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『ザ・バンド かつて僕らは兄弟だった』

2020年11月11日(水)

吉祥寺アップリンクで『ザ・バンド かつて僕らは兄弟だった』。

『ラスト・ワルツ』を公開時に日比谷のみゆき座で観たとき、自分は確か中2か中3。ザ・バンドのことを何も知らずに観たのだが、引き込まれまくったし、余韻もすごくて、生涯の好きな映画ベストいくつかに数えられるくらいのものになった。映画なのにクラプトンの登場時には大きな拍手が起こって歓声がとんだ。へえー、こんなに人気者なんだぁと思ったことをよく覚えている。ディランの登場時はそれを超える拍手と歓声があった。スクリーンに向けて拍手したり声をあげたりするひとたちがいるというそのこと自体が面白かったし驚いた。なにせ中2か中3のときなので、この映画で初めて知ることになったミュージシャンが多かった。主役のザ・バンドがそうだったし、ジョニ・ミッチェルのこともヴァン・モリソンのこともマディ・ウォーターズのこともこの映画で観て初めて知ったのだった。当時は各出演者の演奏がどうこうよりも、あの舞台の色合いだとか全体の構成とかテーマ曲により惹かれて好きになった。スコセッシは凄いと思った。ポスターもしばらく部屋に貼っていたくらいだ。

昨日観た『ザ・バンド かつて僕らは兄弟だった』。ロビー・ロバートソンが2016年に出した『ロビー・ロバートソン自伝 ザ・バンドの青春』(未読)を映画化したもので、ロビー(と彼の奥さん)による語りを軸に進んでいくドキュメンタリー。メンバーが出会って、奇跡的とも言える化学反応が起きて、成功して、酒と薬に溺れて、不信感が生まれて、バラバラになって……という、それはまあよくあるバンドストーリーではあるわけだけど、ロビーと奥さんの証言の生々しさによって胸が締めつけられずにはいられなくなる。なんとなく知ってたつもりでいたことも、当人の言葉によって、見方・捉え方が大きく変わることになるわけだ。

ロビーは本当に嫌だったんだな、みんながアルコールと薬に溺れていくのが。逃げ出さないと自分もダメになると感じたんだな。

当然そうだろうがやはり『ラスト・ワルツ』の興奮が映画でもハイライトで、そのなかのある場面をスコセッシがどう気を遣って撮ったかなども語られるのが興味深かった。

で、その先の物語としては、ロビーはリヴォン・ヘルムとの確執や彼の最期のときのことはしっかり話しているわけだけど、リック・ダンコ、リチャード・マニュエルとの死別については語られない。特にリチャードは自殺だった故、さすがにロビーも辛くて口を閉ざしたのか、それとも話したけど痛ましいので映画には使わないという判断をダニエル・ロアー監督がしたのか……。どうなんだろ。まあ、なくてよかったとも思うけど。

因みにプログラムによると、ダニエル・ロアー監督は今もウッドストックに住み続けるガース・ハドソンにもインタビューしたそうだ。が、それを使わなかった。「本当に老け込んでいるのでショッキングに見えると思って入れなかった。背中が曲がっていて、ガースが樹齢千年くらいの木に見えたんだ、人間だけど」と監督は話している。ウッドストックに住み続け、いまガースが何を思うのか気になるところではあるけれど。樹齢千年の木みたいになったガースを想像すると、それはそれでまた胸にくるものがあるというものだ。

↑ザ・バンドを巡る「ドラッグと交通事故と死」、実人生とかけ離れた虚構の音楽物語」。高橋健太郎さんによる文章。イメージが膨らむなんてもんじゃない。必読。


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