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ザ・たこさん『ベターソングス』ライナーノーツ

ザ・たこさんのリズム隊……ドラムのマサ☆吉永とベースのオカウチポテトが5月末日をもってバンドを脱退する。そのことが公式に発表されたのは、2019年12月29日のことだった。

その発表から5月末日までの間に関東でライブをする計画はないようだったので、ならばどこかのタイミングで関西まで観に行こう、もう一度あの4人ならではの黄金のアンサンブルを味わい、目に焼き付けておこうと、自分はそう考えていた。がしかし、新型コロナに係る国の自粛要請・休止要請から4月・5月に予定されていたライブがことごとく中止に。

現メンバーでのラストライブとなるはずだった5/31の堺・ファンダンゴ公演もやはりイベント自体の延期が決まり、結局客を前にした4人揃ってのライブは3/1の岡山ブルー・ブルース(ギターパンダとの2マン)が最後となってしまった。

しかし自分のなかでまだこの4人のザ・たこさんが終わった気はまったくしてないし、実際、ライブはなくとも脱退日とされる5月末日までまだ2週間以上ある。振り返れば、そりゃあ思いはいろいろあるが、現時点でそれを書くのもなんだかアレなので、ここではやめておこう。

ただ、こういう「振り返り」は、いまこのタイミングでやっておいたほうがいいかなと思い……。ここにザ・たこさんの過去作から、自分の書いたライナーノーツを公開します。

僕がライナーを担当したザ・たこさんのアルバムは、2009年リリースの4thアルバム『ベターソングス』、2013年リリースの5thアルバム『タコスペース』、2018年リリースのベスト盤『名曲アルバム~ザ・たこさん傑作選~』の3作品。そのライナーをひとつずつアップしますね。

まず、今日は2009年リリースの4thアルバム『ベターソングス』のライナーを。

ドラムのマサ☆吉永が加入したのは、2006年12月(J.B.が天に召されたクリスマスの日)。続いて2008年3月にベースの脇本総一郎が加入。僕が初めてザ・たこさんのライブを観て衝撃を受けたのは、忘れもしない2004年のフジロックなのだが、その頃とはリズム隊が代わってバンド全体が(年齢的にも)若返り、ある意味で洗練もされた。ニューオーリンズのファンクを愛する脇本の秀でたベース・テクによって音にバネとうねりが加味された。そして(ライナーにも書いたように)ジャズ・ドラマーのバディ・リッチと同時に桑田佳祐をフェイヴァリットに挙げるマサ☆吉永は、クールさと安定感あるドラムで支えると同時に、バンドにポップさももたらした。

『ベターソングス』は安藤八主博・山口しんじ・脇本総一郎・マサ☆吉永の4人で初めて録音したアルバムであり(その後、脇本は2010年9月に脱退するので、これがこの4人での唯一のアルバムでもある)、だからファンクの色合いと共に、ポップなメロディのよさもザ・たこさんの全アルバムのなかで最も味わえる1作だ。

「モ・ベターライフはぼくが入ってから作ったんですけど、とにかくポップに作ってくれってお願いして。ポップにポップにと。これをシングルにしてもいいだろうぐらいの気持ちで作ったんですけど、結局シングルはチャンジャになったという(笑)。ようできた曲になったなぁと思ったんですけどね。サビのところとかもいまの安藤さんからは考えられんくらいポップな歌詞を書いてて。それは「サヨナラ生活」もそうですけどね」

これは2013年に「ザ・たこさんの10曲」と題して(いまはなき「musicshelf」という音楽ウェブサイトで)行なったインタビューのなかでの吉永さんの言葉だが、つまり「モ・ベターライフ」のような歌ものの名曲は、吉永さんがいたからこそ生まれたものであったわけだ。

『ベターソングス』ライナーノーツ

 笑いながらも泣けてきて。軽やかに行きつつゴリ押しもあり。10代の衝動の尊さを歌いながら四十肩の現実も受け入れて。おかしみと哀愁を両脇に挿んだ上で、「でもやるんだよ」と前を向く。ソウルでフォンク(←ファンクの南部訛り)でブルーズで。ときにはムーディー、なんならロックだしポップでありさえもする。ベースはこってりなのに口当たりはいつになくまろやか。故についついおかわりしたくなる、そんなガンボ・スープ(関西風)のごとき“ええ曲集”。これっ、これ、これうまいわ~。

 ザ・たこさん、『ナイスミドル』から実に3年ぶりとなる4thアルバムだ。ずいぶん待った気もするが、バンドにとってそれは必要な時間だった。剥けるためになくてはならなかった時間だったのだ。

 『ナイスミドル』が出た2006年の終わりにドラムのドンパッチ芝野が脱退し、マサ吉永が加入。その約1年後、ベースの松田健が脱退を表明し、翌2008年の3月に脇本総一郎(仮名)が加入。つまり重心となるリズム隊がそのまま入れ替わったわけだが、同時にそれはサウンド面のみならず、ヴォーカル・安藤八主博とギター・山口しんじの心持ちの変化にも繋がった。

 山口のギター・プレイは、安藤曰く「急激に変わりましたね。アグレッシヴになった。今が一番いい」。安藤はといえば、腹を括った。「振り返ると長いことやってますし、これはもう本気になってやらなあかんと。もう一回原点に立ち返って、真剣に目標立ててやってくのがホントちゃうかなと」。その思いが「武道館宣言」にもなり、メンバー全員が「いや、行きますよ」と同意。2枚のマキシシングルからこのニューアルバムへと続く連続リリース攻勢も、その意志表明のひとつと受けとめていいだろう。

