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『ミナリ』

2021年3月20日(土)

TOHOシネマズ六本木で、『ミナリ』。

A24とブラピのプランBによる共同制作(大傑作『ムーンライト』など)で、アカデミー賞6部門にノミネート。だったら間違いでしょうと思って観に行ったら、さすがに素晴らしかった。大きな盛り上がりのあるお話ではなくとも、印象に残る美しい風景映像、そこに重なる弦を使った音楽と、A24らしくいちいちセンスがよく、描き方が丁寧で誠実。「ああ、いい映画を観たなぁ」としみじみ余韻に浸ることができた。

アメリカ南部アーカンソーに移住して農場経営の成功を目指す韓国系の父親と家族の物語。移民2世の視点で描かれるアメリカン・ドリームは、「いや、それ、きびしすぎるっしょ」と見ていて苦しくもなるし、実は農業に向いてない「土」のアーカンソーの土地で実際父親は次第に頑なさから壊れ、妻とのギスギスも増していく。移民としての立ち位置から抜け出して地位を確立することにとらわれ、もはや初目的が何だったかも見失っていくそんな夫に対して、妻は高望みしないで安定した暮らしをしたいと思っていて、「まったく男ってのは…」と僕なんかは思ってしまうんだが、しかしあれだけ終始ギスギスしている夫婦がそれでも別れないことが面白くもあるし、考えさせられるものもある。いろんなしがらみやらあるのかもしれんが、というか何より子供のことが大きいわけだが、結局それも夫婦の、家族の形なんだよなぁと。

加えて「信仰」とか「老いた親」とか、いろいろとリアルに考えさせられるところの多い作品だが、しかしこの話自体が脚本と監督を手掛けたリー・アイザック・チョンの自伝的なものであることをあとで知って、なるほどそれ故の正直さがあり、だからどこか親近感もわくのかもしれないなと思ったり。

親近感というか既視感というか……のひとつとして、僕たちは『北の国から』を見て育ってるからというのもなくはないかもしれない。黒板五郎と黒板令子、蛍と純。家族であってもそれぞれに考え方・生き方の違いが当然あり、それで離れることもあるし、でも繋がってるわけだし、っていうのは『ミナリ』の家族にも言えることで、さらにトラクターとか主題歌の曲調とか火事の様とか、そのへんも含めて「北の国から」を思い出したところもちょっとあったり。

どんなに絶望的な状況になってもひとは希望を見つけることができる。大切なひとやものを失っても、草木は伸びて花も咲く。劇的だったりエンターテイメント性大きめだったりの作りでそれをズドンと伝えるものもあるけど、この作品は基本的に静謐なトーンでじんわりそれを伝えていて、それも説得力に繋がっているのかもしれない。この監督が元来そういうスタイルなのだとしたら、今度手掛けるらしいハリウッド実写版の「君の名は。」も期待してよさそうね。

実力派の大女優演じる茶目っ気ある不良おばあちゃんと、天然なのか天才なのかわからんくらいの孫の男の子の演技がスバラシイ。というのはみんなが言うことで、ほんとにほんとにそう思うけど、母親(ハン・イェリさん)の耐える表情演技も相当すごいな、と思ったな。

因みにエンディングでかかるスローのテーマ曲=「Rain Song」、僕的にめちゃめちゃ好みの曲で、歌声もすごくいいなと思って聴き惚れてたんだけど、あとでどんなひとが歌ってんだろと思って調べたら、歌っているのは母親役のハン・イェリさんで、しかも作詞も彼女がしていて、わぁー!。アカデミー賞の主題歌賞にもノミネートされているようで、俄然このひとのことが気になりだしたのでした。

「Rain Song」。↓このサントラの5曲目(06:36​~)。


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