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interview: レニー・クラヴィッツ/「時代は移り変わる。それでもロックンロールの精神は永遠に消えないものだと僕は思う」

レニー・クラヴィッツが6年振りに発表したニューアルバム『Blue Electric Light』がめちゃめちゃいい。レニーがレニーの「オレ道」を突き進んでいて、そこに迷いが一切ない。円熟味が増したと言えるところもあるが、それ以上に溌剌とした印象が強い。生気溢れ、躍動感が漲っている。「心も精神も肉体も、いまがいちばん状態がいい」。5月26日に還暦を迎えたレニーだが、まさしくその言葉の通りであろうことがアルバムを聴くとよくわかる。

バハマにいる彼にZoomでインタビューをした。全国のタワーレコードで現在配布中の「bounce」486号(表紙もレニー)の記事のためだ。通訳は丸山京子さん。30分という長くない時間だったが、こちらが多めに用意した質問全てにレニーはテンポよく答えてくれた。

bounce 486号 2024/06 TOWER RECORDSにて配布中

新作『Blue Electric Light』には、レニーがデビュー前に組んでいたロメオ・ブルーの相棒で、今は亡きトニー・ルマンと共作した昔の曲も新録音で収録されている。そのトニー・ルマンへの思いや、当時トニーのソロ・デビューに手を貸し、レニーにとっても大切な存在となったプリンスへの思いも語ってくれた。そのあたりがbounceのインタビュー記事の核となるところで、プリンスを想起させる曲も収録された新作を読み解く鍵にもなっているはずだ。mikikiに転載されたので、ぜひ読んでいただきたい↓

アルバム制作の背景やいくつかの楽曲に関しての彼の言葉は、この記事に入れ込んだ。がしかし、限られた文字数である故にレニーの言葉の全てを紹介することはできなかった。興味深い話はまだほかにもたくさんあったので、それを記事にしたい。そう考えてbounceの編集担当に連絡したところ、OKとの返事をいただけたので、ここに紹介する。言わばレニー・クラヴィッツ最新インタビューのアウトテイク。bounce/mikikiの記事を読んだあとに、こちらも読んでいただけたら幸いだ。

構成・文/内本順一
通訳/丸山京子
協力/bounce (TOWER RECORDS)


ーーそちらはバハマですよね。今もバハマのエルーセラ島とパリの16区にお住まいがあるのですか?

「うん、そうだよ」

ーー仕事のときとリラックスするときとで住み分けているんですか?

「いや、どちらの家でも仕事をするし、リラックスもする。音楽はどっちにいても作れるし、どこに住んでも作れなきゃダメだ。それが僕の生活であり、音楽を作ることでリラックスもできる。どこにいても全てが共存しているってことだね」

ーー先頃、ジムでマシーンを使ったトレーニングをしている姿がSNSで公開されました。また、リード曲「TK421」のMVであなたは、鍛え上げられた肉体を見せながら自由に動いて踊っていました。あなたのなかで身体作りと音楽の創造は密接に結びついているのでしょうか。

「だって言うじゃないか。“Our Body Is Our Temple”=人の身体は聖なる場所だって。だから僕はそれが常にいい状態にあるように整えていたいんだ。身体がちゃんと機能していれば、生活も人生もよくなる。そう思わせてくれたのは、僕の祖父なんだ。彼は自分の身体にいつも気を配り、実年齢より30くらい若く見えた。90代半ばのときにも60代半ばにしか見えない、っていうくらい身体のケアを怠らなかったんだ。ワークアウトを続けることで気持ちも若くいられたんだね。僕には祖父という素晴らしいお手本がいたわけだよ」

ーー新作『Blue Electric Light』、最高ですね。どの曲もこねくりまわしたりせず、今まで以上に音楽がおりてきたときの気持ちや衝動に素直になって作ったんじゃないかと感じました。それに、長いイントロをつけたりせず、わりとすぐに歌に入るのも今作の曲の特徴かなと。1曲のなかでの展開もさほど多くなく、ここ!という強力なメロディ部分を際立たせた作りになっているのも引き込む要因じゃないかと思ったのですが、そのあたりは意識してのことですか?

「いや、まったく意識していない。僕は感じたままを曲にする。それだけなんだ。だから、できあがった曲はそのときに僕が感じたことそのものだ。でも、とても興味深い分析だね」

ーー今作はとりわけダンスミュージックの成分を多めに用いて幸福感や祝祭感を表わした曲が目立っているように感じたのですが、あなた自身の今のモードがそういうものだということなんでしょうか。

「どうだろう。僕は自分が受けとめたものを増幅させているだけなんだ。そういうムードがこのアルバムにあるとしたら、そういうものを受け止めていたってことになるね。ごめん、もう少しいい答えを話せればいいんだけど、そうとしか言えないんだよ。何かが僕に語り掛けてくる。僕のなかにおりてくる。それを形にする。その背後に何か意図した考えがあるわけではないんだ」

ーーでは、今作であなたが特に手応えを感じているのは、どういうところですか?

「今自分に聴こえているものをそのまま音にすることができたってことかな。だからとても手応えを感じている。全体のフィーリングも、サウンドも、全てだね。今感じている全てをそのまま表現できていると思う」

ーー「TK421」のファンクネスはとりわけ強力で凄まじいパワーを感じます。

「あ、あの曲だけは、“頭のなかに聴こえていたものをそのまま音にした“……というのとは反対の作り方だったんだ。Prophet VS シンセサイザーをいじりながらイメージするリズムをドラムの音色で表現しようとしていたときに、その音色に影響される形で曲がでてきた。そこにいくつかの楽器やパーツを加えていくなかで、このグルーブが見つかった。曲作りとレコーディングの過程そのものがすごく楽しかった1曲だね」

ーー今作もまたあなた自身がいろんな楽器をプレイしてレコーディングされていますが、新しい楽器との出会いや発見なんかはありましたか?

