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『空白』

2021年9月30日(木)

吉祥寺アップリンクで『空白』。

何かが少しズレてたり、過剰だったり、配慮が足りてなかったり。でも本人だけがそのことに気づいてない、っていう。主要登場人物のみならず端役(学校の男性教師とかスーパーの客とか)のひとりひとりまで、そうした「いるよなぁ、こういう人」という人ばかり。「映画のなかの人」として自分はそれを観ているからいいけど、現実世界ですぐそばにいると、なかなかたまったもんじゃない。が、まさしくそういう世界で我々は生きている。ということを改めて思わされる作品。いろいろリアルで細やかで、それ故、息苦しくなる。

テーマは「正義という名の厄介さ」みたいなことかな。もっと言うと「正義の暴走は悪意になる」っていう。但し最後に至るまで事の結論を出さず、監督はずっと観る者に問いかけている。問いかけて終わる。あのラスト、好きだ。

松坂桃李。ついこの前『孤狼の血 LEVEL2』を観たばかりだったので尚更演技の幅に感心する。のり弁シーンの爆発とその直後が強く印象に残った。あと、藤原季節がやはり素晴らしかった。大傑作『ケンとカズ』以来ずっと好きな俳優なんだが、今作では「いまどきの軽い兄ちゃんのようでいて情に厚くちゃんと考えてる」漁師の弟子をナチュラルに演じていて、この重苦しい作品のなかで彼の存在が唯一の救いになっていた。あ、唯一のと書いたが、もうひとりいた。最後のほうでほんのちょっとだけ出てくる名前もない役だが、奥野瑛太だ。あれだけでもってくんだから、やはり大した存在感。のり弁が絶望なら焼き鳥弁当は希望、ってことですね。辛い日にはのり弁じゃなくて焼き鳥弁当にしよう。

因みに音楽は世武裕子さん。エンディングで流れる「beautiful」といい、「空白」または「余白」を感じるのに相応しい音楽。そういえばこの作品には趣里さんも重要な役で出ているのだが、彼女の『生きてるだけで、愛。』の音楽も世武裕子さんで、あのエンディングの曲をそこで思い出したりもした。

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