素晴らしく、それぞれけっこう複雑なことをやりながらもそうと感じさせない。楽器ひとつひとつの音が粒立ち、その上アンサンブルの妙でも酔わせる。リズム隊がものすごい。そこにフレシノのラップが切れ味鋭く乗る様がかつこよく、スリリングでもあった。ナイフのようなラップの切れ味に反して、喋るときはクシャッとなる笑顔。Campanellaや、「たまたま会場で見かけたから」というDaichi Yamamotoらを迎えての掛け合いも、フレシノ自身がとても楽しそうだった。終わると、自分のそばにいた男のコたちが「やっべえ」「フレシノ、マジやべえ」と口々に。自分も心のなかで同じようにつぶやきながら次へと動いた。

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アヴァロンで、猪苗代湖ズを30分ほど。遠くで座ってカレーを食べながら観たのだが、メンバーたちのダラダラした喋りが内輪ノリ過ぎて、しかもそれがやたらと長くて、KID FRESINOの研ぎ澄まされたライブを観たあとだっただけに正直イライラしてしまった。延々どうでもいいことを喋って、なかなか曲が始まらない。「次、何やっぺ」「あれは長い。時間内に収まらない」とか言いながら、始まりそうになるとまた誰かが喋り出す。その繰り返し。結局、50分で5曲だけだったようだ。歌は故郷に思いを馳せたあたたかなものでなかなかよいのだから、もう少しちゃんと構成決めこんで真面目にやればいいのにと思ってしまった。ユルさがこのバンドの魅力なのかもしれないけれど、自分はまるでそこにノレなかった。因みに山口隆、観てないけど、グリーンのサンボマスターのときはめちゃめちゃ熱く、みんなを勇気付ける言葉を放ちまくっていたらしい。

ホワイトで、METAFIVE(砂原良徳×LEO今井)。いろいろあって、ユキヒロさん、小山田くん、テイさん、ゴンドウトモヒコさんの4人が不在。急遽まりんくんとLEOさんのふたりを核にした変成METAFIVEでの出演に。果たしてそれはどうなのか。本来いるひとたちがいないことの重みがありすぎて、自分は冷静に観れないんじゃないか。それ以前に音は薄くならないのか。しかし、全ては杞憂だった。始まった途端にそう思った。演奏と背景のビジュアルに一瞬で引き込まれた。音圧的にもすごかった。ふたりだけで始まり、その段階からビリビリきたのだが、永井聖一と白根賢一がサポートで加わってのバンド感は、ずっとこの4人で続けてきたんじゃないかと思えるほどのものだった。まりんはいつものことながら終始クールだったが、ずいぶん堂々とした佇まいで、YMO時代の坂本龍一を思わせる風格があった。そしてLEO今井。ユキヒロさんや小山田くんの演奏部分や歌部分も担った彼は気迫が凄まじかった。ふたりはそれぞれのやり方で、ほかのメンバーたちの不在など感じさせてなるものかという心意気までも見せている、そんな気がした。ホワイトステージという最高の音響の場所だったこともあり、音もクリアでありながらダイナミック。カラダを震わせた。この振動がライブの醍醐味だ。そして背景映像と音との見事すぎる融合は、まるでコーネリアスのライブのように思えたところもあった。かっこいい。めちゃめちゃかっこいい。いろいろあったけど、黙して語らず。ここで鳴らしている音楽が自分たちの答えなのだと、そう言っているように感じられた。確かにそういう思いで彼らはこの日だけのこのライブを組み立てたのだろう。始まったときから凄かったが、後半でまた一段とグルーヴが増し、熱量も増した。どこか狂気を含んだ動きのある「Don't Move」は、歌詞もまさに現在の彼らからのメッセージにも思えた(「Don't you warry 'bout a thing A thing, thing, about thing」何も心配いらない。何も。何も。)。そしてラストの「環境と心理」。小山田くんとユキヒロさんの歌をLEO今井が自身のものとして表現し、そのメロディも相まって、自分の涙腺はここで決壊。あとでいろんなひとの感想ツイートを見てみたら、やはりこの曲で泣いたひとがたくさんいたみたいだ。終わってLEO今井が去り際に一言。「緊急事態中のMETAFIVEでした」。まさに。因みにこれも誰かのツイートであとで知ったのだが、永井聖一の弾いていたギターは小山田くんのものだったようだ。

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そのままホワイトで、millennium parade。これをこの日の目的としていたひとも多いようで、後方までぎっしり埋まっている。King Gnuのメンバーらミュージシャンと、映像ディレクター、CGクリエイター、デザイナー、イラストレーターが組んだ、バンドという単位を超越したプロジェクト。その表現は圧倒されるくらいに革新的で、スケール感があり、映像と生身の人間による表現の融合のされ方も驚くべきものだった。見たことのない凄いものを見ている。その感覚が確かにあった。が、凄いものだとはわかるのだが、そのストーリーというかメッセージというかまではなかなか自分には理解できずにいた。ヘブンの坂本慎太郎も観たかったので、40分ほどで移動。

ヘブンで坂本慎太郎。millennium paradeと真逆で、こちらはミニマルな編成。millennium paradeが足し算の美学なら、こちらは引き算の美学だ。音数は少なく、それだけにひとりひとりの楽器の鳴りの意味するところがよくわかる。スカスカなのにグルーヴィー。淡々としながらもトリップ感があり、西内徹のサックスがときどき感情的な激しさをそこに加味する。最後に歌われた「ツバメの季節に」はまさにコロナ禍以降のイメージを歌ったもので、こんなふうにこの時代を捉えて過ごすのも我々のひとつの方法に思えた。それにしてもなんとも言えない幸福感。後半40分程度だったが、ここで観てよかったと強く思った。

そんなわけで2021年のフジロック1日目が終了。ベストアクトは迷うことなくMETAFIVE(砂原良徳×LEO今井)。KID FRESINO、それにドレスコーズも強く印象に残った。

(2日目に続く)














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