「いつだって新しい出会いがある。楽器を手にする度に、毎回違った経験をすることができるんだ。特に新しい楽器を使ったというわけじゃないけど、今回もありとあらゆる楽器を、新たな気持ちで演奏した。パーカッションにドラム、シンセにドラムマシンのプログラミングも。それからピアノ、オルガン、エレクトリックピアノ、ベース、アコースティックギターにエレクトリックギター、チューブラーベルにティンパニー。もちろん歌もうたったしね」

ーーギタリストのクレイグ・ロスが今回もがっつり参加していますが、彼とは93年作『Are You Gonna Go My Way (自由への疾走)』からずっと一緒に作業してツアーも一緒に出ていますよね。それだけ彼のプレイがあなたの表現にしっくりくるってことですか?

「うん。通じ合うものがあるんだよ。僕らは一緒に音楽を作るために出会うべくして出会ったんだなって思う。音楽的にも人間的にもパーフェクトな関係で繋がっていて、僕は彼との作業を心から楽しんでいる。彼は腕をあげて、今では素晴らしいエンジニアでもあるんだ。だからこの数作は、いくつか彼と一緒に曲を作り、彼も僕も楽器を弾き、僕はプロデュースもして、彼はエンジニアの仕事もする。とにかく最高の相性なんだよ」

ーー今度のツアーもまたクレイグと一緒に出るわけですよね。

「もちろん!」

ーーサブスクリプションで音楽を聴くのが当たり前の時代になり、アルバムを通して聴かずに曲単位で楽しむ人も多いわけですが、『Blue Electric Light』は通して聴いてこそメッセージの強さを感じ取れるし、通して聴いてこそ昂揚の度合いも高くなるものだと思います。今でもアルバムというフォーマットにこだわって音楽を届けたいという気持ちがありますか?

「うん。時の経過に耐えうる曲のコレクションとしてのアルバムを、僕は今でも信じている。もちろんシングルをいくつか出すのもいいだろう。けど、それでもやっぱりアルバムという形態は絶対的にパワフルだ。僕はアルバムとして音楽を届けることを続けたい。自分が何を感じて、何を言いたいのかを表現するのに、1曲だけだとどうしても足りない。まとまったいくつかの曲が必要なんだよ」

ーー新作の話以外の質問もさせてください。あなたのこのアルバムに続いて、6月にペギー・グー(*韓国出身で現在はベルリンを拠点に活動する世界的なDJ/プロデューサー。今夏のフジロック出演も決まっている)のファースト・アルバム『I Hear You』がリリースされますが、シングル「I Belive In Love Again」はあなたとペギーのコラボ曲でした。彼女と一緒に仕事してみて、どうでした?

「すごくよかったし、楽しかったよ。計画的ではなく、彼女とはたまたまあるディナーで会って、次には一緒に音楽を作っていた。知らない誰かとコラボするなんて考えてもみなかったけど、これは自分にとってのチャレンジだと思ってやることにしたんだ。彼女はバハマまで来てくれて、一緒に作業をした。僕らの間にはいいヴァイブスがあったから、それに従って進めていった。そのあとはそれぞれの場所でデータのやりとりをして完成させた。とても気に入っている曲だし、自分にとっても貴重な経験だった」

ーー時代と共に主流となる音楽の種類は変わるもので、ある時期はヒップホップが全盛となり、ロックンロールを過去の音楽のように言う人もいました。でもまたフレッシュなロックミュージックを創造するミュージシャンやバンドが登場し、今ではロックが過去の音楽だなんて誰も言わなくなった。あなたはといえば、時代の主流がどう変化しようが、いかなるときもぶれることなく自分の信じる音楽を貫いてきました。そこが凄いなと思うのですが、もう自分の信じている音楽は時代的にリアルなものではなくなったんじゃないかと考えるようなことは今まで一度もなかったのでしょうか?

「ない。ロックンロールはそう簡単になくならないくらい大きなものなんだ。ヒップホップのスターだって、ロックスターになりたいと発言したり、ロックスター的な感覚を取り入れて真似ようとしたりするじゃないか。確かに物事は変化するものだし、時代は移り変わる。だけどそれでもロックンロールの精神は永遠に消えないものだと僕は思う。今、楽器を学ぼうとしている若い子たちがすごく多いよね。インスタグラムとか見ると、ティーンエイジャーだけじゃなくて小学生くらいの子供がロックンロールを演奏していたりする。若い子たちがロックが盛んだった時代の音楽に影響を受け、ギターやベースやドラムや鍵盤を一生懸命練習しているんだ。素晴らしいじゃないか」

ーーこのアルバムが出るタイミングで還暦を迎えられるそうですが、10年後にはどんなふうになっていたいですか?

「今やっていることを、今以上にうまくやれるようになっていたいね」

ーー『Blue Electric Light』を携えてのツアーはどんなものになりそうですか?

「今まさにリハーサルの最中なんだけど、パワフルで眩いブルー・エレクトリック・ライトが降り注ぐショーになるだろう」

ーーもう長いこと日本に来られてないので、来てくれるのを楽しみにしています。

「うん。絶対行くよ。今日はありがとう」

『Blue Electric Light』 Roxie/BMG(2024)






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