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ウソツキ@渋谷WWWX

2021年11月19日(金)

渋谷WWWXで、ウソツキ。

聴いて、もし気に入ってくれたら何か書いてほしい。旧知の仲である品田さん(ウソツキのマネジメントから制作までもろもろ担当している、言わばメンバーのお母さん的存在)にそんなようなことを言われて音を受け取ったのは、確か2ndミニアルバム『新木場発、銀河鉄道は行く。』が出て少し経ったくらいだったので、2015年の春か夏頃だったと思う。それで新代田FEVERにライブを観に行って、終わってから楽屋で初めてメンバー4人に会ったのだった。以来、彼らのライブによく行くようになり、いいバンドだなという気持ちが観る度に膨らんでいった。僕は「ライブがいいバンド」が好きで、音源がよくてもライブがよくないバンドを好きになることはほとんどない。ウソツキは「ライブがいい」バンドで、回数を重ねるごとにライブバンドとしてどんどん面白く、かっこよくなっていったから、僕のなかの好き度も高まっていったのだ。

ウソツキはまず竹田昌和くんのソングライトの個性が際立っているバンドだった。このことはいつか改めてちゃんと書こうと思っているが、竹田くんの書く歌詞は視点、切り口がユニークで、ひとつの事象に対して「その切り口から書くか?!」と驚かされたりニヤリとさせられたりする。しかもそれがちゃんと普遍性にも落とし込まれるという、そういうミラクルなことを彼は毎回やってみせる。似た書き方をするひとをあまり見つけられない、つまり相当のオリジナリティを持ったソングライターだ。が、ただそれだけだったら僕は、評価はしてもここまでウソツキを好きにはならなかっただろう。メンバーひとりひとりの演奏力と演奏スタイル。バンドアンサンブルの妙。ライブを度々観るようになり、毎回それを感じ、それで好きになっていったのだ。

例えばギターの吉田健二くん(2019年1月に脱退)は、ウソツキの楽曲はあんなふうにポップだったり可愛さがあったりもするのに、ライブだとブルースっぽいフレーズを弾いて曲に深度を持たせるのが面白かったし惹きつけられた。林山拓斗くんのドラムは、小手先の洗練に走るのではなく、とにかくパワーがあった。でっかくて重量感のあるドラムがバーンと鳴り響く様が気持ちよく、それがウソツキのポップな楽曲を支えているというあり方が面白かった。藤井浩太くんはもともとハードロック好きで、初期は正しくきっちり進むロックのベースを弾いていたのが、バンドがファンキーな曲なんかもやるようになった『惑星TOKYO』の頃からヨコのリズムを獲得してグッと柔軟になった。竹田くんの作る曲の幅が広がるのと並行して藤井くんのベースの柔軟さが増し、それによってバンドの可能性が広がっていってるようにも感じられた。竹田くんのヴォーカルは、音源で聴くとまず甘みやあたたかみや味わいありのデリケートさが伝わるわけだが、ライブではいつも声の強さ、揺れなさ、飛距離を僕は感じていた。繊細そうでいて、実際は声がとても強い。大きな会場でも遠くまでバーンと響かせられる歌声なのだ。そういう演奏と歌の個性のアンサンブルは、恐らく(ライブを観たことのない)多くの人がウソツキに抱いているであろうバンドイメージとはちょっと違って、逞しさのあるものだった。ああ見えて、という言い方はアレだけど、ライブにおけるウソツキはとても男っぽいロックバンドだったのだ。そうしたライブバンドとしての実力がもっと評価されるべきだとずっと思っていたし、もっと男のコたちにもライブを観てもらいたいと思ったし、それこそZEPPくらいのハコで十二分に力を発揮できるバンドだと思っていたし……。それは今回のライブを観てても思ったことだし、だからウソツキがこの夜をもってバンドじゃなくなるのはやっぱり惜しいなと思ったのだった。

下は彼らが演奏面でも飛躍を遂げ、そのことについても語っている2ndアルバム発表時のインタビュー。↓

吉田くんが脱退したあと、竹田くん、藤井くん、拓斗くんの3人で(ライブでは都度サポートギタリストを入れて)活動していたウソツキだったが、藤井くんと拓斗くんがこの日=19日のライブをもって脱退。これからヴォーカル/ギターの竹田くんがひとりでウソツキを引き受けて活動していくことになる。つまり”バンドとしてのウソツキ”の、この日がラストライブだった。

つくづくバンドというのはひとつの物語だよなと思う。出会いがあって、「一緒にバンドをやろう」という誘いがあって、結成に至って、目標を共有して。喜びがあって、苦労もあって、笑いも、悔しさも、ときには苛立ちもあったりして。前進したなと実感するときもあれば、停滞を実感するときもあって。そうやって人生の何年間かを共に歩んでいく。

誰かが脱退する際に「卒業」という言葉を用いることがよくあり、ウソツキも今回のふたりの脱退を「卒業」という言い方で表してもいたけど、実際は学校で数年間過ごした同級生なんかよりも関係性の密度は遥かに濃いわけで、「卒業」という言葉には落とし込めない零れる思いが当然それぞれにあったことだろう。

