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ビリー・ジョエル@東京ドーム

2024年1月24日(水)

東京ドームで、ビリー・ジョエル。

ビリー・ジョエルに特大なる思い入れを持っている人が自分の世代には少なくない。「洋楽を聴き始めたきっかけがビリー・ジョエルだった」という人も多い。

自分にとっては、ビリー・ジョエルはそこまで特別なアーティストというわけではなく、ビリーの人柄もライフストーリーもほとんど知らない。知っているのは、アルコール依存とか交通事故とかいろいろあって波乱万丈だった……といった程度だ。が、思えば彼の物語はそんなに広く伝えられているわけではなく、日本の音楽誌にインタビューが載ることもほとんどなかったかもしれない。少なくとも僕は読んだことがなかった。いま検索したら、『ビリー・ジョエル・ストーリー』『ビリー・ジョエル 素顔のストレンジャー』『イノセントマン ビリー・ジョエル自伝』などライフストーリーを追った本もいくつか出ているようだが、キャリアの長さと知名度から考えるとずいぶん少ない。映画は、『ピアノマン』という伝記映画が作られているという一昨年のニュースがあったが、ビリーはそれに関わっておらず、「(ビリーは)楽曲や名前、肖像権や伝記の使用を許可するつもりはないとのこと」と記事にある(その後、制作はどうなったのか…?)。自分の過去を語ることにもそれが世に伝わることにも興味がなく、いまを生きたいというのがビリーの基本姿勢のようだ。

↓このインタビューはいま読んでみたらいろいろ興味深かった。

まあそうしたこともあり、自分にとってビリー・ジョエルはこれまでどこか遠い存在といった印象があったのだけれど、でも楽曲には人並に親しんでいた。中3だったか高1だったかの頃にとにかく『ストレンジャー』(シングルとアルバム)が洋楽では爆発的なヒットとなってラジオでかかりまくっていたし、レコード屋さんでもバーンと売られていた。自分もそのLPを買い、以来、83年の『イノセント・マン』までは大体リアルタイムで買って聴いていた(買わなかった盤もあるけど)。とりわけ『ニューヨーク52番街』『ナイロン・カーテン』『イノセント・マン』は大好きでよく聴いた。

そうやって好きでよく聴いていた時期が確実にあったのだ、ということを今回のライブを観ながら思い出した。

実に16年振りとなる日本公演。しかも一夜限りという貴重なもの。来日が発表されたとき、「遂にこのときが!」と思った人はさぞかし多かったはずだ。

自分は80年代だったか90年代だったかに一度は観ているはずだが、それが何年でどこの会場でどういうものだったか、怖いくらいにまったく覚えてない。なので、ほとんど初めて観るのに近い感覚で観に行った。高額チケットだけどこれはやっぱり観ておかねばと思ったのは、以前から一度はナマで観たいアーティストの筆頭に彼をあげていた妻の思いと勢い手伝ってというところもある。S席24000円といったって、ニューヨークまで観に行くことを考えたらねえ。

90年代末にレコーディングアーティストとしての第一線から退く意向を表明したけれど、ライブパフォーマーとしては現役であり続け、マディソン・スクエア・ガーデンなどでオーディエンスを熱狂させ続けてきたビリー・ジョエル。現役バリバリのライブミュージシャンなのだから、そりゃあいいものを見せてくれることは間違いないと思っていた。思っていたけれど、ここまでいいとは思っていなかったというのが正直なところだ。いやもう、とんでもなく素晴らしかった。想像を遥かに超えていた。

数日前から気持ちを盛り上げるべく、我が家ではサブスクでビリーの曲をいろいろかけて復習していたのだけど、それもあってこのところ鼻歌うたっちゃう頻度の特に高かった「マイライフ」で始まったものだからもう一気に引き込まれて立ち上がってしまった。NYとかではほとんどやらないらしい「オネスティ」は今回はどうだろ?  日本で人気のバカ高い曲だからやってくれるんじゃない? などと妻と話していたその曲は、なんと4曲目で早くもやってくれた(やるなら中盤以降だと思っていたので意表を突かれた感じがした)。『ニューヨーク52番街』A面ラストの「ザンジバル」でおおっ!となったあと、「アイム・ノット・ミック・ジャガー」と言って演奏されたストーンズの「スタート・ミー・アップ」は、もっさりながらもそれなりにステージを動いて歌い、しかもミックの歌い方(節のつけ方)を真似ていたので、笑ってしまった。しかもさわりだけ歌うのかと思いきや、1番を丸々歌ってバンドも真面目にしっかり演奏。歌い終わって「ね、私はミック・ジャガーじゃないって言ったでしょ?」って言うあたりに可愛げも。ってなことしながら、次には「イノセントマン」で感動させるっていう、そのメリハリもさすが。で、ドゥーワップのスタイルでトーケンズ「ライオンは寝ている」やって、そこから流れ良く「ロンゲストタイム」に移るあたりがまたお見事。自分がビリー・ジョエル曲のなかで一番好きな「アレンタウン」のイントロ聴こえたときには思わず腕あげて喜んじゃったし、「ニューヨーク・ステイト・オブ・マインド」のアダルティーな管の音とニューヨークの夜の映像に、あの頃はこういう曲聴いてニューヨークという大都会に憧れたりしたっけなんてことも思い出したりも。といったふうに最後まで書いていくと時間かかっちゃうのでやめとくけど、前半の、1曲1曲それを発表した年代と収録アルバム及び曲題を言ってから演奏を始めるそのやり方もとてもよかったし、後半の、ロック味ありのダイナミックな曲をこれでもかと次々に演奏していったところもめっちゃ昂揚した。

やってほしいねと妻と話していた曲は(「素顔のままで」を除けば)全部やってくれたし、声は想像以上に力強くて74歳という年齢を感じさせない伸びやかなものだったし、「高い声とはさよならしたんだよ」とか言いながらも「イノセントマン」は強力なハイトーンもしっかり聴かせてくれて拍手が起きていたし、後半のロック的ないくつかの曲では前半のピアノ曲よりもさらに艶が増していった感じがあった。バンドも素晴らしくて、とりわけホーンセクションが効いていた。音響も東京ドームだというのに問題なく、だいぶいい音で聞こえた(音響スタッフの優秀さが相当大きいのだろう)。

ユーモアもあるから観ながらついついニコニコしちゃってる自分がいたし、「ああ~、なんていい曲なんだ~」と改めて実感しながら泣きそうになっている自分もいたし、とにかく終始幸せな気持ちが途切れなくて、ほんと多幸感とはこのことだよなと思ったし、終わってから妻とずっと「いやぁ、本当に観ることできてよかったね」と感想言い続けて、熱い気持ちがおさまらないから家の近所でお酒飲んで帰って……。

結果、何年も前の曲でもいい曲はずっといい曲であり続けるってことを強く強く実感。というのと、そうだよな、伝記映画みたいなものがなくても彼は自分の経験や人生についてのことはこうしていろんな曲に盛り込んでいたんだもんなと改めて気づかされた。というのと、あと、これまで遠い存在だったビリー・ジョエルが、あの約2時間半でグッと近くに感じられる存在になりもしたのだった。だから本当に本当に観に行ってよかったのです。



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