Hedigan's@渋谷クラブクアトロ
2024年2月27日(火)
渋谷クラブクアトロで、Hedigan's。
まだ結成されてそれほど時間の経っていないバンド、Hedigan's(ヘディガンズ)。大きな場所での初ライブは昨年10月1日、軽井沢での野外イベント「EPOCHS ~Music & Art Collective~」だったが、その後初EPの制作があり、そのリリース・タイミングとなる今回、東名阪で初ツアーが行なわれた。
Suchmosが活動休止となって以降、表舞台に出て来ることのなかったYONCEが新たに組んだバンドということで注目度が高く、チケットは早々にソールドアウト。実際、YONCEのファンの人、YONCEの今を観たいという思いで足を運んだ人が大半だったように思う。
自分はというと、Suchmosは2016~2017年に何度かフェスで観たことがあったが(グリーンルーム、ARABAKI、ライジング、朝霧Jam)、単独ライブを観たことはなかったし、音源もそこまで熱心に聴いていたわけではなかった。じゃあどうしてHedigan'sに強い関心を持って、すぐにこのライブのチケットを買ったのかと言えば、もう10年以上活動を追い続け、好きでい続けているバンド、Gliderの栗田兄弟(祐輔と将治)が参加しているからだ。
昨年3月にリリースされたザ・ストリート・スライダーズのトリビュート&オリジナル音源2枚組作品『On The Street Again -Tribute & Origin-』。このトリビュート盤のほうに、YONCEが歌った「愛の痛手が一晩中」が収録されている。スライダーズのオリジナルとはまるで異なる、最早原形をとどめないぶっとんだアレンジ。ヴォーカルも味わいありだが、演奏がヘヴィなブルーズロック調でグルーブも強く、とりわけ後半のギターソロが唸りまくりで鳥肌もの。このヤバいギターソロ、誰が弾いてんだろ?と思ってクレジットを確認したら、なんと、まーちゃん(=栗田将治)だった。しかもキーボードは祐輔。その上、録音とミックスのクレジットにHiroki Itoとあり、at Studio Digともある。つまりGliderチームががっつり関与していたのだ。
因みにその曲のクレジットを見直すと、ベースは本村拓磨(ゆうらん船)で、ドラムは大内岳だった。
栗田将治、栗田祐輔、本村拓磨、大内岳。そう、YONCEがスライダーズの「愛の痛手が一晩中」を独自の解釈でカバーするにあたって集めたこのミュージシャンたちが、後にそのままバンドの形となり、そしてHedigan'sと名付けられたわけだ。
久しぶりにYONCEと会って一緒に演奏し、どんなバイブスが生まれ、どのようにバンドになって、どう楽しんでいるかといった話を、僕は友達のまーちゃんからずいぶん前に聞いていて、そのときから音源とライブをめちゃくちゃ楽しみにしていた。「愛の痛手が一晩中」をあんなふうに仕上げてみせたバンドだ。やばいに決まっている。
そして、7月にSNSでバンド結成が発表され、10月に初ライブ、11月にシングル「LOVE(XL)」、年が明けて1月にシングル「論理はロンリー」が配信されて期待感が募りまくり、初EP『2000JPY』のリリースと共に遂に今回の初ツアーと相成った。それはもう、想像を大きく上回る最高度合いだった。
ゲスト扱いのオープニングアクトでROHE BART BARONが1時間弱やったあと、セットチェンジを挿んでいよいよHedigan'sのオンステージ。ベースの本村拓磨が体調不良でツアーに参加できなくなってしまったのは残念だったが、サポートで井上真也が入り、YONCEが彼を「ムードメーカー」と紹介していた通り、バンド内のいい雰囲気は損なわれることなく伝わってきた。
ステージ上にいる全員がどこまでも「音楽を」「演奏を」「バンドを」楽しんでいた。祐輔はどこかふてぶてしい態度でソウルフルな鍵盤音を鳴らすのだが、ときどき「弾く」というより「叩く」ことをしたりして、いい塩梅の狂気を音に込めていた。大内岳は大きく腕を振り上げて体重を乗せながら叩き、力と共に魂も音に乗せてぶっ放っていた。井上真也はこのメンバーと鳴らすことの楽しさを音のみならずそのまま笑顔にして表していた。まーちゃん(将治)はこのバンドではギタリストに徹していられることもあってどこまでも自由に、即興も楽しみながらプレイしていた。フロントマンはYONCEだが、Hedigan'sサウンドにおいてはまーちゃんの趣味性がかなり濃く出ていて、このバンドのキーパーソンであることが誰の目にも見て取れたはずだ。そしてYONCEはその場にスッと立ちながら宙を見て歌っていて、かと思えば動物のようにカラダをくねらせ、かと思えばヘッドバンキングよろしく首から上をビートに合わせて振り、長い髪をわっさわっさと振り乱したりもしていた。歌声の個性はとても際立っていた。妖しさと独特の浮遊感があった。ずいぶん前にいくつかのフェスでSuchmosを観たときの印象とはまるっきり(別人かというほど)違っていた。誰かがXで「深みが増した」と書いていたが、Suchmosを追っていなかった自分なりにもそういうことなんだなと理解できた。この数年のいろんな思いが時と共に熟成され、今現在の彼の歌表現になっていると、そういうことなのだろう。長身であることも手伝い、その佇まいにはなるほどカリスマ性めいたものがあった。が、MCはナチュラルだった。6人目のメンバーと言っていいエンジニアのテリー(伊藤広起)を紹介して「ありがとう」の言葉を伝えていたのもよかった。そのようにYONCEもまた自然体で、このバンドを、そのステージを、ただ楽しんでいた。
「LOVE(XL)」「サルスベリ」ときて、中盤ではEP『2000JPY』に収められていない作りたての新曲を3曲。そして「説教くさいおっさんのルンバ」「敗北の作法」ときて最後を「論理はロンリー」で締めた。基本はサイケデリック味の濃いスロー・ロックで、曲もパーンと始まりカチッと終わるような種類のものではない……というところがライブだと尚更増すのだが、新曲のうちのひとつはこのバンドにしてはわりと明快なロックンロールで、つまり「ノレる」曲であり、こういう曲があるのはアクセントになっていいなと思えた。EP収録曲の多くもまたライブ用のアレンジが大胆に施されていて、音源とはまったく別モノと言える曲もあった。「説教くさいおっさんのルンバ」は音源ではフォーキーなものだったが、ライブのそれはダブであり、サイケデリックな音響加減で空間がねじれるようだった。
音源もどうかしてる感じがあったが、ライブはその何倍もどうかしてた。Hedigan'sはもう圧倒的にライブバンドだった。何々風であることを1ミリも望んでいなくて、ただただ各自の思う面白いことをライブでもやっていて、だから完全にオリジナルの、ワンアンドオンリーの、破格のライブバンドだった。
それぞれの場所でキャリアを重ねてきた面白いことの大好きなはみ出し者ミュージシャンたちが集まって、一切のしがらみなく、好きなことを好きなようにやる。それってバンドのひとつの理想形だろう。
Hedigan's。自分たちのペースでどこまでも好き勝手にやり続けてほしい。
追記: Hedigan's、フジロック出演が決定!!
どこのステージだろ? 夕暮れから夜にかけてのヘブンとかすごく似合いそうだな。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?