だが、ひとつの物語の終わりを観ているという感覚は、結論から書くと、なかった。メンバーには悔しさが、自分を含むファンのみんなには寂しさや悲しさがあったことは間違いないが、しかしウソツキはこの”バンドとしてのラストライブ”をとにかく最高に楽しいものにするべく臨み、竹田くんは序盤のMCでそれを伝え、実際そういうライブになっていたからだ。

今度出る受注限定ベストアルバム『Go!!Somewhere!!』のジャケットのイラストが彼らを乗せて”どこかへ進もうとする”クルマということもあり、クルマの音がSEで流れるなか、メンバー3人とサポートギターのハルカ(MEMEMION / エドガー・サリヴァン)がステージに登場。竹田くんは「ようこそ」と言わんばかりに真ん中でにこやかに大きく手を広げた。そして1曲目からダンスチューンの「コンプレクスにキスをして」。彼らがこのライブをとにかく楽しいものにしようと考えてそこにいることは、並んだ3人の揃いのステップからもハッキリわかった。ライブの終盤で演奏されることも少なくなかった「新木場発、銀河鉄道」は早くも2曲目で演奏された。ギターで表現されるその汽笛の音を聴きながら、このようにこのバンドのメンバーで演奏される「新木場発、銀河鉄道」を聴くのも、「決して嘘をつかないバンド、ウソツキです」という竹田くんの言葉を聴くのも今夜が最後なのかと考えたらやっぱりちょっと寂しくはなった。が、演奏はいつにも増して力強く、それはもう、こっちが感傷的になるのが恥ずかしくなるほど。3曲目は「旗揚げ運動」でみんな揃って右手・左手を上げたり下げたりし、4曲目は初期の楽曲でありながら初期とは強度が桁違いになった「水の中からソラ見てる」。ギターがうなり、ドラムとベースは実に力強く、声の響きもいい。長めの間奏ではまたさらに熱を帯びる。疾走感と躍動感のどちらもあるこのような曲は特に、先にも書いた通りウソツキがタフで男っぽい正真正銘のロックバンドであることを改めて伝えてくる。

そんなふうに序盤からとばし、「夏の亡霊」(個人的にはウソツキ楽曲のベスト3に入るくらい好きな曲)からミディアム/スローめの曲をいくつか続けてじっくり歌を聴かせ、中盤には4人ともサングラスかけてバッドでファンキーな「恋はハードモード」を。バンドの歴史のなかでも、これはひとつの殻を打ち破ってみせた曲だったことを思いだした。

そして後半戦では新曲の「響」も。これがまた沁みるいい曲で、レコーディングしたこのメンバーの生演奏で最後に聴くことができてよかったと思った。

本編の最後は「ピースする」で、最後に竹田くんとお客さんがみんなで高く挙げたピースサインは「平和 (peace)」の思いにも「友人/味方 (friend)」という意味にもここまで共にやりきったことに対する「勝利 (victory)」のVサインのようにも受け取れた。

アンコールを受けて再びステージに戻ってくると、まずは物販紹介のための「ファッションショー」を楽しさいっぱいでキメ、それから拓斗くんが「じゃあ、話すか」と言って、脱退を決めた経緯といまの思い、それからこれからのことを、拓斗くん、藤井くんがそれぞれ真剣に話した。続いて、竹田くんがひとりでウソツキを引き受けて活動していく、その決意と思いを話した。文字に残してニュアンスが微妙に変わって伝わるのは嫌なのでそれはしないけど、3人とも内側に抱えた思いをしっかり丁寧に言葉にしてファンに伝えたのはすごくよかったと思うし、立派だったと思う。またハルカが3人の言葉のあとに「3人とも未来のことばっか話してるから、たぶん大丈夫だと思います(笑)」と言い、そこにいたみんなはきっと救われるようなあたたかな気持ちにもなれて、優しくていいやつだなぁと僕は思ったのだった。

アンコールではさらにもう1曲、新曲の「ギャラクシーロマンス」を初披露し、そして「ダルセニョールの憂鬱」を演奏。藤井くんはこの時点でもしかすると腕の痛みをどうにかおさえながら演奏していたのかもしれないが、しかししばらくはこうしてステージで弾くことはないという思いからか曲の終盤で惜しみなく指を動かした。さらにダブルアンコールがあり、このメンバーでの最後の演奏となる曲は「金星人に恋をした」だった。力を出しきってステージを去るとき、藤井くんが(マイクから離れた場所で)「ありがとう」と口を動かしたのがわかった。

「いいライブだった」なんて言葉じゃ全然言い足りないくらい、いいライブだった。歌も、それぞれの演奏も、いつにも増して力強く、気持ちが入っていた。ああ、本当にいいバンドだな、いい曲ばかりだな、ポップだけどやっぱりウソツキはロックバンドだなと改めて実感した。ひとりひとりに言葉にしきれない複雑な思いがあったことと思うが、とにかくこのツアーを、そしてこのバンドでの最後の夜を、最高に楽しいものにしたいという一致した思いが明確にあったから、こんなにいいライブになったんだなと思う。拓斗くんも藤井くんも、悔いのない演奏ができたに違いない。バンド史上ベストライブと言っていいものだったし、このバンドを好きになってよかったとも改めて思った。

新しい形で再出発するウソツキのこれからに大いに期待している。もちろん夢を諦めずに歩いて行くふたりにも。

それぞれの未来に幸あれ。


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