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The Street Sliders@日本武道館

2023年5月3日(水)

日本武道館で、The Street Sliders。

LAST LIVEから22年と7ヵ月ぶりの再集結。場所は同じ武道館だ。

開演前から観客たちの熱気がものすごかった。注意事項のアナウンスが流れただけで、間もなくの開演に心躍らせている約1万4千人が「このときを待ってました」とばかりに声を出して拍手する。それぞれがそれぞれの場所で20数年を生き、その間にそれぞれいろんなことがあったはずだが、それぞれがいろんな思いを抱えて2023年のこの日、ここに来ている。そのひとりひとりのいろんな思いが声や拍手になったりもしながら武道館に渦巻いていた(それにしても声だしがOKになったこのタイミングの開催で本当によかった。これが数ヵ月前の声出し禁止の時期だったらまたずいぶん雰囲気が違っただろう)。

ステージ床はペイズリー模様

ほぼほぼ定刻通りに開演。客電が落ちてメンバーがステージに登場すると、まさしく割れんばかりの拍手(と、メンバーの名を呼ぶ声)。オードリー春日なみのゆっくりした歩き方で定位置についたハリーが、昔と同じあの言い方でこの言葉を放った。「Hello!!」。争奪戦に敗れて自分は観ることのできなかった4月28日・豊洲PITの「スペシャル・プレビュー・ギグ」では、ハリーはそれを言わなかったらしい(誰かがツイッターで「”Hello!!は武道館にとってあるのか」とつぶやいていた)。

1曲目は何になるのか。観客ひとりひとりのなかに「あの曲で始まったらいいな」という心のリクエストがきっとあっただろうが、この曲をオープナーに持ってくることを予想できた人は恐らくいなかったんじゃないだろうか。「チャンドラー」。少なくとも自分はまったく予想してなかったその曲で始まったので、引き付けられたというよりは戸惑いに近い驚きが先にきた。が、こういう曲をド頭にもってくるのがスライダーズなのだ。

「チャンドラー」「one day」「PACE MAKER」「TOKYO JUNK」。22年7ヵ月ぶりのライブで、スライダーズは3作目『JAG OUT』収録曲を4曲もやった。アンコール最後の「TOKYO JUNK」はともかく、あとの3曲はだいぶ意外な選曲だった。「チャンドラー」に続く2曲目が『WRECKAGE』の「BABY BLUE」だったのも「ほぉ~、そうきますか?!」と言いたくなる感じだったが、そうなんだよな、これがスライダーズなんだよなとも思わせられた。メンバーたちのモードがそこにどう反映されているのか、どういう理由でそれらが選ばれたのか、考えたところで答えなんて出ないし、教えてくれるわけもないのだが、とりあえず22年ぶりだからといってみんなが求めているゴキゲンなノリのロックンロールを序盤からバンバン続ける、そういうわかりやすい構成になどしないのがやっぱりスライダーズなのだとそう思った。

「すれちがい」が聴けたのも「うわ、これが聴けるとは!」と驚きつつその重さに沈み込めたし、「ありったけのコイン」を聴いてよくそれを口ずさんでいたあの頃の自分を思い出したりもしたが、それはあくまで自分のことであって、回顧的なニュアンスは彼らの演奏に少しもなかった。

まるで22年間ずっとどこかで続けていたかのようなアンサンブルで、特別な気負いもないように見えた。スライダーズはどこまでもスライダーズだった。だけど、やっぱり、間違いなく2023年のスライダーズだった。

変わらないアンサンブル、変わらないグルーブのように思えるが、例えば「魔性」とか「呪術的」といった言葉がぴったりくるようなものとは少し違っていた。が、よりヘヴィになった印象の曲があったし、一方でぬけのよさ、風通しのよさを感じられるようになった曲もあった。それはハリーの声自体の変化も関係あっただろうし、それぞれの演奏の変化(進化)もあるのかもしれないし、現在のバンドのモードというところもあるのだろう。

中盤、ハリーが「新しいやつを」と言って始めた新曲がとてもよかった(新曲には違いないが、JOY-POPSとして既に発表されている曲だったようだ)。ZUZUのドラムの音の感触がストーンズ「ロック・アンド・ア・ハード・プレイス」のようで、ギター展開には「ギミー・シェルター」味もあったその曲は、歌詞はいかにもスライダーズといった感じだったが、重めの音の鳴り方は『WRECKAGE』の次にくるもののような感触があった。いやそれにしても、ZUZUのドラム、すげえ。

本編終盤「So Heavy」「Back To Back」で一気にダンスなモードに行って、ウズウズしていた観客みんなを高揚させたが(イマドキの若いバンドなら、「さあここから一気に盛り上がっていきまっしょう!」とかMCしそうな場面だが、もちろんそんなことは言わない。ロックンロールは押しつけじゃないというのが彼らの基本の考え方だから)、それに続く本編最後の曲に「風の街に生まれ」を持ってきたところに今の彼らなりのメッセージ的なものを感じてグッときた。「おまえ次第さ 誰かが呼んでるはずさ」。そのフレーズがあの頃以上にいま、頭のなかでグルグル回っている。

スライダーズはどこまでもスライダーズだったが、それぞれが重ねた年月の重要さを感じる場面はいくつかあった。メンバー紹介というものを、流れでではなく、しっかりやった。ハリーはファンと全ての関係者に「感謝したい」とも言った。アンコールだって以前はやらないのが当たり前だったが、2曲やった。言葉は少なくとも、そうして思いを表していた。

ドラマチックなライブ、ではなかった。ドラマチックに見せようと思えばいくらでもそうすることはできただろうが、そうしないことが彼らの流儀であり、美意識であり、それがスライダーズらしくてかっこよかった。アンコールでステージに出てくるときと演奏を終えて去るとき、蘭丸はメンバーひとりひとりの肩に手を置いた。ドラマチックな演出などなくていい。それだけでもう十分にエモーショナルだった。

一夜明けて、いま思う。どこまでもスライダーズらしいライブだったなと。しみじみ、いいライブだったなと。

「Boys Jump The Midnight」「EASY ACTION」「Baby,途方に暮れてるのさ」「風が強い日」……そのほか聴きたい曲はまだまだあるが、「秋・ツアーやるゼイ!」ということなので、それを楽しみにしよう。





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