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『千夜、一夜』感想。

2022年10月8日(土)

吉祥寺アップリンクで、『千夜、一夜』。

漁港の町で30年前に失踪した夫を待ち続ける女性と、その町の人々を描いた重たい人間ドラマ。30年も夫を待つ女を田中裕子が、2年待ったものの待つことに耐えきれずに別の男と新しい人生を踏み出そうとする女を尾野真千子が演じる。待ちながら生きることの重さと、待つのをやめたことで抱える重さ、その対比がうまく描かれ、淡々としていながらも引きこまれた。

恐ろしいくらいに抑制を効かせ、そのなかで複雑な心情(ある種の狂気も孕む)を表現する田中裕子の演技が凄い。一方、抑制を重ねながらもあることで遂に感情を爆発される(ぶちギレる)尾野真千子もいい。それと、田中演じる登美子に想いを寄せ続けておかしな理屈で「一緒になってくれ」と迫る春男=ダンカンがひたすら気持ち悪かった。

後味はよくなく、昔の日本映画的な暗さ(辛気臭さとも言える)もあるので好き嫌いは分かれそうだが、拉致被害者家族がそうであるようにこうして「待つ」ことで毎日を過ごしている人が現実に多数いるという事実を改めて考えさせられる作品でもあった。


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