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Merchant、2人ゆうらん船、宇宙まお@吉祥寺Star Pine's Cafe

2003年9月10日(火)

吉祥寺Star Pine's Cafeで「IN THE STARLIGHT」と題されたイベント。出演は順にMerchant、2人ゆうらん船、宇宙まお。

Glider、Hedigan'sの栗田将治=まーちゃんがやってるソロ・プロジェクト、Merchant。今年2月に1stアルバム『Dolphin Sane』を発表し、その後何度か弾き語りスタイルでライブをやっていたが、今回はベースとドラムを加えたトリオのバンドスタイルでやるというので観に行った。

まずはそのMerchant。今月1日の吉祥寺NEPOがトリオ編成での初ライブで、そのときのメンバーはギター&ヴォーカルが栗田将治、ベースが井上真也、ドラムがGliderの椿田翔平だったようだが、今回は栗田将治、井上真也、ドラムが大塚薫平。まーちゃんはハーモニカ・ホルダーをつけてときどき吹きながらギターを弾いて歌っていた。「微笑み」「恋のバネ」「Summer Guru」「マドロミノフチ」「予感飛行」「ミカン」「遊泳教室」の全7曲。どれも『Dolphin Sane』に収録された曲だが、栗田・井上・大塚のトリオで演奏されたそれらは、アルバムの音とも弾き語りライブで聴くそれとも大きく異なっていた。ものすごくざっくりした言い方になるが、それはロックの音だった。元がフォーキーな曲でもロック的な鳴りがなされていた。

演奏は自由度の高いものだった。きっちり緻密に合わせるのではなく、それぞれが自由にプレイして、それがいい感じでひとつになるといったふう。キチキチにするのではなく、そういう余白ある演奏がまーちゃんは好きだし、井上真也も大塚薫平もそういう自由度の高さを楽しんでいるように感じられた。

Hedigan'sでベースの本村拓磨が休養していた一時期、代打で弾いていた井上真也は、プレイの自由度に加えて喋りも自由でめちゃめちゃ面白い。主役のまーちゃんよりもたくさん話して場を和ませ&笑わせる。ムードメーカーとして絶対に必要な存在。彼がいるのといないのとで雰囲気も大きく変わるだろう。なので、喋りはほぼ井上が担当し、まーちゃんは自由に演奏を楽しんでいた。振り切った演奏をしていた。最後の「遊泳教室」ではHedigan'sのライブのときのように延々と激しく弾きまくっていた。原曲とはまったく別物。ロックだ!

そもそも『Dolphin Sane』の楽曲群のメロディに強度が備わっているからなのだろう。だからどのようにアレンジされても、どんな編成で鳴らされても、曲のよさはしっかり伝わってくる。そんなことも感じた。

Merchant自体、自由度が高く、メンバーを固定しないでまーちゃんの好きなように転がしていくものだろうが、この3人Merchantに僕は大きな可能性を感じてしまったので、ぜひこの形で定期的にライブをやっていただきたい。

2番手は、2人ゆうらん船。ゆうらん船は5人組バンドだが、2人ゆうらん船は内村イタルと本村拓磨のふたりによるミニマルなユニット的なるもの。内村はバンド時同様ヴォーカル&ギターだが、ベーシストの本村はここではベースを弾かずにシンセ機材をいくつか並べて電子音を出す。内村のフォーキーなメロディ、歌と、本村のアンビエント的だったりエレクトロ的だったりの音との融合は非常に独創性の高いもので、メロディのよさも音の美しさも両方感じられて引き込まれまくった。終演後に本村氏と少し話したところ、コロナ禍でライブができなくなった頃に思い立って機材を購入して始めたそうだが、ベース弾きでありながらこっちの電子音にも創造性を込められるミュージシャンはけっこう珍しく、すごくいいなと僕は思った。静かめの曲が多いなか、最後は80sのエレクトロポップ味があってダンサブルとも言える曲で、そのようにメリハリもあった。

それにしても内村イタルという歌手の声はやはり類のないもので、どういう形であれ彼が歌えばそれはゆうらん船の歌になる、といった感じ。「Parachute」の“パラシュート開いた~“がいつまでも耳に残り続けた。

3番手はシンガー・ソングライターの宇宙まお。ギター弾き語りで数曲やったあと、栗田将治がベースで、栗田祐輔が鍵盤で、そしてGlider及びHedigan'sのエンジニアであるテリーがマニピュレーターとして加わり、この日ならではのアンビエント・セットで数曲が演奏された。栗田兄弟とテリーがいるって、それ、ほぼGliderじゃん!という感じだが、祐輔は静かに環境音楽的な音を鳴らしているし、何よりヴォーカルが宇宙まおさんなので、それは今まで聴いたことのない新鮮なもの。曲によってはサイケデリック味もあった。初の試みだったはずだが、実験的というほど尖っているわけではなく、宇宙まおさんの持ち味が損なわれることは少しもなかったように思う。なんにせよ新しい試みをするのはよきことだ。

Merchantのステージで井上真也も言っていたが、1番手のMerchantが最もラウドであり、2番手、3番手と続くなかで徐々に静かな音になっていくという珍しいイベント。と同時に、3組が3組とも新しい編成で新たな試みを見せるという、なかなかに貴重な夜だった。また出演者みんなが繋がっているからこそのあたたかさもあり、みんながみんな楽しそうに演奏していたのもよかった。

↑上は4月に行なわれたMerchantのライブの感想記事。

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