『グリーン ブック』

2019年3月2日(土)

六本木TOHOシネマズで、『グリーン ブック』。

自分が学生の頃によくあった良質なアメリカ映画を思い出す、昨今では珍しく素直に笑って泣けるハートウォーミングな良作(痛みを感じさせるところもあり)。アカデミー賞最優秀作品賞を獲ったことで差別の構図の単純化やホワイトスプレイニング(有色人種に対する白人の上から目線)に対する批判が高まったようだが、イタリア系でブロンクスっ子の背景もそれなりには描いているし、フェアと言える範疇にあると日本人の自分は思ったが、甘いだろうか。うーむ。

それよりも自分が違和感覚えたのは要となるバーでのライブシーン。いくら天才ピアニストで、耳がいい(旅の途中でリトル・リチャードやアレサを聴いた)とはいえ、クラシック音楽のみで育ったクラシック音楽奏者があのようなロッキンなジャズのグルーブを瞬時に理解してあんなに見事に表現するってえのはありえないんじゃないかと。批判されてる点よりむしろそっちの都合のよさが気になった。

ま、でも、ヴィゴ・モーテンセンとマハーシャラ・アリの演技、心地よい後味など、作品賞獲得にも納得のいい映画であることは間違いなし。ホセ・ジェイムズのバンドから巣立っていったヒップホップ育ちのジャズピアニスト、クリス・バワーズの素晴らしい音楽仕事も嬉しかった。クリスマスに観ることができたらもっとよかっただろうなぁ。


追記。

FBにもこの感想をあげたら、いくつかのコメントをいただき、この作品と天才ピアニスト:ドクター・シャーリーについて改めて考えるいいきっかけになった。「ドン・シャーリー氏は「業界的必要性」もあって、ジャズの素養それなりに身につけていた人みたいなので、あれもあり得るのかな、と後から無理やり自分を納得させました。」「バーでの演奏の件、レコード会社のから言われてポップスもやっていたというのが伏線なのかと思いました。」と、そんなコメントをいただいた。それでドクター・シャーリーがどういうミュージシャンか探っていくと、なんとなく彼の音楽的背景がわかりかけてきた。

「ドクターは、「春の祭典」「火の鳥」など20世紀を代表する作曲家、ストラヴィンスキーに“彼の技巧は神の領域だ”と言わしめたほどの天才でありながら、私生活について明らかにせず、映像資料がほとんど残っていない謎多き人物だ。」「高学歴で教養があり、ロシアとロンドンでクラシックを勉強したが、レコード会社の『黒人のクラシックはウケない』という方針で、気の進まないブラックミュージックやジャズのような音楽を演奏せざるをえなかった。」

リアルサウンドにはそのように書かれてあった。

ドクター・シャーリーとジャズとの関係性はこの記事を読んで少しわかった。↓

で、僕が読んだ限りのなかで、もっとも納得できたのが、大江千里さんの書かれたこのコラム。↓

「ドナルド・シャーリーの音楽はジャズでもポップスでもクラシックでもなく、ジャズでもポップスでもクラシックでもある。一言でいうと、彼の音楽は他に類を見ない「ドクター・シャーリーの音楽」としか言いようがない。」「彼のゲイネスは彼のカラードという人種のことと同じくらい彼の芸術性に「実験的であること」を導き出している。ガーシュウィンなどをアレンジしても普通じゃない。ビートルズよりも前の時代に片チャンネルずつ音を分けて、いろんな楽器にユニゾンをやらせつつ、不思議なホーンのフレーズを入れている。」

ものすごく納得。…できた気がする。このあたりを踏まえてもう一度『グリーン ブック』観てみると、きっと新たな気づきがあるだろうし、印象も少し変わるんじゃないだろうか。

とりあえず、ジャズとクラシック音楽を学んで1990年代のラップやヒップホップを聴いて育ったクリス・バワーズがこの作品の音楽を手掛けたことの意味も改めてわかり、「クリス、グッジョブ!」と言いたくなったりも。まさに適任だったわけです。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?