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プリシラ・アーン@ビルボードライブ東京

2023年5月31日(水)

ビルボードライブ東京で、プリシラ・アーン(1stショー)。

プリシラの来日公演は毎回必ず観ているが、前回からけっこうあいたような気がする。記憶に間違いがなければ、2017年5月に代官山SPACE ODDでやったとき以来ではないだろうか。だとすると、6年ぶり?!    

確かに久しぶりだが、その間、彼女は子供を産んで育てたりしていたため、そこまで活発な音楽活動はしていないようだった(少しずつ動いていることはフェイスブックで見て知っていた)。が、つい先頃、『ア・ベター・プレイス』というかなり久しぶりのニューアルバムがビクターから出た。自分はEMIでの日本デビュー当初から関わってライナーも書かせてもらってきたが、ビクターからの新作は出たあとに知った(さびしいことだが、この業界はまあそんなものだ。仕方ない)。

サブスクで聴いたが、いいアルバムだった。なので、できれば今回もインタビューしたかったところだが……。それはともかく、今回の公演はその新作を携えてのもの。

今回はトリオ編成で、アコギ(曲によっては鍵盤も)を弾いて歌うプリシラのほかに、チェロのオリヴァー・クラウス(プリシラのデビュー盤『A GOOD DAY』から度々参加)とピアノのサシャ・スミス。

荒井由実「ひこうき雲」のカヴァーでスタートした。ああ、プリシラ・アーンのライブだ。空気と歌声、その混ざり方でそう実感する。決して張ったりしない美しい声で日本語詞が歌われる。その歌声と数少ない楽器の音がすーっと会場に広がっていく。静かに波が寄せるように。楽器音では、とりわけオリヴァー・クラウスのチェロの響きが美しく、この1曲目で今回のライブはプリシラの歌とオリヴァーのチェロの合わさりが肝であり何よりの味わいどころでもあるのだとわかった。

「日本にいるのが噓みたい、信じられません」と、パンデミックがひとまずおさまりこうしてまた日本のファンの前で歌えていることの嬉しさをまずは言葉にするプリシラ。「頑張ってもう少し日本語でお話したいと思います。上手じゃなくてごめんなさい」と続け、そのあとも1曲1曲、丁寧に日本語でその曲のエピソードなどを話しながら歌い進めていったが、「上手じゃなくて」なんてとんでもない、とても上手に発音して話していて、そういうところにも彼女の人柄が滲み出ていた。

2曲目「イン・ア・トゥリー」を歌ったあとにはこんなことも話していた。「ひとりめの子供を産んで、私はもう音楽を作れないと思いました。幸せだったんです。ところがふたりめの子供ができてから、また音楽をやりたいと思うようになったんです。それで2019年からアルバムを作り始めました」と。そうして(コロナ禍をはさんで)アルバムを完成させ、いまこうして日本に戻ってきてくれたという、そのことを僕はとても嬉しく思った。

エレクトロ方面に進んだ当時の曲をプリセット音=カラオケスタイルで歌ったりといった遊びもあったが、基本的には新作からの曲(アルバム1曲目の「You Make The World A Better Place」や森山直太朗作詞作曲の「さよならアムル」など)と日本語カヴァーを交えながら進行。アップテンポの曲で楽しませるようなところはなく、彼女の声の魅力が最大限に活かされるスローの静かな曲が続いていった。深くて、静か。その味わいを持たせられるのがプリシラだ。そしてやはり、今回はオリヴァー・クラウスのチェロの音色が本当に効いていた。素晴らしかった。

2021年のEPに収録した山下達郎「RIDE ON TIME」のカヴァー初披露のほか、「これは私が日本語で歌うことを最初に学んだ曲です」と言って歌った「カントリーロード」、アンコールで歌われたくるりの「ばらの花」など、カヴァーはカヴァーでよかったが、自分としてはやはりプリシラのオリジナル曲のいくつかが胸に響いた。新曲「You Make The World A Better Place」もとてもよかったが、なんといっても震災の後に日本を思って書かれた「希望の歌」、それから映画『思い出のマーニー』の「Fine On The Outside」、この2曲がたまらなく沁みた。

本編最後に代表曲「ドリーム」を歌う前、彼女はこう話した。「あなたのサポートが私の人生を変えました。本当にありがとうございます」。その言葉にグッときた。歌をうたい、結婚して子供を産み、そしてまたこうして歌をうたっているプリシラの人生と幸福を思った。うん。よかったね、プリシラ。またいつか、会って話せるといいな。

昨日もとりわけ心に響いた大好きなこの曲を聴き、この曲が出た頃(2014年。9年前だ!)に書いたブログを読み返してみたら、なんかやけに熱い自分がいた↓


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