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『哀れなるものたち』(感想)。

2024年1月27日(土)

立川シネマシティ・シネマワンで、『哀れなるものたち』。

軽々と期待値を超えてきた。まだ1月だけど今年のベスト3内に入ること確定の大傑作。いやもう、くらいまくりました。

独特の美意識に貫かれた映像(青味、アングル、写真撮影用レンズの用い方、モノクロとカラーの使い分けなどなど)、凝りに凝った美術(窓枠がアレの形だったりとか)、造形の独特な衣装、ジャースキン・フェンドリックスによる時空が歪むような音楽と音響、古典的ながらも今だからこそガツンと響く物語(大胆な脚色)とテーマとメッセージ、それにエマ・ストーンを筆頭とする俳優たちのパワフルな演技。その全てがパーフェクトで、映画の力、映画の可能性って、こういうことだよなぁと。

倫理観がなくとも、冒険と経験によって人間として生きることの意味を次第に深めていくベラの逞しさと何より純粋さ。それを観ていて、醜悪なほどにずる賢いこの世界の人たちみんな、彼女を習ってゼロから生き直せばいいのに、なんて思ったりしたな。

まあ、倫理観のなかった人造生物が人と触れていくうちに徐々に心と知を持って人間的な成長を見せるようになる……といったお話は自分が過去に読んできた手塚や石ノ森漫画にもいくつもあったし、辿ればメアリー・シェリーの『フランケンシュタイン』に行き着くんだろうけど、でもベラは主にセックスを通じてそれを獲得していくというのが面白くも深いところ。純粋な快楽の意のセックス、解放の意のセックス、金銭を得るため(生きるため)のセックスというふうに、その行為は時々で(または相手によって)いろんな意味を持ち、人や社会の理解を深めるためのものに、ベラにはなっている。それによって「私の身体は私のものだ」という気づきに至り、その確信のもとにズンズン前へと進んでいく……っていうところがかっこいいし素晴らしいじゃなですか?!  ねえ。

印象に残ったシーンは?と訊かれたら「全部!」ってことになるけど、とりわけ僕はベラが躍り出すシーンが好き。あの自由な踊りこそ、この作品のテーマでもある「解放」を象徴的に表わしているようで。江戸アケミ言うところの「おまえはおまえの踊りを踊れ」ってことですよ。

あと、失敗からの学びと成長という意味では、父親の虐待を受けてああなったゴッド博士の心の変化にも最終的にちょっとグッとくるところあったな。彼もまた「哀れなるもの」には違いないけど、彼は彼なりに気づきを得ていくわけで。そこをあのように表現できる俳優はウィレム・デフォー以外考えられないよね。

あと、自分も若かった頃のそれとして思い当たるところあるけど、嫉妬心の厄介さってこともまた考えちゃった。マーク・ラファロ演じる弁護士のダンカンはダサくて酷い愚か者のように描かれてるけど、すげぇ悪いことしたってわけではないし、全ては嫉妬心の膨らみからああなったわけで(嫉妬心さえ持たなければああはならなかったわけで)。そのへんの「哀れなる」感じをマーク・ラファロは実にうまく出してたなぁとも。ハルクなのに。

とかとか、いろんな角度から観た人と話したくなる映画でもあり。とにかく面白いし、次観たらまたもっと発見がありそうなので、もう一度観にいかにゃあと思ってます。


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