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GOOD BYE APRIL『夢見るモンシロ』ライナーノーツ

昨日(6月27日)は、GOOD BYE APRIL初の配信ライブ"traveling safari”を見た。

埼玉県本庄市にあるスタジオDIG(Gliderのホーム・スタジオ)の行き届いた設備と、テリーくん(GOOD BYE APRILと親交の深いバンド、Gliderのエンジニア。ライブ時のベースも担当)の手腕によって、配信だというのに音響がとても生々しく、わけてもつのけんのドラムの鳴りがよかった。

セットリストも、「Blue Light Blue」など久しぶりに演奏される曲があれば、5月にスタートした6ヶ月連続配信シリーズのうちの既発の2曲(「サマーレインと涙の跡」「人魚の鱗」)もあるといったふうに新旧取り混ぜ、10周年に相応しいものだったように思う。

なんたって、無観客とは言え久しぶりにライブができているというそのことが、4人は嬉しくてたまらないようだった。

初めての配信ライブということで、えんちゃんはずっと緊張が続いていると話していたが、それは間違いなく昂揚感を含んだいい緊張であっただろう(そのえんちゃんがベースだけでなく1曲シンセも弾いていたのが新鮮だった)。

長引くコロナ禍でライブの形態/あり方の変化が余儀なくされ、恐らく今後また観客ありのライブができるようになったとしても、多くのバンド/アーティストは同時に配信ライブの可能性を探っていくことになるだろう。そんななか、GOOD BYE APRILの4人はその初回でなかなか大きな手応えを感じてもいるようだった。配信ライブだからこそやれること。それはいろいろあるだろうし、きっと彼らは彼らなりのアイデアでその可能性を広げていってくれるだろう。

ところで配信ライブの最後にえんちゃんも言っていたが、4月には10周年イヤーに因んで、廃盤となっていた2012年作品『夢みるモンシロ』と2013年作品『もうひとりの私』の2タイトルが配信リリースされた。『夢みるモンシロ』はGOOD BYE APRILにとっての初の全国流通盤。『もうひとりの私』はプロデューサーに上田健司を迎えて制作された意欲作だ。

この2作品のライナーノーツを、当時、書いた。

ライナーはCDに付くものであって、配信だと読むことができない。が、せっかくの機会なので、読んでほしい。そんな思いから、ここにアップすることにした。

今日はまず、2012年作品『夢見るモンシロ』のライナーを。

倉品翔、延本文音、つのけんの3人で2010年にスタートしたGOOD BYE APRILに、吉田卓史が加わって4人体制になったのが2011年7月のこと。『夢見るモンシロ』はその翌年にリリースされた。若き4人の衝動と音楽を奏でる喜びが、収められた6曲から生々しく伝わってくる。個人的には少しダークめの「さまよい森のリンゴ」が特に好きだった。

『夢見るモンシロ』ライナーノーツ

 尊いもの。それは青い日々。

 例えば起きたときの空模様の加減でその日の気持ちの向きが変わったり。人見知りであることに「いつかそうじゃなくなるのか」「でもこれが僕なんだし」と自問自答したり。開き直ったり。開き直れなかったり。開き直る自分にも開き直れない自分にも戸惑いを感じたり。「嘘つかれても平気だ」なんて嘘をついてみたり。例えばそういう行ったり来たり。

 その行ったり来たりにどうしようもなく支配される時期。永遠に続いていくような、でも歳をとって振り返れば一瞬だったような、そんな時間。季節で言うなら春だろうか。

 GOOD BYE APRILの4人は今、そういう季節のなかにいる。その季節がずっと続くものなのか、一瞬で過ぎ去るものなのか、そんなことはわかっていなくても……いや、わからないこそ(あるいはほんの少しだけわかりかけてきたからこそ)、その季節の真っ只中で感じた色、景色、匂い、感情や空気や風の動き、揺れ……そういうものを言葉や音にして定着させようとする。

 それをやっていくのだという覚悟はもう完全に4人のなかにある。それこそが自分たちの音楽表現なのだという想いが4人にある。彼らの口からそれを聞いたわけではないが、そうであることは見ていれば(曲を聴けば)わかる。そしてその筆致は鮮やかで、とても瑞々しい。どの曲も想いの向こうに景色がクッキリ映り込む。どの季節で、いつ頃の時間帯なのか、空模様はどうなのか、それがわかる。彼らと彼らの音楽の、それは大きな魅力のひとつである。

 倉品翔(ヴォーカル&ギター。1990年・長野県出身)。吉田卓史(ギター。1989年・大阪府出身)。延本文音(ベース。1989年・大阪府出身)。つのけん(ドラム。1990年・神奈川県出身)。彼らが出会ってから実はまだそんなに長い時間は経っていない。結成は2010年11月。ギターの吉田卓史が加入して4人体制になったのは去年の7月のことだ。にも関わらず、彼らはまるで昔からの友達だったんじゃないかと思えるほど一体感を持ったバンド・サウンドを出す。4人の見ている方向が一緒であり、今この4人でしか描くことのできない絵を描かずにはいられないから毎日描いているといった感じなのだ。よって持ち曲は増え、曲タイプもずいぶん多様になってきた。

 歌声と歌詞に“屈強な繊細さ”を滲ませる長身フロントマンの倉品翔は、グッド・メロディを生みだす作曲センスにも磨きがかかってきた。ベースの延本文音はますます本能的に弾くようになり、徐々に大胆さも表れてきたが、一方で引っ掛かりのある言葉を含む歌詞を書く才も表に出てきた。ふたりのソングライターを擁するのはこのバンドの強みだ。また、腕の振り上げひとつにも気持ちが表れるつのけんのドラムは、しかし同時に安定感もあり、今やバンドの推進力そのもの。そしてギターの吉田卓史が加わったことにより、曲の色調がグッと豊かになった。6色の絵具から一気に24色くらいに増えたようだ。

 そんなGOOD BYE APRILの、『夢見るモンシロ』は2ndミニ・アルバム。ライブで大いに盛り上がる現在の彼らの代表曲的な「サンデイ」を筆頭に、ロックの衝動と勢いに満ちた曲が並ぶが、倉品翔の作曲者としての本質がするっと出たような「さまよい森のリンゴ」が意外に深い印象を残し、また曲展開自体がドラマ性を有した「I’m for you」のスケール感がこのバンドの可能性を伝えてもくる。4人で音を鳴らせるという「喜び」があり、「決意」があり、「遊び心」もある、この6曲が即ち彼らの今の歌、今の想いである。

 これからも誰かが訳知り顔で言った言葉など信じず、自分(たち)の目に確かに見えたことだけを、まだ余白のたくさん残るキャンバスに描いていってほしい。思いきって、いろんな色を使いながら。

                                                    (2012年、内本順一)

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