 バンドは再生した。若返った。ジョージ・ポーターJr(ミーターズ)を敬愛し、もとはブルーズ・バンドをやっていたというベースの脇本総一郎(仮名)は25歳。アラフォーおっさんバンドの平均年齢を引き下げ、その弟キャラ(いじられキャラ?)がバンド内の風通しをよくした。

 「スマートでクールですわな」と安藤が言うドラムのマサ吉永は、ジャズ・ドラマーのバディ・リッチと同時に桑田佳祐をフェイヴァリットに挙げるようにニュートラル。ある意味でのポップ・センスをバンドに注入した。

 この新しいリズム隊がメイン・コンポーザーである山口しんじにアイディアをぶつけることで、楽曲の、とりわけアレンジ面に幅が出た。本作の多彩さはそのあたりの反映でもあるのだろう。また、アルバム・タイトルを含めて、安藤は本作を「僕の中では、“ソフト”。いろんな意味で」と言っている。元来のこってり味も残してはいるが、しかし軽快な印象の曲も確かに多く、それが間口の広さに繋がっている。オープンで、ヌケ感があって、明るくて、そしてやけに鮮度が高いのだ。そりゃあ、せっかく食らうなら新鮮なたこがいい。茹で過ぎないくらいのところで湯上げして、人肌のそれを噛めば噛むほどに……んん、これっ、これうまいわ~(2回目)。
           
 「ドリフ大爆笑“もしも…”のコーナーで言うところの、“もしもゴスペル風のオルガンが流れる球場があったら…”です」と山口が解説する①「ゴスペル球場」で幕を開ける。イメージはストーンズのライヴ盤『スティル・ライフ』の始まり方だとか。続く②「三本間に挟まれて」は安藤曰く「野球ファンク」。「“追い詰められたおっさん”を表現したかった。ふと三塁と本塁の間(三本間)で挿まれているランナーが目に浮かんだ」(安藤)。ボ・ディドリーが逝去した際、ボ・ビートで曲を作ろうということになってできたものだそうな。③ 「ティーンエイジのテーマ」は山口曰く「みんなで歌える掛け声が欲しかった。“オウ、イエイ!  ベイビ、ベイビィ、ガッタ・ガッタ・ガッタ!”は、音楽がかけがえのないものになった10代前半の合言葉のようなもの」。④ 「This is Delicious!」は「笑福亭鶴瓶とジャズ」(安藤)。⑤ 「(Do The) Funky 40 Shoulder」は「邦題は“四十肩ダンスをしようよ”です」(山口)。続いて2001年頃に作ったものの長く寝かせていたという⑥ 「いつからこんなに」。んー、じ~んとくる。

 一転して、たこファンクの神髄とも言える⑦ 「ゴリラの息子」。「“ゴリ押し”という言葉に突然引っ掛かる。“ゴリ押し”の“ゴリ”ってなんや?   もしや…」(安藤)。で、できた曲だとか。⑧「純喫茶レイコ」は安藤曰く「詞は敏いとうとハッピー&ブルー。曲はボサノヴァ」。マキシシングル『サラナラ生活』収録曲「真夜中の中」をインストにしてテンポ・アップした⑨ 「ナイト・イン・ナイト」に続いては、若き日の清志郎が山口&安藤に憑依したかのような驚きの⑩ 「『初期のRCサクセション』を聴きながら」。山口が20代後半の頃に作った曲で、ふたりはこのアルバムを清志郎にも聴いてもらうことを楽しみにしていたそうだが……。

 マキシシングル『チャンヂャ&キムチ,or DIE!!!』にも収録されていた⑪「モ・ベターライフ (Album version)」については、「駅まで歩いてるときに浮かんだメロディです。歩いてるときによく曲が浮かぶので、たこさんのBPMは僕の歩くスピードが多い」と山口。「“人と会うときはきちんとした格好をしなさい。せめて襟付きのシャツで”。ジャイアント馬場さんの言葉です」と安藤。⑫ 「ロクシマのテーマ」はライヴのオープニングとしてお馴染みの曲で、「非常勤司会者=MCロクシマのテーマ曲です」(山口)。⑬ 「ケンタッキーの東」はやはりライヴでお馴染み、小林克也&ザ・ナンバーワン・バンドのカヴァーだ。1 stの『タコツボ』にライヴ・テイクが収められていたが、ここではアレンジを変えて「MG’sの雰囲気」(山口)で演奏収録。そしてラストは最新マキシシングル表題曲 「サヨナラ生活 (Album version)」。サヨナラの意味を僕(たち)はもう一度考えてみるのだった。
           
 「スタックス。南部の音楽。昭和のラジオやテレビ番組……。子供の頃から今までの好きなものが詰まっている。“ぼくらのルーツ”ですかね」とも山口が言うこのアルバム。新旧の曲を取り混ぜながらも、ここからは新生ザ・たこさんの「今が最高!」の空気感・温度感がダイレクトに伝わってくる。まったくもって噛むほどにクセになる“ええ曲集”。マディもオーティスもルーファスもボもJBも淀長さんも清志郎も、みんなこれ聴いて大笑いしながら踊ってそうだわ。

                      2009年5月15日、内本順一
       

こちら、僕が2009年から6~7年続けてたザ・たこさんブログ。ライブの感想やらを書いてました。↓



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