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亜無亜危異@下北沢シャングリラ 2days

2022年2月26日(土)・27日(日)

下北沢シャングリラで、亜無亜危異「プランクス・イズ・ノット・デッドvol.2」。

当初は81年リリースのアルバム『亜無亜危異都市』『Ready Steady Go』を全曲プレイする「1981DAY」と、80年代当時のライブでプレイされていた未音源化曲などをプレイする「BOOTLEG DAY」で2日間行われることが発表されていたが、ドラムのコバンこと小林高夫が心筋梗塞で救急搬送され、しばらく療養することになったため、急遽内容を変更。複数のサポートドラマーを迎え、1日目は<THE ROCK BAND+亜無亜危異>、2日目は<新生ANARCHY+亜無亜危異>というプログラムで行なわれた。演奏されたのは、各ドラマーの希望曲だ。

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2月26日(土)。

ライブが始まる前にまず、欠場となったコバンによるお詫びと感謝の言葉(録音)が会場に流れ、それにちょっとグッときてしまった。来月再手術を予定しているが現在は元気な状態とのこと。夏までには復活したいと話してもいた。完全に治して復活することを祈っている。

この日のサポートドラマーは、順に小林侑海(WORMS‘MEAT。コバンの息子)、池畑潤二(ROCK’N’ROLL GYPSIES / THE ROOSTERS)、坂詰克彦(怒髪天)、NABO(ニューロティカ)。

ふたりめのドラマー・池畑を迎えてのパートがTHE ROCK BAND時代の楽曲構成で、ほかの3人のときは亜無亜危異代表曲の新旧取り混ぜた構成。坂詰氏を迎えたパートでの「都会(まち)」(『亜無亜危異都市』収録)など、長年ライブで演奏していなかった曲が聴けたことにも「おおっ!」となったが、個人的に特に興奮したのはやはり池畑氏とのTHE ROCK BANDパートだ。

彼らがTHE ROCK BANDとして活動したのは1986年から1992年で、発表したアルバムは2作(サブスクにはないが、特に87年の2作目『四月の海賊たち』は音楽性の面でも歌詞の面でも非常に充実した傑作で、全キャリアのなかでもバンドの最高傑作と言っていいもの)。亜無亜危異の不完全復活以降では、2019年11月の「藤祭2019 還暦」(@吉祥寺ROCK JOINT GB)でTHE ROCK BANDの一夜復活があって、あれにも震えたが、今回はそれ以来。亜無亜危異楽曲とは異なるブルーズロックの黒いグルーブがとぐろを巻き、とりわけ藤沼伸一のギター・センスにしびれた。池畑含め、各プレイヤーの演奏力の高さなくして、あのグルーブは生み出せないものだ。「池畑を呼んだからにはこの曲をやらねえと」とルースターズ「FOOL FOR YOU」もTHE ROCK BAND流儀で演奏されたが、なかでも熱くなったのが「四月の海賊たち」で、そのかっこよさと言ったら!     

彼らのなかで亜無亜危異とTHE ROCK BANDは分けて考えているのか、亜無亜危異の通常のライブでTHE ROCK BANDの曲が演奏されることはないのだが、今後はいい塩梅で混ぜたライブをやってもいいのではないかと、自分はそう思ったりもした。

また普段の亜無亜危異のライブはMCなしで一気に最後まで駆け抜けるものだが、この2日間は茂が各ドラマーとのエピソードなどを話しながら進めていたのも新鮮だった。となると、茂のあたたかな人柄が滲み出る。亜無亜危異を敬愛する坂詰氏やNABO氏とのいい関係も感じ取れ、かなりレアなライブを体験できたなと満足感でいっぱいになった。

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2月27日(日)。

この日はまず名越藤丸がドラムの「新生ANARCHY」(ラウドロック/デジロック期)パートからスタート。この時期(1996年~2001年)のライブを、基本的にラウドロック的なものが得意じゃない自分はほとんど追っていなかったんだが、これがとてつもなかった。今それを観て改めて彼らが何に挑んでいたのかわかった気がした。電子音も加わり、歌詞の世界観含めて亜無亜危異よりも不穏。なんといっても凄まじいのは音圧だが、そこに少しも埋もれることなく前にゴンと出てくる茂の声の強さも凄い。今日本にあれだけの音圧で声を活かせられるヴォーカリストが果たして何人いるだろうか。

その「新生ANARCHY」パートから始まり、キース(ARB)を迎えて以降は亜無亜危異の曲を次々に。キース、松浦英治(30%LESS FAT。亜無亜危異がリハーサルで使用している「P.I.G.Studio」のオーナー)、坂詰克彦(怒髪天)とドラマーがチェンジして進んでいったなかで、「団地のおばさん」と「心の銃」は(各ドラマーの希望で選曲されたため)2回演奏されたが、ドラマーが変われば聴こえ方もずいぶん変わるのが面白い。個人的には土曜日に続いて出演した坂詰氏の音との相性が特に良い気がした。

因みにキースが叩く姿を自分が観たのは相当久しぶり。ビクター「Invitation」の先輩バンドだったARBと亜無亜危異が当時仲良かったのはよく知られているが、亜無亜危異がデビューして初めに「あの曲よかったよ」と声かけてくれたプロのミュージシャンがキースで、プロに認められた気がしてすごく嬉しかったという茂の話と、でもそのときキースからもらったARBの「魂こがして」をメンバー全員呑み屋に忘れてきたというオチが面白かった。かつてARBでキースが病欠することになった際、サポートで入ったドラマーのひとりがコバンだったというのも(今回はそのお返し的な…という意味で)いい話。

1日目の「都会(まち)」に続いて、「平和の裏側」「時の流れ」(どちらも『READY STEADY GO』収録)など、ほとんどライブでやってこなかった曲がこの日聴けたのも嬉しかったし新鮮だったが、「デラシネ」「けだるい午後の昼下がり」「ちきしょう」と『デラシネ』収録曲が続いた終盤(ドラムは坂詰氏)のボルテージがハンパなく、何よりそこに圧倒された。前日から2日続きで、各日2時間歌いっぱなしなのに、衰えるどころか終盤に向かってさらに声の迫力が増していく茂はバケモノ的だ。しかもコロナ陽性明けだというのに、そんなことは微塵も思わせない。ロックヴォーカリストとしてあまりにも破格である。

パンクロックのアナーキー期、ブルーズロックのTHE ROCK BAND期、ラウドロックの新生ANARCHY期。そのどこにも自在に行けて表現できる現在の亜無亜危異はキャリア史上最強だし、実に懐がでかい。

今回2日間観て、改めて亜無亜危異の凄さ、底知れなさを実感した。すげえ、すげえよ、亜無亜危異。彼らは僕に力をくれる。バンドが続く限り、自分は彼らを観続ける。今はコバンの復活をゆっくりと待つ。


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